ランエボやWRXの「ミスファイアリングシステム」とは何だったのか?

ランエボ

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まだWRCのトップカテゴリがグループAだった頃、各車両にはミスファイアリングシステム(アンチラグシステム)という装置が搭載されていました。ミスファイアリングシステムは、ラリーでは非常に役立つのですが、公道では危険ということもあり、付いてはいるものの、無効化されているものがほとんどでした。では、どのような装置だったのでしょうか。
Chapter
ターボの特性
加給したままにするにはどうする?
市販車に付いていないと競技で使えないレギュレーション
様々な名称があるミスファイアリングシステム

ターボの特性

ターボとNAの差。NAエンジンは、回転数に比例してパワーが増大する特性を持っています。単純に言ってしまえば、より高回転であればそれだけパワーも出るのがNAエンジンです。

そのため、NA車でサーキットを走る場合は、エンジンのパワーバンドを維持することが重要になります。また、スロットルを抜いた後は、回転の立ち上がりと上昇がスムーズであることも必要です。

対してターボは、ターボチャージャーが過給している間にパワーが出ます。ターボチャージャーは、排気ガスのエネルギーでタービンのプロペラを回してコンプレッサーを駆動、多くの空気をシリンダーに送り込みます。

そのため、排気ガスのエネルギーが小さいときには、タービンが作動せずパワーも出ません。つまり、コーナーなどでスロットルをオフにしたり、一気に抜いてしまうと、その間はタービンが動作しない状態となり、いわゆる過給の遅れ(ターボラグ)が発生してしまうのです。

一時期流行したシーケンシャルツインターボは、排気ガスのエネルギーが小さいときの低過給を解消するための仕組みとなっています。作動タイミングの異なる2つの過給機を組み合わせることで、排気エネルギーが小さいときの過給を改善するものですが、アクセルオフなどによってターボラグが発生することは変わりません。

加給したままにするにはどうする?

そこで、ミスファイアリングシステム(アンチラグシステム)の出番です。

排気ガスのエネルギー(排圧)は、エンジンの回転数が高いほど上がります。その反面、前述のように一定の排圧を必要とするのがターボチャージャーです。

ミスファイアリングシステムは、タービン直前のエキゾーストマニホールドにインジェクターのような燃料噴射装置を取り付けます。

エキゾーストマニホールドに燃料を噴射すると、エキマニの熱で燃焼が起こり、タービンを回転させることができる装備なのです。実際には、一部の気筒を点火カットして、エキマニ内に流入させた混合気を燃焼させるなどの制御が行われており、ただ燃料噴射すればよいというものでもありません。

このミスファイアリングシステムは、ラリーやダートトライアル、ジムカーナ、ドリフト、車重の重いGTカーに用いられています。

ただし、マフラーから火を噴くアフターファイアが起きたり、乾いたパンパンという大きな音が出たりすることもあったり、何よりエキゾーストマニホールドだけでなく、触媒にもダメージを与えるため、基本的に公道走行用の車両に使用することはありません。

市販車に付いていないと競技で使えないレギュレーション

実際に使わないまでも、ランエボやインプレッサには、ミスファイアリングシステムが搭載されていました。先ほど書いたように、公道では使用しないシステムですが、市販車に装備されていた。なぜなのでしょうか?

それは、グループAという競技車両カテゴリーにヒントがあります。グループAは、市販車をベースに改造を施した車両であることが大前提であり、その改造範囲が狭いことが特徴でした。WRCや、JTCCなどがこのグループAカテゴリの競技です。

このグループAの規定に、ベースとなる市販車に純正装着されていないシステムは競技でも使用できない、という項目があったのです。そのため、各メーカーとも純正状態で車両への装着を余儀なくされたということです。

具体的には、ランサーエボリューション(Ⅲ以降)、ST205セリカ、インプレッサWRX STi(GDB以降)などに採用例があります。

様々な名称があるミスファイアリングシステム

漫画 頭文字Dによって、ミスファイアリングシステムという呼び名が定着したとも言われていますが、実際にミスファイアリングシステムという名称を付けたのはスバルでした。意図的に失火状態を作ることから、ミスファイアリングシステムという名称にしたものと思われます。

そして三菱では「二次エア供給システム」、トヨタでは「アンチラグシステム」と各社異なる呼び名となっているのですが、世界的にはアンチラグシステムが使われています。

スロットルオフでパンパンという乾いた音を響かせるという派手さもあるミスファイアリングシステム。公道では使用不可で、何よりエンジンを傷める可能性のある装備ですが、ターボラグが気になる車両に乗っていると、一度使ってみたいと思わせる魅力がありますね。

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