【プロフェッサー武田の現代自動車哲学論考】第七章:スズキ ジムニー

スズキ ジムニー 2019

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もう10年ほど前のことになるが、神奈川・葉山の市街地にて、新車のごとく綺麗にレストアされた旧いジムニーに遭遇したことがあった。

一見したところ1981~90年に生産された「SJ30系」ないしは「JA71系」と思しきそのジムニーは、リフトアップやタイアの拡大などは一切行われていない、完全なノーマル状態のバン仕様。

しかし、ルーフだけアイヴォリーに塗り分けたモスグリーンのボディに、ルーフと同色のスチールホイールという、なんともクラシカルかつシックな仕立てとされていた。

文・武田 公実

武田 公実|たけだ ひろみ

かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッドで営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、クラシックカー専門店などで勤務ののち、自動車ライターおよびイタリア語翻訳者として活動。また「東京コンクール・デレガンス」、「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントにも参画したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム」ではキュレーションを担当している。

武田 公実
Chapter
ジムニーって、お洒落……?
新型ジムニーの資質について検証
ジムニーの想定を上回る乗りやすさ

ジムニーって、お洒落……?

お洒落な生活のパートナーとなってくれるジムニー

通常は他人のクルマをジロジロと見るような不躾は控えているつもりの筆者ながら、その時はジムニーのあまりのカッコ良さについつい運転席を凝視してしまったところ、「ステキな奥さま」などという言葉を直感的に連想させるような女性が颯爽と運転されていたのだ。

冒頭から、こんな陳腐でつまらない思い出話をつらつらと綴らせていただいたのには理由がある。それは新型ジムニーも、きっとこんな使われ方が似合うに違いない……、と感じられたから。

例えば、往年のルノー・キャトルやフィアット・パンダの日本における使われ方のごとく、お洒落な生活のパートナーとなってくれる小型車の一つになり得るかに見受けられるのだ。

新型ジムニーの資質について検証

しかしこんな私見を述べてしまうと、昨年夏に新型ジムニーがセンセーショナルなデビューを果たしたのと時を同じくして、主にネット界に棲息するようになった「ジムニー原理主義」の方々からは、きっと囂々たる非難の声が上がるに違いあるまい。

曰く「世界に冠たる本格的なクロスカントリー・カーを、街乗りメインに使用するなんて言語道断!」、あるいはファッション性に惹かれたユーザー希望者、特にジムニーを「可愛い」と評する女性たちに対して「シロウトが乗ると痛い目を見る!」などと、まるでしたり顔が透けて見えてきそうなコメントがモニター画面を跳梁跋扈しているようだ。

でも新型ジムニーとは、本当にそこまで硬派一辺倒なクルマなのだろうか?スケジュールの関係上、今回の筆者に許された試乗コースが市街地と高速道路だけに限られたこともあって、今回はシティカーとしての新型ジムニーの資質について、自分なりに検証させていただくこととしたい。

ジムニーの想定を上回る乗りやすさ

今回のテストドライブのために編集部が用意してくれた新型ジムニーは、クリーム色のボディに黒のルーフという2トーンペイントもあって、第一印象からして極めてシック。

一方インテリアは、軽自動車然とした固い樹脂製のパネル、しかも機能主義的な形状でカラーもブラックと、かなり厳めしい印象が強いのだが、同時にスポーツギア感がカッコ良くも映る。

また、試乗車はインフォテイメント系のオプションも豊富だったので、少なくともチープには感じさせなかった。むしろ、もっとボディカラー同色の鉄板がむき出し(実際には樹脂だろうが……)になっている方がさらに魅力的では?とさえ思えたくらいである。

そして街中へと走り出してみると、かつて先代ジムニー(JB23系)に乗った時の記憶からすると「隔世の感」という言葉がピッタリとくるような乗りやすさに感銘を受けることになる。ステアリングはオフロード走行を意識したセットになっているのだろうが、アスファルト上でも充分に軽くて正確である。
また、本格派クロスカントリー・カーのセオリーどおり、前後ともリジッドアクスルとされたサスペンションゆえに、ギャップを斜めに越える際やうねり・轍のある路面では上半身が揺すられることもあるとはいえ、それは同じ軽自動車のハイトワゴン、例えばホンダN-BOXあたりと大差無いものと言えよう。

一方高速道路においては、たしかに横風には要注意であろうが、軽自動車に許される常識的なスピードで走っている限りは、スタビリティにも大きな問題は感じない。

加えて、例えばトルコン式の4速ATがもう少し多段化されていれば、静粛性や燃費などの面でももっと望ましいものとはなるのは間違いのないところだろう。でも、耐久性やコストへの影響を勘案すれば、目を瞑っても良いレベルと思われるのだ。

筆者がクラシックカー取材などで乗る機会のあるルノー4やフィアット・パンダは、もはや数十年も前の基本設計なので、変速機はマニュアルのみ。パワーステアリングの備えもなく、街中でも遥かに手強い乗り味を示すのだが、これらは当然ながら新型ジムニーの比較対象とはならないだろう。

しかし、もしも現代のフィアット500やルノー・トゥインゴなどの欧州製コンパクトカーと比べたとしても、シティユーズでの使い勝手や乗りやすさの点で決定的に劣っているとは思えない。

結局のところ、少なくとも今回の試乗コースでドライブする限りにおいては、昨今ネットで囁かれる「痛い目」を実感することなど、ただの一度として無かったのである。
ボディカラーは、国産車としてはけっこう多めな9色が用意されるとともに、スズキでは初となるグッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)を受賞したという新型ジムニーは、硬軟ともども両立した素敵な一台。それが今回の試乗で得た、筆者の結論である。

だから老若男女を問わず、臆することなく「可愛くてお洒落な生活ツール」としてジムニーを選んでいただいても後悔はないと思う。こんなクルマがパートナーであれば、きっと楽しいカーライフを送ることができるに違いない……、と確信しているのである。
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