みんな、四角いクルマが好きだなぁ…スズキ ジムニー【工藤貴宏の一生モーターボーイ!】

スズキ ジムニー 2019

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「これは人気が出そうだ。」発売の1年も前にメディアを賑わわせたスクープ写真を見てそう直感したが、正直に告白すると、発売するやいなや新型ジムニーがこれほどまでに人気を集めるとは思っていなかった。いや、メーカーのスズキだってここまでの盛り上がりは考えていなかったのだろう。なにせ、デビュー直後の納期は1年待ちとか1年半待ちというレベル。人気が爆発するとわかっていたら、スズキは事前に何らかの対策をとったはずだけど、増産がアナウンスされたのは発売から半年近くたった後なのだから。

文・工藤貴宏

工藤 貴宏|くどう たかひろ

1976年生まれの自動車ライター。クルマ好きが高じて大学在学中から自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。卒業後に自動車専門誌編集部や編集プロダクションを経て、フリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに執筆している。心掛けているのは「そのクルマは誰を幸せにするのか?」だ。現在の愛車はルノー・ルーテシアR.S.トロフィーとディーゼルエンジン搭載のマツダCX-5。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

工藤 貴宏
Chapter
普通の軽自動車ではないジムニー
ジムニーの居住性…後部座席は正直狭い
視認性も運転性もピカイチなジムニー
ジムニーはオフロードを第一に考えた車体構造
新型ジムニーにはある”ロマン”

普通の軽自動車ではないジムニー

それにしても、ジムニーは「エア・ジョーダン」のようなものだ。キーワードは「万人受けではない商品だけど、爆発的ヒット」ということ。

エア・ジョーダンは単なる街歩き用のスニーカーではなくバスケットシューズであり、その時点で必要性を求めて買うターゲットは絞られている。普段履きには機能が高すぎだしハイカットだから脱ぎ履きもしづらい。

そもそも、機能として考えれば日常的に“バッシュ”を履く必要性はまったくないのだ。だけど、当時のオシャレな若者は好んで履いた。バスケットボールなんてしなくたって。シューズではなくクルマだが、ジムニーにも共通する商品としての特徴を感じる。まず、普段使いではデメリットが多いのだ。

ジムニーの居住性…後部座席は正直狭い

パッケージングは、狭い車体サイズながら驚くほど広い居住スペースを実現している今どきの多くの軽自動車と違って、異常なほどに狭くて実用性がない。ボンネットが長すぎることの影響で後席は狭く、そもそも後席ドアがないからリヤシートは使いにくすぎる。日常的に後席を使うユーザーはこの時点で“縁なし”だ。

ドア開口部下端や着座位置が高いから乗り降りだってスムーズではないし、走り出したら走り出したで騒音だって大きい(旧型に比べると雲泥の差でマシだけど)。80km/hを超えるレベルになってくるとエンジン音とトランスミッションから発生する音が一段とうるさくなるうえに、悪路走破性を重視した車体構造ゆえに乗り心地だって褒められる水準とはいえないから高速巡行はできれば避けたい(本当に疲れる)。

しかも、燃費だってよくはないし、価格も高い。ウィークポイントを出すのにこんなに困らないクルマは珍しいと思えるほどだ。

視認性も運転性もピカイチなジムニー

しかし、これだけ文句をつけておいてなんだが、単なるダメグルマではないのがジムニーのさすがなところ。商品性の高さと言い換えてもいいだろう。

まず素晴らしいのは、とても運転しやすいことだ。車体が小さいうえに視界は広く(前方はもちろん斜め後ろの視認性もすこぶるいい)、四角い車体形状だから車体の四隅が手に取るようにわかる。これは街乗りや駐車に加え、狭いオフロードを走るのにも大きな武器だ。

そしてなにより、ジムニーは本格派だという事。オフロード走破性は本格的なクロスカントリーカーと同等以上で、車体の小ささと相まって「ジムニーでなければいけない場所」が地球上にはたくさんある。きわめて過酷な場所へ行ける、世界中のクルマの中でもごく限られた1台なのだ。

ジムニーはオフロードを第一に考えた車体構造

その秘密はオフロード走行を第一に考えた車体構造やサスペンション、そして駆動系のメカニズム。

車体はなんと一般的な乗用車に用いられる「モノコック」ではなく、強靭さを求めたラダーフレーム構造で専用設計。そこへエンジンを縦置きし、副変速機を備えた機械式のトランスファーを組み合わせた4WDシステムを搭載するなど、作りは本格的なオフローダーそのものなのが凄い。SUV風に仕立てた軽自動車ではなく、軽自動車のサイズで作った本格オフロードカーなのである。

万人向けではないけれど徹底的に凝っていて、ビシッと筋が通っているところ。それがジムニーの道具的な魅力なのだ。

ただ、いくら本格とはいっても、それがイコール商品の魅力を完成させるわけではない。本格的なだけなら「マニア向けの商品」で終了である。新型ジムニーが人気を得た秘密は、個性があふれつつも、多くの人が共感できる雰囲気を持っていることにある。

ひとことでいえば、新型ジムニーはノスタルジックだ。先祖返りした四角いボディ+丸型ライトが特徴だが、クラシカルなのはそれだけでなく、メーターまわりも懐かしい雰囲気。デジタル化の流れに逆らって大きなアナログメーターを箱に埋め込んだデザインとしているが、パネルにはダミーのボルトを模るなどさりげなく徹底的に凝っているのだ。

こういったデザイナーの想いが、新型ジムニー人気を作り上げたといっても過言ではない。

新型ジムニーにはある”ロマン”

そしてなにより、新型ジムニーにはロマンがある。高い悪路走破性が自慢だが、買う人みんながそれを求めているわけではない。むしろその存在感や筋の通ったクルマ作り、そして何より独特の雰囲気に魅力を感じているのだ。

「ゴツいオフローダー」というファッションとして惹かれるのである。「エア・ジョーダン」だって機能性に優れたスポーツアイテムだけど、買った人のほとんどはバスケットをするために履くわけではない。あくまでもファッションなのだ。

いいじゃないか、欠点が多くたって。実用性が低くて、高速走行が苦手だって。高い悪路走破性が一般ユーザーには宝の持ち腐れすぎたとしたって。それを上回る魅力があるのだから。 

もっとも、オフロードカーの世界にはこんな売れ方をするモデルがいくつか存在する。クラシカル(というかクラシック)なデザインに、本格的なオフロード用のメカニズムを組み合わせたランドローバー「ディフェンダー」やメルセデス・ベンツ「Gクラス」だ。

ジムニーは、ジャパニーズ「ディフェンダー」であり、身近な「Gクラス」なのである。

それにしても、みんな本当に四角いクルマが好きだなぁ。
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