小沢コージのものくろメッセ その2「安全第一」が日本とクルマをダメにする?

アヘッド ものくろメッセ

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事故はもちろん地震カミナリ火事親父。なにかと「みなさまの安全を守るために」とか「安全第一で」という言葉が返ってくる日本。日常生活はもちろん、特に自動車界では「安全」の二文字はなにより大切とされ、金科玉条のように繰り返されている。最近の「ぶつからない機能」である、エマージェンシーブレーキの普及はいい例だ。

text:小沢コージ [aheadアーカイブス vol.138 2014年5月号]

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その2「安全第一」が日本とクルマをダメにする?

その2「安全第一」が日本とクルマをダメにする?

だが、私は日頃から疑問に思っていたのだ。「安全第一」は本当なのかと。

そもそも人生は全然安全第一じゃない。常にリスクと隣り合わせだからいろいろ起こるし、楽しくもなり、危険にもなる。そして人は時にリスクを顧みずになにかにトライする。というかそれがなければマトモな人生にならない。そんなことは普通の大人ならば誰でも分かっているはずなのだ。

しかし、そんなことはなかった。その昔、ドイツに30年以上住んでいた人の話だが、彼は以前やっていた駐在員家族向けのネイチャースクールをパタっとやめた。カリキュラムを見た、とある日本人ママの一言でだ。

「木登り、させるんですか?」 
「はい」 
「木登り、落ちますよね」
「ほとんどないですが…」 
「木から落ちたら死にますよね」 
「はぁ…」 
「やめさせてください」。

これがモンスターペアレンツとして片づけばいい。だが無理で、その人はその日を境に意義を失い、ネイチャースクールをやめてしまった。なんともったいない。
 
なぜ木登りをするのか? 楽しいから…が本当だが別の意味もある。「人生は危険だらけだからだ」。このお母さんは分かっているのだろうか? 自分の子供がこれからいろんな危険に飛び込まなければいけないことを。安全第一、確かに結構。だが、人は階段で滑って死ぬこともある。

また「悪い友達と付き合うのをやめなさい」という言葉がある。だが、私はよほど無防備な子ならともかく、構わないと思う。世の中クチだけが達者なヤツ、ウソ付きなんて沢山いる。逆にそういう例に、若い頃から触れて本能を磨いた方がいい。

人生の本質はリスクマネージメントであり、行き着く先は運不運である。もちろん最小限のリスクで最大限の幸福や価値を得るのが賢いのだろうが、そうそう上手くはいかない。リスクも快楽もやってみなければわからないし、何が自分に合うかもわからない。結局、直感を磨くしかないのだ。

恋愛がいい例だ。恋愛は甘くない。相当、難しい。相手が自分に合っているか分からず、機会を逃す人も多いらしいが、恋愛の本質は博打なのだ。昔、とある美人に聞いた話で、安全でいいひとと、ちょっと危険な面白い男がいたら、大抵後者を選ぶと言っていた。その人の鼻は微妙に曲がっていた。ダメな男に殴られた経験があるからだ。でもまあ、そんなもんだと思った。

最初っから危険に触れさせないという考えもある。だが、それだと本能が磨けないし、借り物人生になってしまう。

果たして自動車やバイクだが、リスクと快楽の境目を判断させるに、これ以上良い道具もない。だが、頭っからこれを危険と否定する人も多い。つくづく、日本がクルマから離れていく理由がよく分かる。

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text:小沢コージ/Koji Ozawa
雑誌、ウェブ、ラジオなどで活躍中の “バラエティ自動車ジャーナリスト”。自動車メーカーを経て二玄社に入社、『NAVI』の編集に携わる。現在は『ベストカー』『日経トレンディネット』などに連載を持つ。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、トヨタ iQなど。
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