Rolling 40's Vol.60 レーサーになろう

Vol.60 レーサーになろう

Rolling

テレビ「巨人の星」を観てプロ野球選手になろうと思う子供のレベルの話だが、気持ちだけはそれなりに本気でもあり、なりたい職業はと聞かれたときは、必ずプロレーサーだと答えるようにしていた。二輪四輪どちらかと聞かれたときは、どっちも走ると言った。

しかしアングラ劇団という超文科系の家業だった私の家で、レースに関係した職業の方は誰もおらず、それがどんな世界なのか、どんな試練を要するのか分かるはずもなかった。

夢ばかり広がる中で16歳を迎え、4月生まれの私は当然のようにイの一番で二輪免許を取得する。そしてバイクのレースを始めると親に宣言。

言い出すと後は誰の言うことも聞かないガキだったので、親は相当に心配したようである。

そして手に入れたマシンはヤマハのオフロードの200㏄バイクだった。どうしてオフロードかというと、当時、劇団員であった若き日の「六平直政氏」が、座長である私の親に、オフロードレースだったらロードよりも危険はないと進言したことが始まりだ。

ここから私の河原モトクロス修業が始まる。今でこそ「ダメ絶対」であるが、当時の多摩川の河川敷は、法律の抜け目で警察が交通違反として取締りが出来ず、手作りのモトクロス場があちこちにあるような「修羅の国」であった。

これが良いことなのか悪いことなのかは今の時代から判断をするのは無意味だと思う。実際の当時の風景は、家族連れでモトクロスを楽しんでいるような和やかなものであり、それを自転車で通りかかった警察官も眺めていた。良くも悪くも30年前の昭和の「大らかな」時代ということである。

家から20分ということもあり、私はそこで週2回は練習をするようになった。若いこともあり、誰に教わるでもなく、見よう見まねであっという間にそこそこに乗れるようになり、ウィリーなども100メートルくらいは普通にできるようになった。

このまま上手くなっていけばプロレーサーも夢ではないなどと子供ながらに夢想し始めた頃である。いつものように河原モトクロスの修業をしていると、親に80㏄のモトクロッサーを持ってきて貰っている、中学生と思われる少年がやって来た。

少し天狗になり始めていた16歳の私は当然のように、その「若輩者」に対して勝負を挑み始める。しかしその少年は後からわかるのだが、すでにジュニアモトクロスの全日本にも出ているような猛者で、当然のごとく話にならない勝負となった。反対に彼が目の前で見せるスピードに恐怖を感じた程であった。圧倒的に違う何かをハッキリと見せつけられた瞬間…。この挫折は相当にこたえた。

時間は過ぎ、そんな少年はやはり親の後を追うように芸能の世界にドップリと入り込み、良い時も悪い時も経験しながら45歳となる。乗り物好きは変わらないまでも、流石にもうプロレーサーを夢見ることなくなった。

しかし反対に本誌のようなメディアに関わっているゆえに、二輪四輪を問わずプロレーサーの知人は多くなった。中には意気投合し、個人的にツーリングに行ったり、焼き鳥屋で飲み倒したりする仲になった方もいる。

そんな方たちは、言ってみれば30年前に河原で私を稲妻のように抜き去った中学生の延長線上の果ての果て。

酒など入ると、つい30年前の「無念」を晴らすかのように、彼らの生き様について深く尋ねてしまうことがある。

「スピードの先に何を見ているのか」

しかし不思議なことに、彼らから私が求めるよな「文科系」の答えを得られたことは一度もない。いつも肩透かしを食らうというか、論議にさえならない。ただ話の外輪から感じるのはマグマのような競争心だ。

あるレース関係者から聞かされた言葉がある。

「あいつらはバイクが好きな訳じゃなく、ただ、ハイスピードな競争が好きなだけ。だから引退すると大抵はバイクにも乗らない」

一度だけ、仲の良い元トップ二輪レーサーの方に逆に質問をされたことがある。

「人前で芝居をしたり、物語を考えたりするのは、どういう気分ですか」

あらためて聞かれて絶句した。マスコミ対応の常套句以外で、仲間に対して誠実に答える回答を私は持っていない。30年近く芸能で七転八倒していながら、ハッキリとした指針を持っていないのだ。

しかし、しばらく考えた揚句に頭の片隅に落ちていた答えは、プロレーサーの方たちに感じた「競争心」だった。結局私も「競走馬」なのである。芝居が好きな訳ではなく、その世界で走り続けていたいだけなのかもしれない。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968

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