Rolling 40's Vol.62 究極の軽自動車

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スズキの軽自動車の660㏄ターボエンジンを積み込んだ究極のスポーツカーが売り出されるらしい。しかしメーカーはスズキではない。ケータハム(Caterham)という英国のスポーツカーメーカーである。

text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.132 2013年11月号]
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Vol.62 究極の軽自動車

Vol.62 究極の軽自動車

同社がスズキの軽自動車ターボエンジンを採用するというのはメーカー発表の段階だが、そのエンジンに目を付けたケータハムは流石である。

軽自動車の660㏄ターボエンジンというのは、まさに日本のガラクタ行政が生み出したガラパゴス進化の副産物であり、世界的に見ると特異な進化であるという。

「マルチシリンダー660㏄というオートバイのようなエンジンに、DOHC、直噴インタークーラー付ターボ」

こんな幕の内懐石弁当みたいなエンジンは、アメリカメーカーなどは絶対に作れない。反対にフォルクスワーゲンなどはその技術を盗もうと画策しているともいう。

冷静に考えると、こんな夢のようなエンジンが当たり前のように軽トラやミニワゴンに積まれているのだから、軽自動車というモノは、実はかなり不思議なのである。

年齢のせいか、こういう小さなモンスター的なスポーツカーが気になって仕方がない。ホンダが軽の2シーターミッドシップを出すとの情報もあるが、軽自動車という縛りの中では、驚くような魅力を持つクルマが生まれるとは期待できない。

少しクルマ好きでないと知らない方も多いケータハムというメーカー。レーシングカーにライトとウィンカーとナンバーを取り付けただけとも評されるようなクルマしか売っていない。

この手のバックヤードビルダーと呼ばれる特殊な自動車メーカーは、その名の通り裏庭工場といった意味で、小規模な自動車メーカー、あるいは本当に裏庭でオリジナルのクルマを製作することなどを言うときに使われる。

自動車レースが文化でもあるイギリスでは、古くからこのようなキットカーを購入して自分で組み立てる自動車との文化的関わりがあり、ケータハムのような職人が1台1台手作りで生産する少量生産の自動車メーカーが多数存在する。初期のロータスなどがとくに有名だが、エコや安全性重視という時代の変化に耐えながら、今なおイギリスにはバックヤードビルダーがある。

日本では法律的なこともあり、この手のメーカーが存在することは夢見ることさえ許されないが、私のような乗り物パラノイアからすると、心の底から羨ましい。

モータースポーツが文化として古くから確立しているイギリスゆえなのは分かり切ったことだが、自分の作ったクルマ、または自分のオリジナルのままのクルマで走り回るということが法的にタブーとなっている日本の幼児性というのは「如何なものか」と常々不条理に感じている。

確かに事故が起きた時などの責任問題という観点からの「縛り」は理解できる。だがロクな整備もされていない乗りっぱなしのノーマルカーと、マニアの拘りの粋を集めたその手のクルマ、どちらが安全かは分かり切ったことである。

実は私は二輪に限っては、自分でブレーキのオーバーホールくらいはする。ブレーキ等の重要保安部品は自分はもちろん他人の命に直結するので、他人のモノは作業に関する整備士資格がないと「反復・有料」で行ってはいけないのだが、自分のモノを自分で整備することに関しては法的にも自己責任で問題ない。

トルクレンチやブレーキ液の電動バキュームなどという、プロの整備士が使うようなそれ相応の工具も持っているし、整備後は何度も作動テストしてから走り出す。実はこれ、高校生のときからやっていることなので私としては至極普通のことである。

しかし普通の方にこの話をすると他人に迷惑をかける可能性もありそんなことは「とんでもない」と御叱りを受けることもある。そんなとき私は、ブレーキの構造も知らず、2年に一度車検を受けるだけで後は放置プレイの人の方が「とんでもない」と倍返しをすることにしている。

私からするとブレーキパッドの残量やフルードの劣化をチェックもせずに乗っている「世間一般」の善良な市民の方が犯罪的であり恐ろしいと思う。昨今のクルマはブレーキパッドが減ってくると警告灯が付くようになっているが、実はこの警告システム、故障している可能性が多いということを大抵の方は知らない。

車検という悪法に甘えきっている日本らしい話であるが、そんな土壌にイギリスのようなバックヤードビルダーが生まれる訳もなく、前記したスズキの軽自動車ターボエンジンを使った究極のスポーツカーのような「夢」を国産で見ることは無理である。

それらイギリスなどのバックヤードビルダー製を大枚はたいて買えば済む話ではあるが、それではどこか自分で作った感がなく、金持ちの道楽の匂いがしてしまう。

自分で一から組み立てたクルマで走り回るというのは、乗り物好きの男子なら誰でも一度は夢見ることだが、なかなか夢の中から出てこられないのが現実だ。

なので仕方なしに深夜にケータハムの中古をネットで探してしまう、中年男子であった。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。
本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
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