購入して10年乗った3.2L 6気筒エンジンMTの2002年式ポルシェ ボクスターSが教えてくれたこと…オーナーレビュー
更新日:2024.09.09
※この記事には広告が含まれます
そう思ったのは、30歳を少し超えたころである。新車で買ったS15型日産シルビアを手放してから1年ちょっと。やはりスポーツカーがない生活に我慢できず、スポーツカー購入を決意した。人生は楽しいスポーツカーがないとさみしいものだ。せっかくだから実用性は無視し、狙いをオープンスポーツカーに絞ってクルマ選びを始めた。
文/写真・工藤貴宏
文/写真・工藤貴宏
ホンダ S2000と迷うもポルシェ ボクスターSが勝った
迷ったのはホンダS2000。その当時、ホンダS2000はその末期となるモデルがまだ新車で購入でき、新車価格が“5年落ちのポルシェ・ボクスターS”と同じくらいだった。
大いに迷ったが、これを逃すと人生でポルシェを買える次のチャンスがいつ訪れるかわからないと思ってポルシェを選択。こうして2002年式ボクスターSのオーナーとなった。
色は定番のシルバー。左ハンドルのMTという仕様だ。1万6000キロという走行距離は5年落ちの割にはとても少なく、真偽は確認のしようはないが購入した店舗のスタッフによると「セカンドカーとして使われていたクルマ」とのことで、幌の状態がよくヘッドライトに一切の曇りがないことからも屋内保管を感じさせた。
ちょっと小難しく言えば、ポルシェを選んだ理由は「ポルシェはスポーツカー専業メーカーであり、世界中のスポーツカーの基準」だからだ。
気が付けばポルシェはスポーツカー専業メーカーではなくなってしまったけれど、先日デビューしたトヨタ・スープラでも「ベンチマークはポルシェ・ケイマン」と開発者が断言するように、多くのスポーツカーにとってポルシェは基準であり、目標である。
駆け出しの自動車ライターだった僕にとって、そんな“基準”を実際に所有することはとても大切だと思えたのだ。
でも、そんな理屈は車両が手元に来てしまえばどうでもいい。3.2L自然吸気の水平対向6気筒エンジンは、S2000の超高回転エンジンと違って吹け上がりの軽快感とか高回転域の爽快感はないけれど、いかにも緻密な機械を感じさせる金属音を奏でながら味のあるフィーリングを提供してくれた。
アクセルを踏む右足を通じてエンジンと対話する感覚がとても楽しく、街中をゆっくりと走る時でもクルマを操る感覚が強い。
ハンドリングはミッドシップだからと言って極端にクイックということもなく、いっぽうでドライバーを中心に曲がっていく様子が心地いい。しかも、気候のいい日はオープンだって楽しめる。クルマは屋根がないだけで楽しくなることをあらためて教えてくれた。
使い勝手の良さは"意外な誤算"
意外だったのは、思っていた以上に実用性が高いことだ。ボクスターはフロントとリヤの2か所にラゲッジスペースがあって、リヤは60Lサイズのスーツケースなら積載できる(エンジンの発熱で熱くなるから注意だけど)。
それから3.2Lエンジンはトルクが厚く、ズボラならシフト操作が可能。ボクは1速から3速、そして5速という“飛ばし”のシフトチェンジを日常的にしていた。
そして驚いたのは、やたらと丈夫だったことだ。
5年落ちを購入して10年間、走行距離はオドメーターが4万キロになるまで約2万4000キロを乗ったが、消耗品以外で交換したのはキーシリンダー内部の部品とライトスイッチのみ。
キーシリンダーに関してはこのクルマの持病(設計上のウィークポイントで壊れる前にDIYで交換した)だから仕方がないとして、それ以外にはライトスイッチしか壊れなかったのだからドイツ車の品質恐るべしである。
ただ、ディーラーのスタッフには「それは珍しいですね」と言われたので、いわゆる「アタリ」の個体だったのだろう。
やっぱり気を使うのは、幌の劣化
逆にウィークポイントは、まず幌のリヤウインドウがビニールなので気を遣うこと。紫外線で劣化しないように保管場所を屋根付きガレージにするのはもちろんのこと、畳む際にも変な折れ方をしないようにする、寒いときは温まってから幌を開ける、など破れないように細心の注意を求められた。これはちょっと面倒くさい。
あとはエンジンオイル交換時に、オイルをたくさん飲むのでオイル代が高いこと。8.3Lも飲んでしまう上に、高いオイルを求めるのだから贅沢なクルマだ。
ボクはそんなボクスターSが大好きでゾッコンだったが、手放そうと思った理由は「そろそろ大きな部分が壊れるかも」という危機をひしひしと感じるようになったからだ。具体的にはエンジンが心配になってきたのである。エンジンオイルの滲み以外にそれらしい兆候はなかったけれど、エンジンが壊れたらダメージが大きい。買取価格も下がってしまう。そこで、手放すことを決意したのである。
15年落ちのクルマに70万円の価格が付いたのは、さすがポルシェ(もし911だったらさらにとんでもない価格になっていたのに!)。いずれにしろ10年付き合ったボクスターSはボクにいろんなことを教えてくれた。クルマの楽しさとはなにか?スポーツカーの理想とはなにか?クルマ作りのこだわりとはいったいどんなことなのか?
機会があれば進化したボクスターを味わいたいとは思っているけれど、果たしてその日が来るだろうか。
工藤貴宏|TAKAHIRO KUDO
1976年生まれの自動車ライター。クルマ好きが高じて大学在学中から自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。卒業後に自動車専門誌編集部や編集プロダクションを経て、フリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに執筆している。心掛けているのは「そのクルマは誰を幸せにするのか?」だ。現在の愛車はルノー・ルーテシアR.S.トロフィーとディーゼルエンジン搭載のマツダCX-5。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
【愛車紹介】モータージャーナリスト飯田裕子さんの2台目ポルシェ ボクスター…ボクちゃんと名付けるほど溺愛❤️1台目ボクスターとの悲劇的なお別れ事件と共にご紹介!