約2年1万キロ走ってわかった ルノー ルーテシアR.Sを徹底レビュー!特別なクルマ、だけどリーズナブル
更新日:2024.09.09
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ちょうど2年前の春、10年乗ったポルシェ・ボクスターSを手放した僕はフランス製の特別なハッチバックを手に入れることになった。それが「ルノー・ルーテシアR.S.」。それから共に過ごした2年間で感じたことをお届けしよう。
文/写真・工藤貴宏
文/写真・工藤貴宏
クラスメイトへの恋のように出会ったルーテシアR.S.
クルマを探し始めた当初は、それまで乗っていたボクスターのように後輪駆動でMTの2シーターオープンを買おうと思っていた。ボクのクルマ生活は2台持ちでそのうち1台は実用車(ルーテシア購入時はマツダ・プレマシーでその後CX-5に乗り換えた)だから、2台目の車は趣味車に徹し、実用性など考えずに走りや気持ちよさだけで選ぶようにしている。
そんな環境もあって2シーターオープンカーで何ら不満はなかったからだ。それよりも、走って楽しいことや運転すると元気が出ることが重要である。
ところが、ふと中古車検索サイトを見ていたらルーテシアR.S.が急浮上してきた。それまで何度か乗って楽しいクルマだなとは思っていたけれど、自分で所有することまでは考えたこともなかった。しかし、気が付くと車両を絞り、販売店に連絡を入れていた。
それはまるで、ずっと近くにいる女性への突然はじまった恋のようなものかもしれない。中学や高校の時、クラスメイトのひとりでそれまで全く興味のなかった異性にふと恋心が芽生えたような心境だ。
中古車検索サイトで探した購入候補は、登録から半年が経過し走行1000kmという個体。「いちおう実車を確認する」程度の感覚で、クルマを1時間半ほど走らせて向かった販売店で、気が付いたらあとはハンコを押すだけの状態になってしまった。
そんな環境もあって2シーターオープンカーで何ら不満はなかったからだ。それよりも、走って楽しいことや運転すると元気が出ることが重要である。
ところが、ふと中古車検索サイトを見ていたらルーテシアR.S.が急浮上してきた。それまで何度か乗って楽しいクルマだなとは思っていたけれど、自分で所有することまでは考えたこともなかった。しかし、気が付くと車両を絞り、販売店に連絡を入れていた。
それはまるで、ずっと近くにいる女性への突然はじまった恋のようなものかもしれない。中学や高校の時、クラスメイトのひとりでそれまで全く興味のなかった異性にふと恋心が芽生えたような心境だ。
中古車検索サイトで探した購入候補は、登録から半年が経過し走行1000kmという個体。「いちおう実車を確認する」程度の感覚で、クルマを1時間半ほど走らせて向かった販売店で、気が付いたらあとはハンコを押すだけの状態になってしまった。
ルーテシアR.S.は特別なクルマ、だけどリーズナブル
ルーテシアR.S.には「シャシースポール」「シャシーカップ」そして「トロフィー」という3つの仕様があり、後者になるほど仕様がハードになる。サスペンションが硬くなり、トロフィーではステアリングギヤ比がクイックになったり、エンジンパワーも220馬力までアップしている。一般道走行なら「シャシースポール」で十分。
そんなことは頭では理解している。だけどせっかく特別なクルマを買うのだから……。「毒を食わらば……」の精神でいちばん過激な仕様を選んでしまった(毒サソリのアバルトじゃないんだから、ちょっと言葉の使い方を間違っている気もするけど)。硬いサスペンションのせいで乗り心地はちょっと(いやかなり?)よくないけれど、そんなことは気にしても仕方がない。
そんなことは頭では理解している。だけどせっかく特別なクルマを買うのだから……。「毒を食わらば……」の精神でいちばん過激な仕様を選んでしまった(毒サソリのアバルトじゃないんだから、ちょっと言葉の使い方を間違っている気もするけど)。硬いサスペンションのせいで乗り心地はちょっと(いやかなり?)よくないけれど、そんなことは気にしても仕方がない。
コンパクトハッチバックのルーテシアは、欧州でゴルフに続いて2番目に売れている人気車だ。Bセグメントではトップセラーである。
しかし、「R.S.」は似ているけれどそれとは別物。ルノーのモータースポーツ部門である「ルノースポール」が徹底的にチューニングした、日産GT-Rでいえば「GT-R NISMO」、トヨタ86でいえば「86 GRMN」のようなもの。エンジンは標準車に設定のない1.6Lターボ(なんと日産横浜工場製!)を組み合わせ、車体組み立てはルノーの工場ではなくルノースポールの工場にある専用ラインで、レーシングカー製造の脇で職人の手でおこなわれている。
そんな特別なクルマが、新車でも300万円強から選べるのだからとんでもないことである。今にして思えば、そんなバックストーリーも、このクルマに惹かれた理由のひとつかもしれない。
しかし、「R.S.」は似ているけれどそれとは別物。ルノーのモータースポーツ部門である「ルノースポール」が徹底的にチューニングした、日産GT-Rでいえば「GT-R NISMO」、トヨタ86でいえば「86 GRMN」のようなもの。エンジンは標準車に設定のない1.6Lターボ(なんと日産横浜工場製!)を組み合わせ、車体組み立てはルノーの工場ではなくルノースポールの工場にある専用ラインで、レーシングカー製造の脇で職人の手でおこなわれている。
そんな特別なクルマが、新車でも300万円強から選べるのだからとんでもないことである。今にして思えば、そんなバックストーリーも、このクルマに惹かれた理由のひとつかもしれない。
マニュアルではない。だけど運転が楽しい。
サーキット走行を中心に考えたスポーツカーのルーテシアR.S.だけど、意外なことにトランスッションはMTが選べない。昨年登場したピュアスポーツカーの「アルピーヌA110」もそうだが、DCTしか選べないのだ。MT派としてここは購入時に大いに悩んだが、ないものは仕方がない。受け入れることにした。
ルノースポールとしては「ハンドリングが楽しいから、ギヤチェンジなんかしていないで曲がる歓びを堪能しなさい」ということなのだろう。
DCTはノーマルモードだと「あれっ?」と思うほどルーズだが、スイッチを押して「R.S.」や「マニュアル」モードにするとバシュッ、バシュッとシフトアップもダウンもズバズバと決まっていく。そもそもMTのシフトアップ/ダウンは速度も遅いしシフトミスにもつながるので、現在では速く走るためのトランスミッションではない。そういう意味では、2ペダルのスポーツカーは理にかなっているのは間違いない。
日常はもちろん、峠道でもサーキットでも、気が付けば「やっぱりMTのほうがよかった」という後悔は感じることがなかった。
サーキットなどで全開加速をすると、素早いシフトアップと同時に排気管から「バババッ」という今どきのスポーツカーらしい音が聞こえてきてテンションを上げてくれる。そんな演出の巧みさも、さすがルノースポールだ。
ルノースポールとしては「ハンドリングが楽しいから、ギヤチェンジなんかしていないで曲がる歓びを堪能しなさい」ということなのだろう。
DCTはノーマルモードだと「あれっ?」と思うほどルーズだが、スイッチを押して「R.S.」や「マニュアル」モードにするとバシュッ、バシュッとシフトアップもダウンもズバズバと決まっていく。そもそもMTのシフトアップ/ダウンは速度も遅いしシフトミスにもつながるので、現在では速く走るためのトランスミッションではない。そういう意味では、2ペダルのスポーツカーは理にかなっているのは間違いない。
日常はもちろん、峠道でもサーキットでも、気が付けば「やっぱりMTのほうがよかった」という後悔は感じることがなかった。
サーキットなどで全開加速をすると、素早いシフトアップと同時に排気管から「バババッ」という今どきのスポーツカーらしい音が聞こえてきてテンションを上げてくれる。そんな演出の巧みさも、さすがルノースポールだ。
曲がることが本当に楽しい
運転していて感じるルーテシアR.S.の真骨頂は、なんといっても旋回中だ。このクルマは本当に曲がるのが楽しい。ハンドルを切り始めるとドライバーの思い通りにスッと向きを変え、鋭い刃物のようにシャープに切り込んでいく。
そして旋回中は「アンダーステア」などという言葉とは無縁で、ライントレース性のよさはどこまでも曲がっていきたくなるほどだ。その時の爽快感と言ったら、地球上の多くのクルマでは体験できない領域と断言できる。峠道を走っていると、コーナリングが終わって直線になるのが残念で仕方がないほどだ。
もちろん、サーキットを走らせても驚くほどのコーナリング速度で回りを驚かせる実力である。
そして旋回中は「アンダーステア」などという言葉とは無縁で、ライントレース性のよさはどこまでも曲がっていきたくなるほどだ。その時の爽快感と言ったら、地球上の多くのクルマでは体験できない領域と断言できる。峠道を走っていると、コーナリングが終わって直線になるのが残念で仕方がないほどだ。
もちろん、サーキットを走らせても驚くほどのコーナリング速度で回りを驚かせる実力である。
時には、サーキット走行も
ルーテシアR.S.「トロフィー」の本拠地はサーキットである。だから、このクルマと過ごすようになってからはプライベートでもサーキットへ行くようになった。
後輪駆動車を乗り継いでいたころは、FFでサーキットを走っても楽しくないと思っていた。しかし、それは間違っていた。それに気づかせてくれたのも、ルーテシアR.S.だ。
220馬力というのは、ボクにとって自分でクルマをコントロールするのにちょうどいいパワー感である。これより少ないと物足りないだろうし、これ以上あってもボクには扱いきれないし、アクセルを全開にする喜びをほんの短時間しか味わえない。
サーキットを走ってみて感じたのは、スタビリティコントロールの味付けの巧みさだ。スポーツ走行を視野に入れてプログラムされたスタビリティコントロールは、サーキット走行をしても介入は最小限。しかもさりげなくドライバーに分かりにくいように作動するから、オンにしていることを忘れてしまうほどである。もちろん、自分の腕を完全に試したいと思えば「マニュアル」モードにすることですべての介入をキャンセルできる。
後輪駆動車を乗り継いでいたころは、FFでサーキットを走っても楽しくないと思っていた。しかし、それは間違っていた。それに気づかせてくれたのも、ルーテシアR.S.だ。
220馬力というのは、ボクにとって自分でクルマをコントロールするのにちょうどいいパワー感である。これより少ないと物足りないだろうし、これ以上あってもボクには扱いきれないし、アクセルを全開にする喜びをほんの短時間しか味わえない。
サーキットを走ってみて感じたのは、スタビリティコントロールの味付けの巧みさだ。スポーツ走行を視野に入れてプログラムされたスタビリティコントロールは、サーキット走行をしても介入は最小限。しかもさりげなくドライバーに分かりにくいように作動するから、オンにしていることを忘れてしまうほどである。もちろん、自分の腕を完全に試したいと思えば「マニュアル」モードにすることですべての介入をキャンセルできる。
実用性は十分。リヤドアも付いている
いっぽうで、スポーツ走行は忘れて日常生活でのパートナーとしての素質はどうだろうか。結論から言うと、かなり「使えるヤツ」だ。
そもそも乗り換え前の2シータースポーツカーに比べるとリヤシートが付いているというだけで便利だし、そのうえリヤドアまで備わるのだから文句ない。荷物だってたくさん積めるから、「4人でキャンプやスノーボードに出かける」というシーンでなければファミリーカーとして使っても困らないだろう。
5ドア+2ペダルの組み合わせは、「平日は奥様がクルマを運転するファミリー」でも何の障害もなく購入できる。それでいて峠道やサーキットでは胸のすく走りをみせるスポーツカーに変身するのだから、たいしたクルマだ。
そもそも乗り換え前の2シータースポーツカーに比べるとリヤシートが付いているというだけで便利だし、そのうえリヤドアまで備わるのだから文句ない。荷物だってたくさん積めるから、「4人でキャンプやスノーボードに出かける」というシーンでなければファミリーカーとして使っても困らないだろう。
5ドア+2ペダルの組み合わせは、「平日は奥様がクルマを運転するファミリー」でも何の障害もなく購入できる。それでいて峠道やサーキットでは胸のすく走りをみせるスポーツカーに変身するのだから、たいしたクルマだ。
約1万キロ走ってトラブルは特になし
新車登録から2年半、購入してからは2年。セカンドカーということもあって走行距離は1万キロを超えたところだが、初期トラブルも含めて故障などは一切ない。走行距離も伸びないので、走行5000kmを超えてからはエンジンオイルの交換も1回しかしていないほどだ。
ただ、予想外だったのはタイヤ代。サーキットを走るとタイヤが減るが、標準装着の205/40R18というサイズは珍しいから銘柄の選択肢があまりない。醍醐味でもあるハンドリングのバランスを壊したくないので新車装着銘柄である「ミシュラン パイロットスーパースポーツ」に履き替えると、ディーラーで取り寄せると1本約5万円と驚くほどのお値段である。
街のタイヤショップや通信販売を利用するとそれよりは安く済むが、とはいっても財布へのダメージはかなりのもの。
とはいえ、好きで好きでたまらない彼女なら、プレゼント代やオシャレな洋服代が高くついても、多少大食いで食費がかかろうとも、ウィークポイントにはならないだろう。仕方がないよ、惚れちゃったんだからさ。
ただ、予想外だったのはタイヤ代。サーキットを走るとタイヤが減るが、標準装着の205/40R18というサイズは珍しいから銘柄の選択肢があまりない。醍醐味でもあるハンドリングのバランスを壊したくないので新車装着銘柄である「ミシュラン パイロットスーパースポーツ」に履き替えると、ディーラーで取り寄せると1本約5万円と驚くほどのお値段である。
街のタイヤショップや通信販売を利用するとそれよりは安く済むが、とはいっても財布へのダメージはかなりのもの。
とはいえ、好きで好きでたまらない彼女なら、プレゼント代やオシャレな洋服代が高くついても、多少大食いで食費がかかろうとも、ウィークポイントにはならないだろう。仕方がないよ、惚れちゃったんだからさ。
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工藤貴宏|TAKAHIRO KUDO
1976年生まれの自動車ライター。クルマ好きが高じて大学在学中から自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。卒業後に自動車専門誌編集部や編集プロダクションを経て、フリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに執筆している。心掛けているのは「そのクルマは誰を幸せにするのか?」だ。現在の愛車はルノー・ルーテシアR.S.トロフィーとディーゼルエンジン搭載のマツダCX-5。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。