Rolling 40's Vol.75 十代の財産

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16歳から23歳までやっていた二輪のオフロードを、20年以上の歳月をすっ飛ばすかのように今年から復活させた。そのことは何度か本コラムで書かせてもらったが、年末に来て新しい動きが見え始めた。

text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.145 2014年12月号]
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Vol.75 十代の財産

Vol.75 十代の財産

この1年弱頑張ってきたオフロードであるが、現役の感覚は思っていた以上に簡単に取り戻せた。二輪のオンロードに関してはサーキットも含めそれなりにやってきたことを吟味しても、自分で思っていた以上に早い段階で昔の感覚は取り戻せた。

もちろんアマチュアレベルが大前提で、10代の体力や反射神経は望むことはできないが、立体的な走りを求められる二輪オフロードにおいて、走りたいように走れるようになったことは確かである。47歳を目前に、これだけ楽しめれば十分過ぎるというくらいに現役復帰を楽しんでいる。

スピード復帰の理由として考えられるのは、普通のスポーツと同じで、10代で覚えたスポーツだからだろう。私は高校時代、運動部などには属せず、暇さえあれば自宅近くの多摩川河川敷モトクロス場にいた。高校3年間はオフロード以外は頭になかったというくらいの「好き加減」であった。

バイクを知るまでの自分は、周りの友達に合わせサッカーや野球などを適当に嗜んだものの、どうもピンとくるものがなかった。そんな16歳の自分が己の力で切り開き、汗だくで努力したのが、当時大ブームになっていた二輪オフロード(草モトクロス)だ。生まれて初めて私は「スポーツ」というものに没頭した。それまでの野球やサッカーなどでは味わえなかった、憑りつかれたかのように練習すると確実に上手くなる、ということを知った。

大学に入ってからは多少使えるお金が増えたこともあり、本格的なマシンに乗り換えてエンデューロレースにも参戦した。しかし芸能の世界に深く身を投じ始めた頃から、興味は高級スポーツカーにシフトしていき、23歳くらいのときには気が付くと乗らなくなり、二束三文で売り飛ばしてしまったマシン。

「逆輸入XR250ME06」

最近ではそのマシンが、クラシックオフロードバイクとしてプレミアム価格がついていると聞き、何とも複雑な思いである。

しかしそんな結末も悪いことばかりじゃない。10代で覚えたスポーツは脳の深い部分である「作業記憶野」にメモリされ、歳を取っても失われにくいと聞く。野球少年であったおじさんたち、いい年しても草野球をそれなりのレベルで楽しんでいるのも同じことであろう。

正直な話、この年齢で新しいスポーツをイチから始めるのはしんどい。時間も体力もないし、スポーツで未来を夢見ることもない。そんな私が2、3ヶ月という時間で二輪オフロードという「スポーツ」に最速復帰できたのは、あたかも10代の自分がタイムスリップして持ってきてくれたプレゼントのような気がした。まるでバック・トゥー・ザ・フューチャーだ。

人生とは面白いもので、私がオフロードに単独復帰している姿を見て、その勢いに翻弄されるかのようにオフロードを始めるバイク仲間たちが一人、二人、三人…と増えてきた。彼らにその理由を聞くと、単独であろうとも尋常でない熱力で走っている私の話や姿を見ていると、そんな楽しいのなら…という気分になるらしい。

もう一つの理由は、彼らも二輪オンロードの世界ではある領域に達しているのだが、オンロードはその領域でのリスクが桁違いなのである。オフロードはリスクがないとは言わないが、生死を分けるスピード領域の随分手前で色々なことが楽しめる。

「この満足感は尋常ではない」

私の洗脳でオフロードにハマりかけている友人の言葉だ。二輪オンロードでのアマチュアレースを楽しんできた彼だが、やはり、200キロ以上の速度域のリスクに疲れていたところでのオフロードとの出会いであった。オフロードは70キロ以内に大抵の面白さが詰まっているので、転んでもみんなで笑って済む。リスクとしてはスノーボードやスキーにプラスαと言ったところだろう。

そんな仲間が増殖し始めると、人が人を呼び、パリダカなどの国際ラリーなどの経験も豊富な「師範代」的な存在の仲間も現れ、気遣いやリスクを最小限にバイクをコントロールする快感は増すばかりである。

しかしそんな今年の「中年オフローダー元年」もすべてはあの頃の自分が時空を飛び越えて持ってきてくれたプレゼントである。

敵わない夢であるが、あの多摩川の河川敷で汗をかいていたギタン少年と偶然に出会い、草レースのように走りたいと思う。きっと今の自分よりずっと速く走るのだろう。その姿を後ろから見てみたいと思う。

ひとしきり走った後、バイクを前にメカ談義、そして未来や人生の話などもしてみたい。彼は私のことをどんなオッサンだと思うのだろうか。

「あ、あなたは、あのテレビで観るオジサンですね、バイク乗るんですか。昔から乗っていたんですか」

「そう、昔からだよ」

そんな言葉を河川敷で彼と交わしてみたい。今よりずっと細いその横顔をみながら。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
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