元開発者が語る、クルマのサスペンションの役割

サスペンション

※この記事には広告が含まれます

サスペンションの役割に関する記事は、インターネット上に大量に出ているので、どこかで目にしたり、読んだりしたことがあると思います。そこで今回は、実際にサスペンション設計チームで開発に携わっていた際に筆者が感じていた「サスペンションの役割とは?」について、まとめてみました。

文・吉川賢一
Chapter
重要なのは「支える」「伝えない」「伝える」の3つ
「支える」
「伝えない」
「伝える」

重要なのは「支える」「伝えない」「伝える」の3つ

自動車が登場してから、これまでにさまざまな方式のサスペンションが考案され、実用化されてきました。しかしながら、サスペンションが担う役割の本質は変わりません。

一般的な自動車のサスペンションの役割は、「支える」「伝えない」「伝える」の3つに集約することができます。

「支える」

1つ目の役割は「支える」です。

サスペンションは、路面から入る衝撃を受け止めながら、乗員が乗るキャビンを適切な位置に支える役目を担っています。

走行中、乗員の快適性を保つためには、どんなに荒れた路面を走っても、キャビンを動かさないことが大切です。また重い荷物を積んだときであっても、安全に走行ができるよう、サスペンションは底付きをしないように設計してあります。このようにサスペンションは、キャビンを「支える」ことで乗員の快適性を確保しているのです。

通常、車軸の位置決めを行うサスペンションアーム、車重を支えて衝撃を吸収するスプリング、スプリングの振動を減衰するショックアブソーバで構成されています。そのなかで、上下方向に「支えて」高さ(姿勢)を決めるのがスプリング、左右方向と前後方向の力を「支える」のがサスペンションアームです。

「伝えない」

2つ目の役割は「伝えない」ことです。

走行中に道路を走れば、路面の粗さによって、異なる振動が発生します。大きなうねりのある道路ではクルマは大きく揺すられる振動がおきますし、少し荒れた路面ではゴツゴツやビリビリとした振動を発生します。また、ガラスのような均質な路面でない限り、走行していればどこでもロードノイズが発生します。

サスペンションは、こういった、乗員が不快に感じる振動を「伝えない」、つまり遮断もしくは低減する役目を担っています。

上下方向にうねった路面では、コイルスプリングで凹凸を受け止めて、ショックアブソーバによって減衰し、キャビンの動きを抑制。荒れた路面では、タイヤの縦方向のバネで吸収しきれない振動をショックアブソーバで吸収します。

またロードノイズは、サスペンションアームやサスペンションメンバーを車体に固定するブッシュ剛性、サスペンションメンバー自体の骨格剛性によって、ロードノイズが発生しやすい周波数とサスペンションの固有値を分散させて、キャビンにロードノイズが伝わりにくいように設定します。

このように、乗員の快適性を上げるためには、「伝えない」ことも需要なのです。

「伝える」

3つ目の役割は「伝える」です。

矛盾しているように聞こえますが、サスペンションには「伝える」べきことがあります。おもに、クルマの高速直進性やハンドリングにおいて、タイヤ接地点で発生したコーナリングフォースやセルフアライニングトルク(元の位置に戻ろうとするトルク)を、ステアリング装置や車体に「伝える」ことで、クルマがどういった状態にあるのか、ドライバーは”認知”することができます。

ドライバーはコーナーでハンドルを切り始めたとき、ハンドルから返ってくる手ごたえによって、クルマがコーナーを曲がることができるかどうかを考えます。

もう少し詳しく言うと、コーナリング時の基本である、減速をしてからのターンイン時にフロントに荷重移動ができていれば、ハンドルの手ごたえが若干増し、クルマには向きが変わる運動(ヨーイングや横G)が発生することで、ドライバーはクルマが曲がっていく感覚を感じ取ることができるのです。上手なドライバーはこの手応えと、車両挙動を感じながら、ハンドルを切り増すか、減速をするか、自然と判断をしています。

サスペンションからステアリングに力を「伝える」、減速をしてタイヤに荷重を「伝える」、そしてタイヤが発生したコーナリングフォースを車体に「伝え」、クルマの向きを変える。これらもサスペンションの仕事なのです。

サスペンションにはさまざまな形式がありますが、「支える」「伝えない」「伝える」の3つは、形式が変わっても変わらない重要な要素です。ドライバーや乗員が、快適に、そして安全に移動できるようにするために、エンジニアは日夜、研究を続けています。

【お得情報あり】CarMe & CARPRIMEのLINEに登録する

商品詳細