マルチリンク式サスペンションのメリット・デメリット
更新日:2024.09.09
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マルチリンク式サスペンション(以下マルチリンク)は、サスペンション形式のひとつです。ダブルウィッシュボーン式に比べ、マルチリンクはアームの本数を増やし、それぞれのリンクへ機能を分担させた設計がなされています。では、このマルチリンクにはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
文・吉川賢一
文・吉川賢一
マルチリンク式サスペンションのメリット
マルチリンクは、おもに高級車(高額車)に採用されることが多いサスペンション形式です。その目的は、乗り心地とロードノイズの改善。そのため自動車メーカーは、高いコストを払ってでも採用します。
マルチリンク以外のサスペンション形式を選択した場合、 一般的に乗り心地やロードノイズを改善させるためには、振動を吸収・減衰させる機構を、タイヤと車体の間に設けます。
具体的には、サスペンションのリンクブッシュや、サスペンションメンバーと呼ばれるパーツを車体へ繋ぐメンバーインシュレータを低剛性化し、振動遮断を狙います。
ただし、ブッシュやインシュレータの剛性を下げていくと、必然的にサスペンション全体の剛性が落ち、操縦安定性に影響します。結果、タイヤ接地点が左右方向へグニャグニャと動く”横剛性の低下”が現れ、ハンドルを切ったときの応答性の低下にもつながります。
それがマルチリンクの場合、横剛性に影響するラテラルリンクのブッシュは剛性を維持しつつ、前後剛性に影響するブッシュの剛性は下げるといった設計が可能になります(その機能がないマルチリンクもあります)。こういった特徴によって、マルチリンクは乗り心地とロードノイズを改善しながらも、操縦安定性を低下させないで済むといったメリットが生まれます。
ちなみに、サスペンションメンバーには、エンジンマウントやデフからの振動も入ってきますので、サスペンションメンバー本体の剛性(振動工学的には弾性固有値)も、重要な役割を持っています。
では、マルチリンクのデメリットはなんでしょう。
マルチリンク以外のサスペンション形式を選択した場合、 一般的に乗り心地やロードノイズを改善させるためには、振動を吸収・減衰させる機構を、タイヤと車体の間に設けます。
具体的には、サスペンションのリンクブッシュや、サスペンションメンバーと呼ばれるパーツを車体へ繋ぐメンバーインシュレータを低剛性化し、振動遮断を狙います。
ただし、ブッシュやインシュレータの剛性を下げていくと、必然的にサスペンション全体の剛性が落ち、操縦安定性に影響します。結果、タイヤ接地点が左右方向へグニャグニャと動く”横剛性の低下”が現れ、ハンドルを切ったときの応答性の低下にもつながります。
それがマルチリンクの場合、横剛性に影響するラテラルリンクのブッシュは剛性を維持しつつ、前後剛性に影響するブッシュの剛性は下げるといった設計が可能になります(その機能がないマルチリンクもあります)。こういった特徴によって、マルチリンクは乗り心地とロードノイズを改善しながらも、操縦安定性を低下させないで済むといったメリットが生まれます。
ちなみに、サスペンションメンバーには、エンジンマウントやデフからの振動も入ってきますので、サスペンションメンバー本体の剛性(振動工学的には弾性固有値)も、重要な役割を持っています。
では、マルチリンクのデメリットはなんでしょう。
マルチリンク式サスペンションのデメリットは?
①コストが高い
マルチリンクは部品点数が多いため、部品コストが高くなってしまいます。
仮にリンクが1本増えた場合、リンク本体の部品材料、加工費、両端に装着するリンクブッシュ、ブッシュの圧入費、さらに製作工程などのコストが余計にかかってしまいます。
そのぶん車両の価格上昇につながることもあります。
仮にリンクが1本増えた場合、リンク本体の部品材料、加工費、両端に装着するリンクブッシュ、ブッシュの圧入費、さらに製作工程などのコストが余計にかかってしまいます。
そのぶん車両の価格上昇につながることもあります。
②複雑な構造であるがゆえにおきる設計ミス
20年以上前から、メーカーではジオメトリー設計にコンピュータが使われています。現在は、最適化設計技術も進み、以前に比べるとはるかに短い期間でジオメトリー設計ができるようになりました。
しかし、マルチリンクのように複雑な揺動をするサスペンションリンクは、あるとき思いもよらぬ(不具合)現象を起こすことがあり、結果、他のサスペンション形式よりも開発期間が長くなってしまいます。
この開発では、最終的には熟練技術者の知恵を入れて仕上げ、テストに次ぐテストを行い、完全に不具合をつぶしたうえで市販化されます。そのため、現在、世の中を走行している車両では、不具合が起こることはまずありえません。
性能ポテンシャルが高いマルチリンクは、今後も高級車を中心に採用が広がっていくと考えられます。その一方で、コスト重視のコンパクトカーにとっては、ビーム式のリアサスペンションが、もっとも優れたサスペンション形式となります。
メーカーの設計者たちは「車両に求められる性能」に応じて、もっともパフォーマンスの良いサスペンション形式を検討して決めているのです。
しかし、マルチリンクのように複雑な揺動をするサスペンションリンクは、あるとき思いもよらぬ(不具合)現象を起こすことがあり、結果、他のサスペンション形式よりも開発期間が長くなってしまいます。
この開発では、最終的には熟練技術者の知恵を入れて仕上げ、テストに次ぐテストを行い、完全に不具合をつぶしたうえで市販化されます。そのため、現在、世の中を走行している車両では、不具合が起こることはまずありえません。
性能ポテンシャルが高いマルチリンクは、今後も高級車を中心に採用が広がっていくと考えられます。その一方で、コスト重視のコンパクトカーにとっては、ビーム式のリアサスペンションが、もっとも優れたサスペンション形式となります。
メーカーの設計者たちは「車両に求められる性能」に応じて、もっともパフォーマンスの良いサスペンション形式を検討して決めているのです。
吉川賢一
モーターエンジニア兼YouTubeクリエイター。11年間、日産自動車にて操縦安定性-乗心地の性能技術開発を担当。次世代車の先行開発を経て、スカイラインやフーガ等のFR高級車開発に従事。その後、クルマの持つ「本音と建前」を情報発信していきたいと考え、2016年10月に日産自動車を退職。ライター兼YouTube動画作成をしながら、モータージャーナリストへのキャリア形成を目指している。