市販車初搭載から80年!オートマチック車はなぜ生まれた?

ゲート式ATレバー

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いまや国内で販売されている新車の約98%がAT(オートマチックトランスミッション)という時代です。クルマ好きでも「このところATしか運転したことがない」という方は多いかもしれません。では、どんな時代に何のためにATは生み出されたのでしょうか。

文・山本 晋也

山本 晋也|やまもと しんや

自動車メディア業界に足を踏みいれて四半世紀。いくつかの自動車雑誌で編集長を務めた後フリーランスへ転身。近年は自動車コミュニケータ、自動車コラムニストとして活動している。ジェンダーフリーを意識した切り口で自動車が持つメカニカルな魅力を伝えることを模索中。

山本 晋也
Chapter
運転をラクにするためアメリカで誕生
日本では1990年代から一気に増える
性能面から積極的にATを選ぶ時代

運転をラクにするためアメリカで誕生

エンジン車が一般向けに市販されるようになったのは20世紀初頭。世界初の大量生産車といえるT型フォードがアメリカで生まれたのは1908年です。そのT型フォードのトランスミッションはクラッチレスの2速セミATといえるものでした。

変速操作自体は必要でしたが、クラッチ操作は不要となっていたのです。足元に3つ並んだペダルはブレーキ・リバース・前進の変速切り換えという機能が与えられ、アクセル操作は指で行なうというものでした。これは、MTの操作が難しいための対応といわれています。

最初の大量生産車からイージードライブを求める声があったのか、イージードライブを実現したからT型フォードが大ヒットしたのか、どちらが先かは不明ですが、簡単に運転できることは自動車の普及につながったといえます。

なにしろ当時のMT(マニュアルトランスミッション)は現代のそれとは大きく違います。シンクロナイザーリングと呼ばれる回転同期機構はありませんから、クラッチを二度切りしてエンジンとトランスミッションの回転を同期させる必要がありましたし、シフトレバーやクラッチの操作も重いものでした。

自動車を大衆に普及させるには、運転の難易度というハードルを下げることが重要だったのです。

現在のATにつながる4速ATが誕生したのもアメリカで、それは1939年のことでした。今度はGM(ゼネラルモーターズ)が開発したものが市販量産車への初搭載となります。さらに1948年には、GMはトルクコンバーターを用いたATを生み出します。

ついに、現代の主流であるステップATと同じメカニズムを持つATが誕生し、イージードライブのためにアメリカで生まれ、進化したといえます。

日本では1990年代から一気に増える

さて、日本においてAT車の普及が始まったのは1960年代です。トヨタ・クラウンに2速ATが搭載されたのは1963年。ホンダN360に3速ATが採用されたのは1968年です。とはいえ1980年代まで新車販売におけるMTとATの比率は五分五分でした。

しかし、1991年に普通乗用車のAT限定免許が誕生するとAT車の比率がどんどん高まります。1990年代のMT:AT比率は2:8くらいでしたが、2000年頃には1:9に、そしていまでは98%がATとなっています。

日本においてはイージードライブのニーズというよりもAT限定のドライバーが増えたことで、AT比率が高まっているといえるのです。

しかも、現代のATは単なるイージードライブのメカニズムではありません。多段化が進み、いまや10速ATも登場しています。もはや人間の操作では難しい小まめなシフトチェンジを機械が代わりにやってくれます。

世界のスーパースポーツカーにおいてもAT比率が高まっていますが、ハイパワーをコントロールするには運転に集中する必要があり、そのためにはATであることが有利と考えられているのです。

性能面から積極的にATを選ぶ時代

絶対性能についても、0-100km/hのような加速性能でいえばATのほうが有利になっています。シフトチェンジの時間は短く、また変速時にトルク切れがないタイプもあります。燃費についても同様で、ATのほうが有利なシチュエーションも増えています。

ドライビングファンの部分を求めてMTを選ぶことは否定しませんが、絶対性能でいえばATを選ぶべき時代になっていることは否定できません。当初はイージードライブのために生まれたATですが、いまやパフォーマンスにATが貢献する時代となっているのです。
今後、電動化が進んでいくと、ますますMTを目にすることはなくなっていくでしょう。モーターアシスト型の簡易的なハイブリッドを除くと、電動車両にMTを採用することが難しくなってくるからです。

また、電気自動車については、モーターはひとつのギアでタイヤと常につながった状態になっているものがほとんどです。機構的にMTが存在する余地はなくなっていくといえるでしょう。
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