F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.40 F1界のドンがもたらしたもの

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F1界のドンと称されるバーニー・エクレストンはいつも、パリッとした白いワイシャツを着ている。ネーム入りのそのシャツがクリーニングに回されることはない。なぜなら、毎日新しいシャツに袖を通すからだ。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.129 2013年8月号]
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Vol.40 F1界のドンがもたらしたもの

Vol.40 F1界のドンがもたらしたもの

▶︎FOMの元に入るテレビ放映権料とグランプリ開催権料は年間1,000億円をゆうに超える。伝統のモナコ(写真)だけ開催権料が免除されるのは、免除してでも開催する価値があるとFOM側が認めているからだろう。FOMの収入のうち、半分が参戦各チームの成績や実績に応じて分配される。この仕組みを作り出し、右肩上がりに発展させたのがバーニー。チームが団結し、新リーグ設立をちらつかせて「もっと寄こせ」と詰め寄ることもあるが、騒動の末、元の鞘に収まるのが常。写真・メルセデスAMG


白髪に丸縁メガネのエクレストン氏がスターティンググリッドを歩くと、エンジニアと最後の打ち合わせに集中しているドライバーでさえ、会話を中断して笑みを浮かべ、エクレストン氏が差し出した手を受け止める。取り巻きを引き連れたその様子は、盛り場でにらみを利かす親分のようでもある。

エクレストン氏を話題にするときは、誰もが気軽に「バーニー」と言ったりもするが、「ミスターE」と呼ばれることもある。まるで、『ハリー・ポッター』で「名前を言ってはいけないあの人」と表現される闇の魔法使いを話題にするときのように。
 
だがバーニーは闇の帝王でも何でもない。巨額のマネーを動かす人物だと見るや否や、とかくダーティーなイメージを植え付けがちだが、そう一方的に決めつけるのは早計だ。枝葉末節は別にして、F1に現在のような繁栄をもたらした立役者がバーニー・エクレストンであることは間違いない。
 
1930年生まれのバーニーは、新聞配達をして経済の仕組みを学び、ガス会社で働きながらバイクを売って商売を覚え、ディーラー経営に発展させて財を成した。ビジネスと並行してモータースポーツにも手を伸ばす(F1の予選出場経験もある)が、レーシングドライバーとしての成功を夢見るより、ビジネスに専念する道を選んだ。
 
バーニーは'72年にブラバムを買収してオーナーになったが、チームの運営よりも、参戦チームの権利確保に心血を注いだ。当時は、レース興行主が入場料収入の一部を個別にチームに手渡していたが、バーニーが団体交渉の窓口役を引き受け、チームに有利な条件となるよう整備していったのだ。
 
'70年代の終わり、チーム運営から離れたバーニーはF1におけるさまざまな商業権を統括する会社を立ち上げる。それが、FOMやFOAといったフォーミュラ・ワン・ホールディングスに属する会社に成長していく。FOMは主にテレビ放映権料や興行権料、FOAはF1の商標を管理する。他にライセンス事業を管理する会社など、複数の関連会社が存在する。
 
バーニーが手腕をふるうことによって開催権料や放映権料は高騰した。出す側には痛い流れだが、おかげでチームには多くて年間100億円を超える分配金が転がり込むようになった。
 
そのバーニーに株式の売買をめぐって贈賄の疑いがかけられ、ドイツの検察に起訴された。「巨万の富を築いたバーニーも年貢の納めどき?」の意味で注目を集めているようだが、憂慮すべきはバーニーを失った場合、F1の繁栄をどう維持するか、である。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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