F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1+ vol.03 本気と意地の富士

アヘッド アウディ

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「富士だけ勝っていないので、なんとしてでも勝ちたい」と言ったのは、アウディ・スポーツの代表、W・ウルリッヒだ。今年のル・マン24時間こそポルシェに勝利を譲ったものの、それ以前はアウディが5連勝している。だが、世界耐久選手権(WEC)が復活し、その一戦に富士スピードウェイが組み込まれた2012年以降、アウディは富士に限って勝利とは縁がなかった。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.156 2015年11月号]



Chapter
vol.03 本気と意地の富士

vol.03 本気と意地の富士

ウルリッヒは雪を被っていない富士山を見て「何か物足りない」とつぶやいたが、富士で未勝利に終わっている自分たちの実績に対しても物足りなさを感じていた。

アウディの本気度を物語るのが、空力の大幅アップデートだ。アウディは7月のニュルブルクリンク戦、8月のオースティン戦を6月のル・マンに投入した空力パッケージで乗り切ったが、富士で一新した。

ニュルブルクリンク戦以降はル・マン戦に比べダウンフォース(空気の圧力差を利用し、車体を路面に押さえ付ける力)がより重要になる。ただし、富士は約1.5kmの長いストレートを持つため、ダウンフォースを利用してコーナーを速く走るだけでは不十分で、ストレートで最高速を稼がなくてはならない。

ダウンフォースにこだわると引き換えに空気抵抗が増え、最高速の伸びを欠いてしまう。そうならないよう、最適にバランスさせたのが、アウディが持ち込んだ新しい空力パッケージだった。
富士でずっと、アウディに悔しい思いをさせていたのはトヨタだった。薄氷を踏むような展開もあったが、過去3回のレースはすべて制しており、表彰台の中央に日の丸を掲げていた。

今シーズンのトヨタは劣勢を強いられているが、「母国レースだけは落とせない」という意地があり、エンジンの性能向上で、先行するポルシェやアウディに食らいつこうとした。

ル・マン比でおよそ20馬力のパワーアップを果たしたというが、使える燃料の量が厳しく規制された条件での20馬力アップは、並大抵の努力では成し得ない。

一方、ル・マンを制したポルシェはすでにニュルブルクリンク戦で大幅アップデートを施しており、富士に向けては目立った変更を施すことなく臨んだ。それでもポルシェは、昨年の予選タイムを4.2秒短縮する驚異的なラップタイムで予選を制した。

レース序盤はトラブルやミスによりアウディ勢に先行を許すが、6時間を走り切ってみれば競合する4台を周回遅れにする速さを披露。トヨタの4連覇を阻止したのはポルシェで、アウディが物足りなさを解消するのは来年以降に持ち越しとなった。

トヨタはエンジンのパワーアップよりもドライバーの腕によって見せ場を作った。1号車のスタートドライバーを務めた中嶋一貴はウェットだったレース序盤、隙のない走りでマーク・ウェバーが駆るポルシェを完全に抑え込んで自分の役目を終え、次のドライバーにステアリングを託した。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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