1991年式アルファロメオ スパイダー シリーズ4との生活…ナビカーズ創刊編集長、河西氏が語る「もういちど、クルマと暮らそう」。そう思って手に入れた。
更新日:2024.09.09
※この記事には広告が含まれます
編集者である僕が、「もういちどクルマと暮らそう」というキャッチフレーズを掲げた自動車雑誌『NAVI CARS』を創刊したのが2012年のこと。それと同時に僕自身も、若い頃から憧れていたアルファロメオ・スパイダーとの暮らしを始めたのだった。
文/写真・河西啓介
文/写真・河西啓介
40代、自分の本当に乗りたいクルマに乗ろう
クルマ好きの男にとって、30代半ばぐらいから40代にかけてというのは、ちょっと“難しい”年代だと思う。もっと若い頃は単純に、自分の好きなクルマを選べばよかった。スポーツカーであろうがコンパクトカーであろうが。だがこの年代になると、結婚したり、子どもができたり、仕事上の制約があったり……。自分の趣味だけでクルマを選ぶという訳にはいかなくなってくる。
かく言う僕自身もそうだった。20代のころはイギリスの2シーターオープン、壊れてばかりいるイタリア製のコンパクトハッチ、エアコンの付いていないフランス車などを乗り継いでいた。が、30代から40代なかばは家族の事情を優先したセダンやステーションワゴンを選ぶようになった。まあそれはそれで、幸せなクルマ選びではあるのだが。
2012年、45歳のときに『NAVI CARS』という自動車雑誌を創刊した。そのキャッチコピーは“もういちど、クルマと暮らそう”というものだった。じつはこれは、自分自身に向けた言葉だ。
子どもが成長し、家族で出かける機会はだいぶ少なくなってきた。いっぽう40代なかばというのは、クルマ好きなら、「人生の中であと何台のクルマに乗れるだろう?」なんてことを考え始めたりもする歳だ。
僕もそんなことを考えていた。だからこそあたらしい自動車雑誌を始めるにあたって、主に自分と同世代のクルマ好きに向けて、「もういちど」自分が本当に乗りたいクルマに乗ってみよう、あらためてクルマのある生活を楽しもう、というメッセージを込めたいと思った。
奇跡のようなアルファ・スパイダーに出会った
『NAVI CARS』の創刊と同時に、自分の愛車探しも始めた。企画にかこつけて(笑)ユーズドカーショップめぐりの記事などもつくった。その取材の中で僕がポロッと言った「昔からアルファ・スパイダーがほしかったんですよね……」という言葉が、その後の出会いをもたらしてくれることになったのだ。取材からしばらく経った後、取材をさせてもらったショップ『コレツィオーネ』のオーナーから電話が入った。「すごく程度のいいスパイダーが入ったんですが、見に来ませんか?」。
その赤いアルファロメオ・スパイダーは1991年式。1966年の初代から連綿と続いたFRのスパイダーの最終型となる「シリーズ4」だった。特徴としてはボディを取り巻くバンパーが同色化されスタイリッシュになったこと。燃料供給がインジェクション化され、パワーステアリングやパワーウィンドウが標準装備となったこと。オートマチックがラインナップされたこと、などがある。
まるで新車と見紛うばかりにピカピカのスパイダーのオドメーターは、なんと1万7000km。聞けば1オーナー車で、ずっとガレージ保管されてきたクルマだということ。塗装はリペイントされていないオリジナルで、まさに奇跡のコンデションだった。
近所を軽く試乗し、機関も好調であることを確かめた後、でもじつを言えば、僕はちょっと迷っていた。こんなにコンディションのいいスパイダーはそうそうないだろう。だがそれがちょっと“重い”気がしたのだ。果たしてこのクルマをよい状態で乗り続けることができるだろうか? もうちょっと気軽に付き合い、乗り回せる“相棒”のようなクルマのほうがよいんじゃないか、という気もしていた。
だが、結局ぼくはそのスパイダーを手に入れた。「乗れるだけ乗って、もしその先で“持ちきれない”と思えば、また大事にしてくれる誰かを見つけて譲ればいい。このクルマならきっと欲しいという人がいるから」。そう考えることにした。
かくしてぼくは、20代の頃に憧れていたアルファロメオ・スパイダーとの生活を始めることになった。2012年7月のことだ。
イタ車は壊れる、というイメージを覆された
スパイダーを手に入れて、初めての遠出は、秋田まで往復1000kmのドライブだった。雑誌の取材も兼ねていたのだが、21年落ちのスパイダーはこともなげに走りきった。道中では30℃を超える暑さ、土砂降りのゲリラ豪雨、急峻な峠道など、古いオープンカーには過酷なシチュエーションもあったが、予想よりずっと快適にドライブすることができ、おどろくほどだった。
アルファ伝統の4気筒ツインカムエンジンは、低回転域から粘り強く、高回転まで淀みなく吹け上がる。キャブレター時代のような豪快さはないが、とても扱いやすく、楽しいエンジンだ。意外だったのは燃費のよさだ。軽量な車体の恩恵もあるのか、平均でもリッター12、13km、高速なら15km以上まで伸びる。
長く自動車雑誌に携わっていた僕ですら、「イタ車は壊れる」というイメージを持っていた。ましてやこのスパイダーは60年代の基本設計を受け継ぐクルマだ。壊れない訳がないだろう、というぐらいの気持ちで乗り始めた。
だが4年乗って、そのイメージは完全に覆された。本当にトラブルの少ないクルマだった。購入した当初は、バッテリーターミナルの接続が悪く、駐車した後、突然セルモーターが回らなくなるという症状が頻発することがあった。またトラブルと言うほどではないが、エアコンの結露による水が助手席の足元にポタポタと垂れてきてしまうこともあった。
だがそのあたりは『コレツィオーネ』が素早く対応してくれ、直ぐに解決した。イタリア車に深い造詣と知識をもつショップなので、全幅の信頼を寄せることができた。この手のモデルを手に入れたいなら、クルマ選びよりまず“ショップ選び”なのだな、ということを実感した。
出先の路上で止まってしまうという、いかにも“旧いクルマ”らしい出来事も、いちどだけある。走行中、突然ガス欠のような症状になり、走行不能となった。幸いだったのは、車体が軽いおかげで、自分ひとりで押し、路肩に寄せられたということだ(笑)。
これは燃料ポンプの故障だった。だがそれ以外、期間的な故障は起きていない。パワステにちょっと違和感があるとか、足まわりがギシギシ言うとか、人間でいえば“加齢”による不調のような症状はもちろんあるが、それは点検整備、車検などの際に診てもらい、なるべく“トラブル予防”という状態で対処してもらうようにしている。
スパイダーが教えてくれたこと
旧いクルマとの暮らしというのは、上手くいかないこともあるだろう。僕の場合はラッキーだったけれども、もちろん“外れる”場合だってある。でもそんなことも含めて、まずは「始めてみよう」「乗ってみよう」ということが大事だと、スパイダーは教えてくれた。
僕自身「クルマと暮らす」と表現したように、楽しいことも、面倒くさいことも、嬉しいことも、悲しいことも、そりゃ、クルマと過ごすならいろいろあるさ、とそう思えることが、豊かなカーライフにつながるのだなと、僕はスパイダーに乗って、知ることができた。
河西啓介 | KEISUKE KAWANISHI
1967年生まれ。東京出身。広告代理店勤務を経て自動車雑誌『NAVI』編集記者に。2001年オートバイ雑誌『MOTO NAVI』を創刊。2003年より自転車雑誌『BICYCLE NAVI』編集長を兼務。2010年独立し、出版社ボイス・パブリケーション設立。2012年自動車雑誌『NAVI CARS』を創刊する。2019年よりフリーランスとなり、自動車ジャーナリスト、エディター、パーソナリティー、コメンテーターなど幅広く活動。