【ジョバンニ・ペトロルッティの視点】ボルボXC60のスカンジナビアデザインに、日本の”ZEN”を見た

ボルボ XC60

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日本に住む友人から、ボルボXC60が今年の日本カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたとの知らせを聞いた時、私は嬉しくなった。彼曰く、輸入車が同賞に選ばれるのは2013年のVWゴルフに続いて2度目とのことだ。ボルボの故郷・スウェーデンから遠く離れた極東の地でボルボが高く評価されていることは、素直に讃えるべきであろう。Congratulazioni!!(イタリア車でないことが少し悔しいが)

文・ジョバンニ・ペトロルッティ
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【ジョバンニ・ペトロルッティの視点】ボルボXC60のスカンジナビアデザインに、日本の”ZEN”を見た

【ジョバンニ・ペトロルッティの視点】ボルボXC60のスカンジナビアデザインに、日本の”ZEN”を見た

文・ジョバンニ・ペトロルッティ


世界的にボルボの販売は好調で、アジア、特に中国での伸びが前年比29.2%と著しく、これは今回取り上げるXC60と、90シリーズの成功が大きいようだ。

先般登場した90シリーズからボルボのデザインは新たな方向へと舵を切ってきた。これは親会社がフォードから中国の吉利汽車に変わり、プラットフォームを一新するタイミングで、デザインもゼロから練り上げることができたことが大きい。

新生ボルボデザインの土台となるのはスカンジナビアンデザインだ。言葉だけが先行し、北欧生まれのプロダクトには何でもこのワードが使われている感が否めないが、今回は私なりにその特徴を解釈してみたい。
スカンジナビアンデザインは「シンプル」や「温もり」などなキーワードで語られることが多いが、その根幹となるのが北欧の大地が育んだ「自然」にあると私は考える。

北欧諸国は針葉樹林の森やフィヨルドが作り出した地形など、自然の宝庫である。私も何度か足を運んだが、一歩郊外に踏み出せばそこには圧倒的なまでに大自然が広がっている。自然は神が創りしものであり、そこには無駄なものが一切存在しない。そのような環境で育まれたデザインは、必然的に無駄なものがそぎ落とされシンプルかつ機能的になっていく。

さらに、自然が豊富なため使われるマテリアルも天然素材を活かしたものとなるのだが、北欧の冬は日照時間が短く気温が低いため、必然的に家で過ごす時間が長くなる。

そのため、居心地の良い居住空間を生み出すために、北欧家具やインテリア雑貨は、素材の良さを活かしつつ温もりが感じられるデザインが多いのも特徴である。使い勝手に配慮されているのも、居心地の良いものを提供するというスカンジナビアンの価値観によるところが大きい。

つまり「シンプル」や「機能的」、「温もり」や「居心地の良さ」という、多くの人が連想するスカンジナビアンデザインの特徴は「自然」というキーワードがハブとなっているのである。
ではXC60のデザインを見ていこう。まずは私が最も気に入っているサイドビューを見て欲しい。余分なキャラクターラインは一切なく極めてシンプルだが、とても力強い。

Aピラーのラインを延長した先に配置されたフロントタイヤ、短い前後のオーバーハング、張り出したフェンダーラインなどで塊感を演出することにより、洗練されていながらも、ミドルクラスSUVとしてのキャラクターをうまく表現できている。

インテリアは丁寧で温かみや素材感を活かしたデザインが採用されている。自然のマテリアルを上手く取り入れ、落ち着いたアースカラーを使用するのもスカンジナビアンデザインの特徴だが、ディテールへの配慮やフィニッシュなど、細やかな配慮が随所に行き届いている。シートに隠れているスウェーデン国旗も遊び心があって良い。

少し前のボルボには、携帯電話のキーパッドような複雑なボタンがたくさんついていたのが、新型のタッチスクリーンディスプレイはスマートフォンのように使いやすい(私が最初、操作に少々戸惑ったことは黙っておこう)。ボルボに乗っているとリラックスした優しい気持ちになるのは、このような細やかな配慮が随所に行き届いているからかもしれない。
私はミラネーゼなので正確なところはわからないが、中国や日本には禅(ZENやマインドフルネスとして世界的ブームである)の思想が残っており、無駄がなくシンプルな考え方はスカンジナビアンの価値観と共鳴するのかもしれない。

このことが、アジア圏でボルボが受け入れられている一因と私は思ってしまうのだが、競合であるドイツのプレミアムメーカーと差別化を図るために、北欧生まれの彼らだからこそ出せる特徴を吉利汽車がうまく引き出しているのだろう。今のところ吉利汽車はボルボの良きパートナーのようだ。


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文・ジョバンニ・ペトロルッティ/Giovanni Petrolutti
ミラン在住の覆面ジャーナリスト。デザイン工学および自動車工学の博士号をもつなど、自動車および工業デザインの双方に造詣が深い。デザインという感性によりがちなものを論理的に解釈することに努めている。愛車はマツダ・MX-5(初代)。
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