【ジョバンニ・ペトロルッティの視点】デザインのバウハウス性について

VW e-Golf

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デザイナーどうしでよく議論になるのが、「そのデザインがバウハウス的かどうか」である。バウハウスとは、1919年にドイツに設立された美術・建築の教育機関だ。

その合理主義・機能主義の思想は、1933年にナチスの手で閉校されるまでのわずか14年の間に、現代芸術やデザインに多大なる影響を与えた。

特に、同校最後の校長であるミース・ファン・デル・ローエの言葉、”Less is More(より少ないことは、より豊かなこと)”、”God is in the detail(神は細部に宿る)”はあまりにも有名である。

文・ジョバンニ・ペトロルッティ

※ 2017年12月時点
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【ジョバンニ・ペトロルッティの視点】デザインのバウハウス性について

【ジョバンニ・ペトロルッティの視点】デザインのバウハウス性について

閑話休題。今回のテーマはGolf、中でも、e-Golfである。初代がジョルジェット・ジウジアーロの傑作であることはもはや言を俟たないが、Golfのデザインは、VWの別の名車のデザインと驚くほど似通っていることを指摘しておきたい。そのクルマとは初代のBeetleだ。

ここで読者諸兄の脳内に「?」が浮かぶのも無理はない。愛くるしい曲線基調のBeetleに対し、シンプルな直線基調のGolf。日本人は「デザイン」と聞くとつい表面的な「意匠(見た目)」を連想しがちだが、デザインとは「設計」という意味もあることを忘れてはならない。両車には、冒頭に述べたバウハウス的とも言える機能的な思想が流れているのである。

ここで両車の成り立ちを見ていこう。戦争の爪跡が残り、物資も充分にない中で開発されたBeetleは、鋼材の節約と強度の両立のために曲線を組み合わせたデザインが採用された。詳細は割愛するが、充分な室内空間を確保するためのRRレイアウトなど、その愛くるしいプロポーションは、あくまでヒトラーが提示した国民車構想としての機能を満たすために生まれてきたのである。

対するGolf。Beetleの誕生から30年近くが経過し、”次のBeetle"としてマーケットに投入された。大人4名が乗れるパッケージングや低価格(経済性)を満たすために2BOXのFFレイアウトを採用し、生産性に優れた直線基調のスタイルをまとっている。
では、現代のGolf7はどうだろうか。デビューからおよそ40年。走行性能や環境性能など、時代に合わせてアップデートはされてはいるものの、効率的なパッケージを適正価格で販売するというフィロソフィに変わりはない。

シンプルかつ直線基調、太いCピラーなど、初代からGolfを特徴付けるアイコンを大切にしながらも、ボディ面のRやキャラクターライン、各パーツのチリをミリ単位調整し、最高にバランスされたデザインで登場した。まさに「Less is More」、「God is in the detail」である。

Golfのデザインは、他と比べてつまらないと論じるジャーナリストもいるが、彼らはGolfの本質を見誤っている。なぜなら、Golfのデザインとは、何かを変えることや時代に迎合することが正ではないからである。

確かに、一目見て恋に落ちるほどのスタイリングのクルマも世の中に必要である。しかしあくまでもGolfは大衆車。多くの人の生活に密着するためには、機能とコストのバランスがとれていなくてはならない。

考えてみて欲しい。毎日の食事が塩辛かったらどうなるだろうか。私は日本の”TONKOTSU”ラーメンが大好きだが、味が濃くて毎日は食べられない。

Golfのような大衆車には、日本の白いご飯のように、毎日食べても飽きず、それでいて噛めば噛むほど甘みが増すようなバランスのとれたデザインが求められる。つまりGolfには、あのデザインが正解なのだ。
最後に、先日日本にも上陸したe-Golfについて触れておこう。私は先ほど、Golfのデザインは正解だと述べた。ではEVとしてはどうであろうか。

残念ながら「No」と言わざるをえない。なぜなら、誤解を恐れずに言うと、e-GolfはGolf7のエンジンとガソリンタンクをモーターとバッテリーに置き換えただけだからである。「見た目」ではなく、「設計」という意味ではまったくもって別の思想をもったクルマである(その根底には、「大衆車」としての源泉が流れているとしても)。

だからこそ、バウハウス性をもったデザインを期待したい。それは、BMW i3やNISSAN LEAFのように奇をてらったデザインをしろという意味では決してない。けれども、EVであることを突き詰めたとき、EVの機能性や合理性に裏打ちされたデザインが可能だと、私には思えてならない。

ヨーロッパではディーゼルゲートが尾を引きVWの業績があまり芳しくない。この逆境を乗り越えるために、VWは一気に電動化へと舵を切った。かつてVWが時代の要求に応えるために、”次のBeetle”としてGolfを生み出したように、大衆に向けた手頃なEV、つまり"次のGolf”を提示する時期に来ていると私は思う。

もちろんe-Golfは、性能面・走行性能において現代でも抜きん出たEVの1台である。しかし、いまはまだ、あくまでも”次のGolf”までの繋ぎとしてしか、私には見られないのである。
冒頭に、ミース・ファン・デル・ローエのセリフを紹介したが、ここでもう1つ、私の好きな建築家のルイス・サリバンの言葉を紹介しよう。

「Form Follows Function.(形態は機能に従う)」

EVには、EVとしてのデザインがあるはずである。私は期待を込めて、VWのデザインするEVの新しいカタチを見てみたいのだ。
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文・ジョバンニ・ペトロルッティ/Giovanni Petrolutti
ミラン在住の覆面ジャーナリスト。デザイン工学および自動車工学の博士号をもつなど、自動車および工業デザインの双方に造詣が深い。デザインという感性によりがちなものを論理的に解釈することに努めている。愛車はマツダ・MX-5(初代)。
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