車のランプやミラーの小さなフィンは何? ボルテクスジェネレーターの効果とは? 驚くべき仕組みと最新事例を解説

2019 エアロスタビライジングフィン
高速走行するクルマには空気抵抗との闘いがつきものです。最近のトヨタ車でドアミラー付け根やテールランプ横にある小さな突起にお気づきでしょうか? 実はそれが エアロスタビライジングフィン と呼ばれるパーツで、空気の流れ(空力)をコントロールし走行安定性や燃費の向上に役立っています。一見飾りのような小さなヒレですが、その効果と仕組みには驚きの技術が詰まっています。

山崎 友貴|やまざき ともたか

四輪駆動車専門誌、RV誌編集部を経て、フリーエディターに。RVやキャンピングカー、アウトドア誌などで執筆中。趣味は登山、クライミング、山城探訪。小さいクルマが大好物。

山崎 友貴
Chapter
エアロスタビライジングフィンとは?
採用の背景と広がり
エアロスタビライジングフィンの仕組み:敢えて乱流を起こし整流する
なぜ小さな乱れを起こすのか
エアロスタビライジングフィンの効果:何がどう良くなる?
空気抵抗の低減による燃費向上
直進安定性・ハンドリングの向上
風切り音の低減
身近な採用例と最新トレンド
豆知識コラム:実は電車や自然界にも応用される技術
後付けは効果ある?市販パーツと純正品
汎用品の効果と実際のフィーリング
後付けで最も注意すべき点
おわりに:小さなフィンに宿る技術に注目!
実際のトヨタ車のテールランプ側面に設けられたエアロスタビライジングフィンの例。小さなヒレ状の突起が確認できる。この部分で発生する渦が車体後部の空気の乱れを抑え、直進安定性の向上に貢献する。

エアロスタビライジングフィンとは?

エアロスタビライジングフィン とは、トヨタが開発・採用している小型の空力パーツです。車体の表面に突起状のフィン(ヒレ)を設け、空気の流れを整えることで走行中の空力特性を改善します。

主に ドアミラーの付け根、リアコンビネーションランプ(テールランプ)側面、そして フロア下部(アンダーカバー) など、空気の流れが速い箇所に設置されます。非常に小さく目立たないパーツですが、空力的に効果の高い位置に配置されているのが特徴です。

名前にあるスタビライジング=安定化の通り、走行安定性を高める目的で開発されました。実はこのフィン、一般的にはボルテックスジェネレーター(渦発生器)と呼ばれるものの一種で、飛行機の主翼や新幹線のパンタグラフ周辺にも使われている技術です。一見突起なんて付けたら空気抵抗が増えそうと思われるかもしれませんが、後述するように敢えて空気を乱して整流するという理に適った仕組みなのです。

エアロスタビライジングフィンという名称はトヨタの登録商標ですが、その形状には独自の工夫があります。水中を時速130kmで泳ぐカジキマグロの断面形状 をヒントにデザインされており、魚のルアー(疑似餌)のような独特な形状をしています。このフィンが空気中で効率よく渦を発生させ、車体に沿った気流を作り出すわけです。

採用の背景と広がり

トヨタがこの整流フィンを市販車に最初に採用したのは、2011年9月発売9代目カムリでした。以降、その効果が認められて多くの車種に広がり、2010年代以降のトヨタ車ほぼ全てに装着されるまでになりました。

たとえばスポーツカーの86(ハチロク)や小型車のアクアミニバンヴォクシー/ノア、ハイブリッドカーのプリウス、高級クーペのレクサスLC、さらには商用車のハイエースにまで幅広く採用されています。最近のモデルでは、新型クラウン(2022年発売のクロスオーバー) や 2023年デビューのアルファード/ヴェルファイア にも当然のようについており、街を走るトヨタ車の多くでこの小さなフィンを見つけることができます。もしお手持ちのトヨタ車が2010年代以降のモデルであれば、ぜひドアミラー付近やテールランプの縁をチェックしてみてください。米粒を引き延ばしたような小さな突起があれば、それがエアロスタビライジングフィンです。

では、なぜトヨタがこのようなパーツを開発するに至ったのでしょうか。

その背景にはモータースポーツや航空機からの知があります。エアロスタビライジングフィンはもともと F1などレースカーの空力パーツ として研究・発展したものです。時速300kmを超えるF1マシンでは空力性能が勝敗を左右するため、車体各所に様々な空力デバイス(ウイングレットやフィン)が使われています。

同様のコンセプトで、航空機ではボルテックスジェネレーター という名称で主翼や尾翼、フラップ上に設置され、気流を制御するために古くから採用されてきました。トヨタはこうした最先端レースや航空分野の技術をヒントに、市販車の空力を少しでも向上させようと真剣に取り組み、この小さなフィンを生み出したのです。

エアロスタビライジングフィンの仕組み:敢えて乱流を起こし整流する

なぜ小さな乱れを起こすのか

空気抵抗を減らすには、空気の流れを乱さずスムーズにする方が良いのでは?と思う方もいるかもしれません。しかし空力の世界では一概にそうとも言えず、敢えて小さな乱流(渦)を起こすことで大きな乱れを防ぐという手法が取られることがあります。エアロスタビライジングフィンもまさにその一例です。

1. 車が高速で走行するとき、車体周辺の空気の圧力や速度は場所によって大きく異なります。特に車体表面近くを流れる空気は車体に吸い付く傾向がありますが、ボディ形状の凹凸部分(例えばフロントピラーの付け根やリアエンド付近)では空気の流れが剥がれて大きな渦を生むことがあります

2. この流れの剥離が起こると、車体表面との間に摩擦抵抗圧力の低下が生じ、進行方向とは逆向きの力(抗力)が発生します。さらに車両後部に乱流(後流渦)が発生すると、その部分の圧力が下がり、車体を後ろに引っ張る力となって空気抵抗を増やしてしまいます。要は、ボディから気流がスパッと綺麗に離れず乱れてしまうと、空気の壁にブレーキをかけられるような状態になるのです。

3. そこで役立つのがエアロスタビライジングフィンです。剥離や渦が発生しやすい箇所に小さなフィンを設置すると、空気がフィンに当たって小さな縦渦(ボルテックス)を発生させます。

4. このフィンが起こした渦によって、周囲の気流は車体に沿って後方へらせん状に流れる軸流に変わります。この縦渦は周囲の空気を巻き込みながら後方へと流れ、周囲の気流を約1.2倍に加速して引き寄せる効果があります(※この数値はトヨタの公表データ)。

5. その結果、空気の流れがボディから剥がれにくくなり、剥離点(気流が離れる地点)をより後方へずらすことができます。剥離が遅れるということは、車体表面近くの圧力が極端に下がるのを防ぎ、車体後方に発生する乱流(真空状態)も小さくなるため、空気抵抗(ドラッグ)が軽減されるわけです。

簡単に言えば、エアロスタビライジングフィンは 空気の流れを意図的にかき混ぜて、小さな渦で大きな渦を防ぐ 装置なのです。その効果で空気の流れが整い、結果的に車全体の空力特性が向上します。

実際、このフィンを装着することで走行中の空気抵抗の低減が確認されており、トヨタは燃費向上や走行安定性の向上、さらには風切り音の軽減にも無視できない効果を発揮すると説明しています。

エアロスタビライジングフィンの効果:何がどう良くなる?

仕組みがわかったところで、具体的な効果を整理してみましょう。エアロスタビライジングフィンには以下のようなメリットがあります。

空気抵抗の低減による燃費向上

空力を改善する最大の目的は燃費(効率)の向上です。フィンで整流することで高速走行時の空気抵抗が減り、そのぶんエンジンやモーターの負担が軽くなります。実際の燃費向上率はごくわずかで、高速域でせいぜい1%未満とされています。例えば燃費20.0km/Lの車が20.2km/Lになる程度ですが、メーカーはその0.1~0.2km/Lの向上のためにも膨大な開発を行います。チリも積もれば山となる精神で、小さなフィンが着実に燃費改善に寄与している のです。

直進安定性・ハンドリングの向上

フィンによる整流効果で車体後部の乱流が減ると、高速直進時の車両のフラつき(揺れ)が抑えられます。また縦渦が車体を左右から押さえつけるように働くため、横風の影響や車線変更時の安定性が増します。トヨタの発表によれば、エアロスタビライジングフィン装着によりステアリングの応答性向上や操舵時の手応えアップ、ヨー(車体の回頭)安定性の向上などが期待できるとのこと。実際、市販車で高速走行時のステアリングの落ち着きが増したという報告もあり、細かながらドライバーの安心感につながる効果があります。

風切り音の低減

空気の流れが整うことで、サイドミラー周辺やピラー周りで発生する風切り音(ウインドノイズ) が軽減される効果も期待できます。特に高速道路での巡航時には、車内に侵入する風切り音が減れば快適性が向上します。ただし音に関しては車種や条件によって差があり、実感しにくい場合もありますが、静粛性向上にも貢献しうる技術なのは確かです。

身近な採用例と最新トレンド

2010年代以降、トヨタ・レクサス車に広く採用されているエアロスタビライジングフィンは、車種ごとに形状や数が異なります。例えば、ミニバンアルファードではテールランプ脇に大型のフィンが1つプリウスでは小型フィンが複数といった違いが見られます。これは、それぞれのボディ形状で最大の整流効果を得るために、風洞実験などを通じて個別に最適化されているためです。

こうした小さな突起で気流を制御する技術は他メーカーにも存在します。三菱のランサーエボリューションでは「ルーフベーン」と呼ばれるフィンでリアウイングに当たる風を整え、ダウンフォースを向上させていました。また、ホンダはジェット旅客機の騒音低減技術を応用した「シェブロン」というギザギザ状の突起を使い、風切り音の低減などに役立てています。

名称や主目的は様々ですが、小さな空力パーツで走行安定性や快適性を追求する工夫は、メーカーを問わず見られる技術なのです。

豆知識コラム:実は電車や自然界にも応用される技術

エアロスタビライジングフィンのアイデアは、実はクルマ以外の身近なところにも生きています。例えば新幹線。高速で走行する新幹線はトンネル突入時の爆音や走行風による騒音が課題ですが、JR東日本の新幹線ではパンタグラフ(集電装置)のカバー周辺に小さな突起(ボルテックスジェネレーター)を設けて騒音低減を図っています。

過去には、最高速300km/h超の500系新幹線のパンタグラフにフクロウの羽の形状からヒントを得た小さなフィンを付け、走行時の風切り音を大幅に下げた例もあります。飛行機に目を向ければ、主翼上面に並ぶ小さな板状の突起(ボルテックスジェネレーター)は有名です。これらは翼表面の気流を乱して剥離を防ぎ、失速しにくくしたり燃費を向上させたりする役割を担っています。つまり、エアロスタビライジングフィンの原理は 鉄道や航空機など様々な高速移動体で活かされている普遍的な技術 なのです。

そして視点を自然界に移すと、カジキマグロの高速遊泳フクロウの羽の静かな飛行など、生物も巧みに流体(空気や水)の流れを制御しています。自動車のエンジニアたちもそうした自然の知恵から学びを得て、新たな空力パーツを生み出しているのです。

後付けは効果ある?市販パーツと純正品

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エアロスタビライジングフィンの効果を知ると、自分の車にも付けてみたい!と思うかもしれません。トヨタ車の場合、純正で装着されているフィンはボディやランプカバーの一部として成形されていますが、後付け用の製品も市販されています。トヨタ純正アクセサリーとしては、プリウスやヴィッツ(ヤリス)、レクサス車向けにエアロスタビライジングフィンが単品販売されており、これらは車種専用設計ゆえ効果も期待できます。ただし お値段は1台分で1万円以上と少々高価です。

汎用品の効果と実際のフィーリング

一方、カー用品店やネット通販では汎用品のボルテックスジェネレーター(エアロフィンプロテクター等の名称で売られることもあります)が数百円~数千円程度と手頃な価格で入手可能です。多くは両面テープでボディに貼り付ける簡易タイプで、風切り音低減や車体のフラつき防止を謳っている商品もあります。中速域(60km/h以上)から効果が出るとも言われますが、正直なところ効果の体感には個人差が大きいようです。

実際にSUVに汎用フィンを取り付けてテストした例では、車内騒音や燃費に数値上の大きな変化は見られなかったものの、ハンドリングの落ち着きに僅かな改善を感じたという報告があります。特に直進時のステアリングが安定し、ハンドルを少し切った際の車の動き出しがスムーズになったとのことです。このフィーリングの変化は、トヨタが公式に説明している効能と一致しており、確かに何かしら効果はあるのだろうという興味深い結果でした。

後付けで最も注意すべき点

しかし注意したいのは、後付けパーツの効果は限定的かつ不確実だという点です。自動車メーカーは莫大な費用をかけて風洞実験やシミュレーションを行い、車種ごとに最適なフィンの形状・配置を決定しています。

一方、汎用品はどんな車にも付けられるよう大まかなデザインになっており、貼り付け場所もユーザー任せです。そのため、場合によっては 効果がほとんど得られなかったり、下手をすると逆に空気抵抗が増えて燃費が悪化する可能性すらあります。実際、市販品の中には見よう見まねで付けた結果あまり違いが分からなかったという声も少なくありません。安価なパーツで簡単に燃費アップ! とうたう宣伝文句に飛びつくのは禁物で、あくまで 自己責任で試すお遊び的なカスタム と考えたほうが良いでしょう。

とはいえ、エアロスタビライジングフィン自体の有用性はメーカーお墨付きです。トヨタ自身も費用対効果も含め総合的に判断し、全車種に展開しているという経緯があり、たとえ小さな効果でも積極的に採用する価値があると認められています。興味がある方は、信頼できるブランドの商品を使って、安全に配慮しつつ試してみるのも面白いかもしれません。

おわりに:小さなフィンに宿る技術に注目!

エアロスタビライジングフィンは、一見すると小さなプラスチックの突起に過ぎません。しかしその裏には空力工学の知見と自動車メーカーの努力が詰まっており、クルマの燃費や安定性を少しでも向上させようという工夫の結晶なのです。効果はせいぜい数パーセントかもしれませんが、現代の車づくりではその数%の積み重ねが環境性能や走行性能の向上につながります。まさに 塵も積もれば山となる を体現したパーツと言えるでしょう。

車好きの皆さんも、ぜひ身近なトヨタ車や他メーカー車の小さなヒレに注目してみてください。
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