ワイパーなぜ1本だけ? 搭載車まとめ 国産はヴィッツなど

シングルワイパー
レーシングカーでは、軽量化や空力調整のために1本アームのシングルワイパー(センター1本式ワイパー)を採用することが多々あります。一方で市販車となるとワイパーが1本しかないクルマは非常に珍しく、通常は2本です。しかし、なかには希少なシングルワイパー車も存在します。ここではシングルワイパーを採用した市販車を、懐かしい旧車を交えて紹介します。
Chapter
シングルワイパーの特徴
拭き取り範囲の違い
機構の複雑さ
コスト面の違い
デザインと見た目
シングルワイパー車①:トヨタコンパクト車 ヴィッツなど
シングルワイパー車②:ランボルギーニ ムルシエラゴ 考え抜かれた構造
シングルワイパー車③:メルセデス・ベンツ Eクラス(W124) シングルワイパーの革命児
なぜシングルワイパーは普及しなかったのか?
視界確保の問題
構造の複雑化と耐久性
コストと生産効率
デザインと市場ニーズ
まとめ:シングルワイパーというこだわり

シングルワイパーの特徴

シングルワイパー

メルセデス・ベンツ W124型(初代Eクラス)の「パノラマワイパー」。中央に1本だけ備えたユニークなワイパーが特徴

シングルワイパーは、フロントガラスを1本のワイパーで拭き取る仕組みです。一般的な2本式と比べるといくつかの違いがあり、そのメリットとデメリットがはっきりしています。

拭き取り範囲の違い

2本式は左右からそれぞれのアームが動き、広い範囲を効率よく拭き取れます。一方シングルワイパーは1本で全体をカバーするため、支点の位置やアームの長さ次第ではどうしても上下や端に拭き残しが出やすくなります。特にガラス上部は死角ができやすく、信号や標識が見えにくくなるケースがありました。

機構の複雑さ

2本式はシンプルで耐久性が高いのに対し、シングルワイパーは1本で大きく動かすためにリンク機構や伸縮機構が必要になる場合があります。メルセデス・ベンツの「パノラマワイパー」のように、アームを伸縮させながら動かす仕組みは画期的でしたが、ギアや関節が多く摩耗しやすいという弱点もありました。

コスト面の違い

一見するとワイパーの本数が少ない分、コスト削減になりそうですが、実際には専用設計のモーターや複雑なリンク機構が必要になり、量産コストはむしろ高くなる場合があります。2本式は汎用的で部品の流通も多いため、トータルでは低コストで安定して供給できます。

デザインと見た目

シングルワイパーは見た目がシンプルでスポーティに映ることから、スーパーカーや一部のコンパクトカーで「個性」として採用されました。とくに高速走行を前提とするスポーツモデルでは、空気抵抗を抑えられる点も評価されています。一方でファミリーカーや大衆車では「見慣れない」「視界が不安」と受け取られることもあり、幅広い支持にはつながりませんでした。

シングルワイパー車①:トヨタコンパクト車 ヴィッツなど

トヨタ ヴィッツ ハイブリッド 2017

トヨタ ヴィッツ(3代目・2017年式 ハイブリッド)。フロントに大型シングルワイパーを備えるコンパクトカー

トヨタのヴィッツは、かつて販売されていた国産車で唯一フロントにシングルワイパーを採用していました。

2010年12月に登場した130系へのモデルチェンジで、それまでの2本ワイパーから大きな1本ワイパーへと変更されたのです。採用理由はコスト削減の意味合いが強く、姉妹車の2代目ラクティスも同様にシングルワイパー化されました。

2本ワイパーの場合、モーターや配線、アームなど部品が2セット必要ですが、1本にすれば一部パーツを省略できます。またヴィッツ/ラクティスではリンク機構を工夫し、拭き残しを極力減らすことにも成功しました。

その結果「シングルワイパーで十分」と判断されたのでしょう。なお、ヴィッツの後継モデルとして2020年に登場したヤリスでは再び2本ワイパーに戻されており、2025年現在、新車でシングルワイパーを採用する国産車は存在しません

シングルワイパー車②:ランボルギーニ ムルシエラゴ 考え抜かれた構造

ランボルギーニ ムルシエラゴ

ランボルギーニ ムルシエラゴ(2001-2010年)。緩やかに傾斜したフロントウィンドウに1本ワイパーを装備

スーパーカーにはシングルワイパー採用車が少なくありません。事実ランボルギーニは、1974年発売のカウンタックですでにセンターワイパーを採用していました。

中でも注目したいのが2000年代のムルシエラゴです。その構造は秀逸で、太めのワイパーブレードに並行してリンク機構が組み込まれています。これによりワイパーブレードの角度を自在に制御でき、高速走行時に起こりがちなワイパーの浮き上がりを抑制しているのです。

ランボルギーニのようにフロントガラスの傾斜が緩い車では、高速域でワイパーが浮いてしまいやすいため、このような工夫が凝らされたと言います。さすが最新技術を結集したスーパースポーツカーだけあって、ワイパーひとつにも抜かりありません。

なお、ランボルギーニではカウンタック以降、ディアブロでは一時2本式に戻りましたがムルシエラゴで再び1本ワイパーを採用しました。後継のアヴェンタドールでは2本式に復帰するなど、モデルによって採用状況はさまざまです。

シングルワイパー車③:メルセデス・ベンツ Eクラス(W124) シングルワイパーの革命児

1985年、独自の「パノラマワイパー」と呼ばれるシングルワイパーを装着したメルセデス・ベンツ初代Eクラス(W124型)が発表されました。

ワイパーアームの回転軸にリンク機構を組み込み、当時の2本式ワイパーを上回る拭き取り面積を実現したのです。伸縮するアーム先端部がアルファベットの“M”字を描くことから、日本では「M字ワイパー」とも呼ばれました。

それでも1本で2本分以上の性能を発揮したパノラマワイパーは、当時メルセデス・ベンツの高度な技術力を示す象徴的な存在でした。

なぜシングルワイパーは普及しなかったのか?

シングルワイパーは見た目のインパクトや軽量化のメリットなど、一見すると魅力的に思える技術です。しかし、市販車においてはごく一部の車種にしか採用されず、主流にはなりませんでした。その理由を整理してみましょう。

視界確保の問題

2本式ワイパーに比べて拭き取り範囲が狭くなりやすい点は大きな欠点です。とくにフロントガラスの上部や端の部分に拭き残しが生じやすく、信号機や標識を確認しにくくなるなど安全性に直結する問題がありました。市街地走行が中心の一般ユーザーにとっては、雨天時の視界確保が最優先であり、この点で2本式が有利だったのです。

構造の複雑化と耐久性

1本のワイパーで広範囲をカバーするためには、リンク機構や伸縮機構などを組み合わせる必要があります。たとえばメルセデス・ベンツ W124の「パノラマワイパー」は優れた拭き取り性能を誇りましたが、内部のギアやアームが複雑で摩耗や故障が多く、整備性が悪いという課題を抱えていました。ユーザーや整備士にとっては「壊れやすく直しにくい」という印象が強かったのです。

コストと生産効率

一見すると部品点数が減る分コストダウンにつながりそうですが、実際にはシングルワイパー専用の設計や機構開発が必要になります。大量生産を前提とする一般的な自動車メーカーにとって、特殊な機構のために追加コストをかける合理性は薄く、標準的な2本式の方が結果的に安定して低コストで生産できました。

デザインと市場ニーズ

シングルワイパーはスーパーカーや一部の特殊車両では「個性」として評価されましたが、一般的な乗用車のユーザーからは必ずしも歓迎されませんでした。とくに日本市場では実用性や安心感が重視される傾向が強く、見た目のユニークさよりも確実に視界を確保できる2本式の方が選ばれやすかったのです。

まとめ:シングルワイパーというこだわり

レーシングカーや一部のスーパーカー、旧車などで細々と受け継がれてきた「1本ワイパー」ですが、その独特な見た目と技術的チャレンジは車好きの心をくすぐる要素となっています。現代の量産車では効率やコスト、安全性の観点から徐々に姿を消しつつありますが、もし将来再び革新的なシングルワイパー技術が登場すれば、ワイパーの常識が覆る日が来るかもしれません。

普段あまり注目されないワイパーですが、雨の日のドライブには欠かせない重要パーツです。その歴史や仕組みに目を向けてみると、クルマの奥深さを改めて実感できますね。
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