F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.36 ピレリの思惑

アヘッド F1ジャーナリスト 世良耕太の知られざるF1 Vol.36 ピレリの思惑

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F1はいかにタイヤを上手に使うかの勝負と言っていい。11チーム22台に与えられるタイヤは同一スペックだ。いくらエンジンのパワーがあり、空力性能が優れていても、タイヤに負担を与えすぎて傷みを早めてしまえば、ペースは落ち、ピットストップの回数が多くなって脱落してしまう。1周するだけなら速いが、10周目には、だらしなくなる、ではダメなのだ。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.124 2013年3月号]
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Vol.36 ピレリの思惑

Vol.36 ピレリの思惑

▶︎どのマシンがどのコンパウンドを装着しているかは、タイヤの側面を見ればわかる。スーパーソフトはレッド、ソフトはイエロー、ミディアムはホワイト、ハードはオレンジ(2012年はシルバーだった)。インターミディエイトはグリーン、ウェットはブルー。レーススタート時にソフト側のタイヤを履くのが正攻法。ハード側を履いていたら異なる戦略をとっていると判断していい。写真・PIRELLI


2011年からF1全チームにタイヤを供給するのはイタリアのピレリだ。F1を構成するコンポーネントはエンジンであれホイールであれブレーキであれ、速くするために開発するのが普通だ。ところが、ピレリはユニークな会社で、F1を速くするのではなく、F1をおもしろくする発想で開発を行っている。

その考えを象徴するのが、摩耗の進行が早いタイヤの開発だ。乗用車用タイヤに求めるのは、何キロ走っても摩耗しない特性だろう。摩耗しなければ交換する必要はなく、懐にもやさしい。ところがF1のタイヤをその思想で開発すると、スタートからフィニッシュまでタイヤを交換する必要がなく、ピット作業が要らなくなってしまう。

それではつまらない、というわけだ。ピレリは当然、パフォーマンスを高める方向での開発もできるが、あえて、グリップを急速に失うタイヤを提供しているのだ。

ピレリは2013年スペックを開発するにあたり、傷みの進行をさらに早めた。そんなさじ加減ができるのも、高い技術力があってこそである。F1には4種類のドライタイヤと1種類のインターミディエイトタイヤ(湿っている程度の路面で使用)、1種類のウェットタイヤを用意する。チューニングを変えたのは主にドライタイヤだ。

ドライタイヤはコンパウンド(接地面を構成するゴムと化合物の配合)の柔らかい順にスーパーソフト/ソフト/ミディアム/ハードの4種類を設定する。

コースの特性に応じて2種類が持ち込まれる決まりで、開幕戦オーストラリアはスーパーソフトとミディアム、第2戦マレーシアはミディアムとハード、第3戦中国はソフトとミディアムといった具合。レースでは2種類のコンパウンドを1回以上履く決まり。柔らかい方が調子がいいからといって、ずっと柔らかい側を履いて済ませるわけにはいかないのだ。

2013年のハードは2012年のミディアムに相当するというから、全体的にソフト側にシフトしたことになる。摩耗の進行を早めるため、コンパウンドだけでなく構造にも手を入れたそう。

狙いは、レース中少なくとも2回のピットストップだ。ピレリの思惑どおり2回で済ませることができたなら、そのチームは上手にタイヤを使いこなしていることになる。それ以上なら、タイヤの使いこなしに難ありと判断できそう。ドライバーによっても差は出るだろう。そういう視点でF1を見てみるのも楽しそうだ。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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