F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.39 撤退から一転。ホンダ、F1復帰へ
更新日:2024.09.09
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東京・青山にある本田技研工業の本社1階はふだんショールームとして使われているが、5月16日は緊急記者会見の場に様変わりした。午後4時。壇上に上がった伊東孝紳社長は開口一番、「FIAフォーミュラ・ワン世界選手権に参戦することを決定いたしました」と、張りのある声で語った。
text:世良耕太 photo:HONDA [aheadアーカイブス vol.127 2013年6月号]
text:世良耕太 photo:HONDA [aheadアーカイブス vol.127 2013年6月号]
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- Vol.39 撤退から一転。ホンダ、F1復帰へ
Vol.39 撤退から一転。ホンダ、F1復帰へ
▶︎エンジンとハイブリッドシステムの開発には強みがあり、自信がある。では、車体開発やチーム運営に強いのはどこかと見渡したときに目に留まったのは、かつて黄金期を築いたマクラーレンだった。1988年から92年にかけてエンジンを供給。アイルトン・セナとアラン・プロストを擁した88年は16戦中15勝を挙げ、圧倒的な強さでシーズンを制した。「F1で勝つにはすべてが一流でなければならない。マクラーレンとのタッグは理想の形態だと思う」と伊東社長は語った。
ホンダがF1に〝復帰〟するのは、パワーユニットに関するレギュレーションが大幅に変更される来年ではなく、2015年からだ。
パートナーを組むマクラーレン側の都合なのか、ホンダ側の事情なのかはわからない。競合するコンストラクターの動きを見て準備できるのはメリットだとする見方がある一方で、1年遅れて参戦するのはデメリットとする見方もある。その背景については逐次追いかけていきたい。
2000年から08年までの、いわゆるホンダ第3期F1参戦活動は、得意のエンジン開発に加えて、チームと車体開発を共同で行うのが特徴だった。だが、第4期は違う。「ホンダがエンジンおよびエネルギー回生システムを開発・製造・供給する一方、マクラーレンは車体の開発・製造およびチーム運営を担当し、マクラーレン・ホンダとして活動していく」(伊東社長)
第3期は活動の領域を広げたが、広げすぎてしまったがためにまとまりに欠き、望んだ結果を残すことができなかった。その反省から、第4期は得意分野に集中することにしたのだ。
「活動休止ではなく撤退」と言い切ったホンダが4年半で心変わりをした背景には、「このままではホンダの将来が危ない」という危機感がある。その危機を脱するのにF1復帰を選んだところが、いかにもホンダらしい。「創業以来、レースに参戦し、勝利することで成長してきた企業」だからだ。
伊東社長の言葉にもあったように、ホンダはエンジンだけでなく、エネルギー回生システムを開発・製造・供給する。F1が14年に導入するエネルギー回生システムは2種類あり、1つは市販ハイブリッド車で盛んに開発が進んでいるシステム(運動エネルギー回生システム)と同種だ。もう1つは排気の熱を電気に変換する熱エネルギー回生システムである。
運動エネルギー回生システムの開発に関しては、市販ハイブリッド車や電気自動車の開発で培った技術が強みになるとホンダは考えている。つまり、市販車からレースへのフィードバックが可能。
その一方で、将来の必須技術になりそうな熱エネルギー回生システムや、ヨーロッパを中心に流行中の直噴ターボエンジンに関しては、F1で揉まれることによって急速にホンダの技術が進化すると期待を寄せている。
すなわち、レースから市販車へのフィードバックだ。F1の新たな方向性とホンダが目指す開発の方向性が一致していくなかで、社内の若い技術者から「F1に挑戦したい」と声が挙がったのだという。その声に、社長が、会社が応えた。なんとも夢のある話だ。
ホンダがF1に〝復帰〟するのは、パワーユニットに関するレギュレーションが大幅に変更される来年ではなく、2015年からだ。
パートナーを組むマクラーレン側の都合なのか、ホンダ側の事情なのかはわからない。競合するコンストラクターの動きを見て準備できるのはメリットだとする見方がある一方で、1年遅れて参戦するのはデメリットとする見方もある。その背景については逐次追いかけていきたい。
2000年から08年までの、いわゆるホンダ第3期F1参戦活動は、得意のエンジン開発に加えて、チームと車体開発を共同で行うのが特徴だった。だが、第4期は違う。「ホンダがエンジンおよびエネルギー回生システムを開発・製造・供給する一方、マクラーレンは車体の開発・製造およびチーム運営を担当し、マクラーレン・ホンダとして活動していく」(伊東社長)
第3期は活動の領域を広げたが、広げすぎてしまったがためにまとまりに欠き、望んだ結果を残すことができなかった。その反省から、第4期は得意分野に集中することにしたのだ。
「活動休止ではなく撤退」と言い切ったホンダが4年半で心変わりをした背景には、「このままではホンダの将来が危ない」という危機感がある。その危機を脱するのにF1復帰を選んだところが、いかにもホンダらしい。「創業以来、レースに参戦し、勝利することで成長してきた企業」だからだ。
伊東社長の言葉にもあったように、ホンダはエンジンだけでなく、エネルギー回生システムを開発・製造・供給する。F1が14年に導入するエネルギー回生システムは2種類あり、1つは市販ハイブリッド車で盛んに開発が進んでいるシステム(運動エネルギー回生システム)と同種だ。もう1つは排気の熱を電気に変換する熱エネルギー回生システムである。
運動エネルギー回生システムの開発に関しては、市販ハイブリッド車や電気自動車の開発で培った技術が強みになるとホンダは考えている。つまり、市販車からレースへのフィードバックが可能。
その一方で、将来の必須技術になりそうな熱エネルギー回生システムや、ヨーロッパを中心に流行中の直噴ターボエンジンに関しては、F1で揉まれることによって急速にホンダの技術が進化すると期待を寄せている。
すなわち、レースから市販車へのフィードバックだ。F1の新たな方向性とホンダが目指す開発の方向性が一致していくなかで、社内の若い技術者から「F1に挑戦したい」と声が挙がったのだという。その声に、社長が、会社が応えた。なんとも夢のある話だ。
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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/