F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.38 ミスの理由
更新日:2024.09.09
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第3戦中国GPの予選で、M・ウェバーのレッドブルRB9がコース上に止まった。原因はガス欠である。ウェバーはその時点で14番手のタイムを記録していたが、燃料タンク内に1ℓ以上残っていなければいけないルールに抵触したため、予選から除外されるという厳しいペナルティを受けた。ウェバー車のタンクに残っていた燃料は150㎖だったそう。ガス欠の原因は、給油機にまつわるトラブルだった。
text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.126 2013年5月号]
text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.126 2013年5月号]
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Vol.38 ミスの理由
▶︎ステアリングの裏に左右各2枚のパドルがある。上が変速用パドルで、右がアップシフト、左がダウンシフト用。下の2枚のパドルがクラッチだ。クラッチを使用するのは発進時だけ。走行中に変速する際はパドル操作しか必要としない。そのため、「セミオートマチック式」と呼ばれる。トランスミッションはチームが独自に開発するのが基本。予選では燃料を必要最小限しか積まないが、約305kmを走るレースでは150〜160kg搭載する。写真・Lotus F1 Team
「けちけちしないでたっぷり入れておけばいいじゃないか」と考えたくもなるが、10㎏重くなると、ラップタイムが0.3秒遅くなるのがF1である。重くなると短い距離で止まれなくなるし、速いスピードでコーナリングできなくなるからだ。予選では1秒のタイム差に10台がひしめくことも珍しくない。ウェバーのケースはチームの凡ミスと言っていいが、少しでも軽い状態で走らせたいという心理が働くのは事実だ。
決勝レースでは、予選2番手のK・ライコネンがスタートで出遅れて4番手に順位を落とした。2位でフィニッシュしたので結果オーライではあったが、レース後、謝ったのはライコネンではなく、チームの方だった。
MT車を運転した経験があるならわかるだろうが、クラッチのミートに失敗して出遅れるということはF1でもありえる。でも、この場合、ドライバーのミスというより、チームのミスなのだ。
F1のクラッチ操作は乗用車のようにフットペダルで行うのではなく、ステアリングの裏にある左右のパドルで行う。左右を同時に手前に引くとクラッチが切れる。この状態で片方だけ戻すと半クラッチ状態になり、残る片方を離すと完全にミートする。
重要なのは、ミートする際のエンジン回転数だ。スタート前のフォーメーションラップでは、マシンから送られてきたデータをもとに、ピット側でどれだけのトルクを路面に伝えられるか計算する。その計算に基づいてドライバーにエンジン回転数を指示する。
「13000rpmで行け」というように。指示どおりに操作すれば最適なスタートが切れるはずなのだが、条件を読み間違うとタイヤを過度にスリップさせたり、トルクが足りなくて失速したりしてしまう。中国GPのケースでは、チームが条件を読み違えて不適切な指示を出したので出遅れた。だから謝ったのだ。
そのライコネン、56周で行われるレースの16周目に追突し、フロントウィングを破損した。このダメージで空力性能が落ち、1周あたり0.25秒ロスしたというのだが、その後2回行ったピットストップの際にウィングを新品に交換することなく走りつづけた。
40周走り続ければロスは合計10秒になるが、交換作業に相応の時間を要するため、ダメージを負ったまま走り続けた方が得策と判断したのだ。2位ライコネンと優勝したF・アロンソのタイム差は10.2秒。結果を考えれば、なんとも際どいダメージだった。
「けちけちしないでたっぷり入れておけばいいじゃないか」と考えたくもなるが、10㎏重くなると、ラップタイムが0.3秒遅くなるのがF1である。重くなると短い距離で止まれなくなるし、速いスピードでコーナリングできなくなるからだ。予選では1秒のタイム差に10台がひしめくことも珍しくない。ウェバーのケースはチームの凡ミスと言っていいが、少しでも軽い状態で走らせたいという心理が働くのは事実だ。
決勝レースでは、予選2番手のK・ライコネンがスタートで出遅れて4番手に順位を落とした。2位でフィニッシュしたので結果オーライではあったが、レース後、謝ったのはライコネンではなく、チームの方だった。
MT車を運転した経験があるならわかるだろうが、クラッチのミートに失敗して出遅れるということはF1でもありえる。でも、この場合、ドライバーのミスというより、チームのミスなのだ。
F1のクラッチ操作は乗用車のようにフットペダルで行うのではなく、ステアリングの裏にある左右のパドルで行う。左右を同時に手前に引くとクラッチが切れる。この状態で片方だけ戻すと半クラッチ状態になり、残る片方を離すと完全にミートする。
重要なのは、ミートする際のエンジン回転数だ。スタート前のフォーメーションラップでは、マシンから送られてきたデータをもとに、ピット側でどれだけのトルクを路面に伝えられるか計算する。その計算に基づいてドライバーにエンジン回転数を指示する。
「13000rpmで行け」というように。指示どおりに操作すれば最適なスタートが切れるはずなのだが、条件を読み間違うとタイヤを過度にスリップさせたり、トルクが足りなくて失速したりしてしまう。中国GPのケースでは、チームが条件を読み違えて不適切な指示を出したので出遅れた。だから謝ったのだ。
そのライコネン、56周で行われるレースの16周目に追突し、フロントウィングを破損した。このダメージで空力性能が落ち、1周あたり0.25秒ロスしたというのだが、その後2回行ったピットストップの際にウィングを新品に交換することなく走りつづけた。
40周走り続ければロスは合計10秒になるが、交換作業に相応の時間を要するため、ダメージを負ったまま走り続けた方が得策と判断したのだ。2位ライコネンと優勝したF・アロンソのタイム差は10.2秒。結果を考えれば、なんとも際どいダメージだった。
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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/