F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.37 2013年シーズン、不穏な幕開け

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2013年の開幕戦オーストラリアGPでポールポジションを獲得したのは、3年連続チャンピオンのS・ベッテルだった。2番手にM・ウェバーがつけて、レッドブルが最前列を独占。3番手には、マクラーレンからメルセデスに移籍したL・ハミルトンがつけた。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.125 2013年4月号]
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Vol.37 2013年シーズン、不穏な幕開け

Vol.37 2013年シーズン、不穏な幕開け

▶︎第2戦マレーシアGP終了後のパルクフェルメ(車両保管所)。優勝したベッテル(左)と7位入賞を果たしたライコネンが握手を交わす。ベッテルが真っ先に握手を交わすべきはチームメイトのウェバーだったはずだが、「男の約束」を破ったベッテルに負い目があり、視線を交わすことはなかった。2013年シーズンはチャンピオン争いだけでなく、チームメイト同士の信頼関係が注目を集めそう。写真・RedBull Racing


今年もレッドブルの年と決めつけるのは早合点で、優勝したのは7番手からスタートしたロータスのK・ライコネンだった。そのライコネンは2周目に一見強引とも思える大胆さで出遅れたハミルトンを追い抜き、4番手に浮上した。先頭を走るのは相変わらずベッテルだが、2番手、3番手はF・マッサとF・アロンソのフェラーリ勢に変わっていた。
 
ライコネンがトップに立ったのは、上位3台よりタイヤ交換のためのピットストップが1回少なかったからだ。ライコネンのロータスが「タイヤにやさしい」仕上がりなのも一理あるが、繊細なドライビングがポジションアップを助けた。

仕掛けるべきタイミングでは大胆に仕掛け、相手が見えない状況では、タイヤをいたわりながらも攻めに攻めてラップタイム短縮を図った。腕っぷしの強さだけではなく頭脳と器用さで手に入れた勝利だった。
 
開幕戦では、いや翌週に開催された第2戦マレーシアGPでも、名門マクラーレンの不調ぶりが際立った。マクラーレンのスロースターターぶりはここ数年、慣例と化している感があるが、今季は特にひどい。マシンの設計コンセプトを大胆に変更したのが最大の原因だろう。開幕前のテストでは、「まだクルマのことが理解できていません」と、あるエンジニアが説明してくれた。

昨年型よりも高性能なマシンを設計したものの、車両のキャラクターを使い手が完全に理解できていないため、実力を引き出しきれていないのが実状。2戦が終了した時点のランキングは6位だが、例年どおり、あるグランプリから突然力をつけて上位を脅かす存在になるだろう。問題はそれがいつなのかだ。
 
マクラーレンに代わって存在感を見せつけているのがメルセデスだ。昨年はタイヤを傷めやすい傾向があり、予選は良くてもレースでペースが上がらない悩みを抱えていた。その悩みが新型マシンでは解消。新天地の居心地がいいのか、ハミルトンがチームを引っ張る格好で快調な滑り出しを見せている。
 
第2戦マレーシアはレッドブルがワンツーフィニッシュを達成して、早くも初戦の取りこぼしを帳消しにした。だが、ベッテルがチームの決めごとを破ってウェバーを抜いてしまい、ドライバー間に不穏な空気が漂う始末。チームはレース後の記念撮影をキャンセルした。

かつてのセナとプロストの冷えた関係を思い起こす読者もいることだろう。力と力のぶつかり合いはチーム同士だけではなく、チーム内のドライバー同士でも起こりうる。そんなF1の原点を再認識させてくれる、2013年シーズンの幕開けである。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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