Rolling 40's Vol.58 先輩の黒いZ

Vol.58 先輩の黒いZ

Rolling

昔乗っていたクルマの写真を見ながら、降りてしまった理由は何だったのだろうかと思い返すことが多い。一番の理由は「改造車」に乗る意味自体が変わってしまったからだろう。意味というのは2つある。社会における意味と自分の中における意味。

先輩が乗っていた黒いフェアレディZが私の中では「改造車」の原点だ。煙草臭い車内で、あのうるさいマフラーの音を聞きながら深夜の第三京浜を意味もなく横浜に向かうとき、自分もこんなクルマに乗れたらどれだけ「カッコいい」かと心が震えた。

今の知識で考えると少し間違った改造の仕方をしていたと思える部分もあるが、そんな先輩たちとの関係がチューニングカーへの気持ちをさらに強くしていった。

改造車の性能を競うことは、それ以前の昭和の時代から行われていたが、’90年代後半、別次元の進化を遂げながら、その進化自体がチューニングブームを終焉に導いた。

チューニングカーブーム黎明期は1980年前後のこと。そこからの10年は自動車メーカーがクルマのハイパワー化を日進月歩で推し進めたこともあり、チューニングの世界も大きく進歩した。

その変化は進歩と言うよりも、存在しなかったものが存在するようになったというレベルのもので、その時代にクルマを乗り始めた若い男たちは景気の良さも加わり、その手の改造行為に狂喜乱舞した。

数字で考えてみれば分かり易い。その時代のチューニングはメーカーが売り出した自動車のノーマルの出力を2倍以上に引き上げることなど当たり前であった。当然その弊害も2倍以上出るのは当たり前だが、友人のクルマが2倍加速するという変化に、クルマを持つのが当たり前の時代の若者たちが飛びつかない訳がなかった。

バブルの始まりと相まって、10代後半の若者が100万円以上のローンを組んでクルマを改造することが当たり前になった。同時に百花繚乱するチューニング業界。伝説的逸話もたくさん生まれた。そしてバブル崩壊とともに若者たちの経済状況も一変し、円熟期とも言える’90年代チューニングカーシーンへと変わっていく。

そういう意味では日本における改造自動車の流れは’80年代に全てが詰まっているとも言える。2013年の今でさえ、チューニングカーの最大の祭典であるオートサロンに行くと、結局はそこで始まり開花したものの焼き直しでしかないことに私たち世代はすぐに気が付く。

バブル崩壊後に始まった’90年代のチューニングシーンはコンピューターの進化とともに、’80年代のチューニングとは別次元のモノへと昇華した。’80年代から始まった「不良」の匂いのする「改造行為」は様相を変え、一部の大人たちの贅沢な「趣向品」へと変わっていった。

クルマの基本性能の向上も加わり完成度の高いチューニングが当たり前になるが、それとは反対に20歳前後の若者たちがクルマの改造に心血を注ぐことは少なくなっていった。

その後チューニングシーンは’90年代後期のムーブメントへと進んでいく。高次元の改造車は当たり前のように300キロ以上の最高速度を記録し、中には350キロ近く出すこともあった。

180キロ出るか出ないかのクルマを200キロ以上出す「改造」の領域とはすべてが別次元である。そこに「遊び」の要素は残っていなかった。夢が現実となった時代でもあるが、それは同時に夢を失うことでもあった。

そして時代はさらに進むが、そうした極端な改造をするユーザーは反対に少なくなったというのが今の「逆転現象」。私はそんな今を嫌だとも思わないし、改造車が輝いていた時代に戻りたいとも思わない。また乗りたければ乗るし、今は乗る必要がないから乗らないだけだと思っている。

あの時代の私たちには軍事兵器のような凄みを魅せる「改造車」に乗る必要があったのだろう。それが自分の関わる社会に対する「意志表示」であり、自分の中での「決意」でもあった。

それが今はどちらも必要ないから乗っていないだけだ。今の私が社会に対して「意志表示」することは別の方法で進行していて、自分の中の「決意」も別の方法で確固として作っている。

だが、もしかしたら、60歳を過ぎたら再び「改造車」が必要になるときが来るのかもしれない。その時代にはEV以外は存在していない可能性があるが、だったらモーターをデカくして電圧もバッテリーの限界まで上げるだけである。別に内燃機だけが「不良」ではない。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968

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