かつて大型車にも採用されていたトーションビーム式サスペンション…その長所と短所とは?

マツダCX-3のパワートレーン

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軽自動車やコンパクトカーのリアによく使われる「トーションビーム式サスペンション」。一時期はかなりの大型車まで使っていた事もありましたが、自動車メーカー各社が「車作りの本道」に立ち返る中で、さすがに最近は使用されるカテゴリーが限られてきました。
Chapter
トーションビーム式サスペンションとは?
「安い」「軽い」「広い」の三拍子が長所
かつて高級ミニバンに使ってしまった過去
結局は適材適所

トーションビーム式サスペンションとは?

一言で言えば、左右の車輪を横に渡した柱でつなぎ、その柱がある程度までねじれる事で、左右輪をリジッド(完全固定)ではなく、多少の自由度を持たせた足回り形式です。「トレーリングアーム式」「車軸式」など、メーカーにより名称が異なる事もあります。

左右輪が全く独立してストロークできる「独立懸架」(ストラット式やマルチリンク式など)ほどの自由度は無く、アライメント調整もほとんどできませんが、少しは左右独自のストロークも可能です。現在では軽自動車やコンパクトカーのFF車用リアサスペンションは大半がこの方式で、業界のスタンダードとなっています。

本当はトーションビーム式でも何種類かあるのですが、日本ではフロントに伸びるトレーリングアームの途中にトーションビームを繋げた「カップルドビーム」と呼ばれる方式が多いので、これに限定した話をさせてください。

「安い」「軽い」「広い」の三拍子が長所

この方式のメリットは何と言っても部品点数の少なさから来る「低コスト」「軽量化」「省スペース」の3点。大雑把に言えば、前後位置決めのトレーリングアームと、ショックアブソーバーとスプリングが左右各1本ずつ、あとは左右に渡すトーションビームが1本あればいいんです。

スズキも現在のアルトをデビューさせる際、それまで30年以上使ってきた「I.T.L(アイソレーテッド・トレーリング・リンク)式サスペンション」から、FF車をトーションビーム式にする事で10kg以上の重量軽減に成功したといわれています。

複雑な構造でショック交換に数時間の作業でメカニックが泣いてしまう足回りまである中、作るのもメンテナンスするのも簡単なのは大きな長所です。

また、部品が少なく床下がスカスカなので、燃料タンクを配置する際のレイアウトが楽で、車室も圧迫されずに広く取れます。小さなボディでスペース効率を最大限に求め、コストや重量も極限したい軽自動車やコンパクトカーには最適なのです。

あとは長所と言えないかもしれませんが、調整用のパーツを組み込む以外、基本的にはアライメント調整ができないので、あまり深い事を考えたく無い人には都合が良かったりします。

かつて高級ミニバンに使ってしまった過去

短所に関しては、主にアライメント調整が不可能に近いのと、走行性能の限界が低いため、緊急回避に問題がどうしても出ます。各種の独立懸架方式ではキャンバー角の変化やショックアブソーバーの左右独立したストロークが有効に働き、タイヤの接地感を保ちます。トーションビーム式はキャンバー角は変化しませんし、深くロールすれば簡単にリアの片輪が浮いて三輪走行になります。

その上、車高の変化、特に低くなった場合にはトーインになるので、安定志向といえば聞こえはいいですが、限界を超えると一気にスパーン!とリアが流れる悪癖もあるんです。そのへん、低価格の軽自動車やコンパクトカーの中でも走りをするモデルは軽量な事が幸いし、スポーツライクなセッティングを行う事で許容範囲内には収めています。

しかしトヨタはかつて車重2tクラスのアルファードやヴィルファイアにまでトーションビームを使ってしまいました。豪華な見かけとは裏腹に乗り心地は酷評され、足回りコストダウンの行き過ぎた例として話題に上るようになってしまったのです。

さすがにトヨタも最近は行き過ぎたコストダウンを反省したのか、走行性能を重視する傾向にあり、2015年早々デビューの3代目アルファード/2代目ヴェルファイアからはリアをダブルウィッシュボーンとして改善しています。

同じようにトーションビームで走りが不評なプリウスも、間もなくデビューする新型はTNGAアーキテクチャによる走り重視の設計で、リアをダブルウィッシュボーン化してきました。

結局は適材適所

ここまで長所と短所を並べましたが、「トーションビーム式サスペンション」とは「ひたすらコストを下げたい車」にとっては、それがメーカーにせよ整備工場にせよユーザーにせよ、誰にとってもありがたいものです。構造も単純なので、チューニングやドレスアップをDIYで行う入門編としても最適でしょう。

しかし、「高い価格なりの乗り心地や走行性能を求められる車」には採用すべきではなく、無理して採用したところでユーザーからの評価も厳しくなり、メーカーも改善に追われる結果となってしまいます。足回りに限った話ではありませんが、車種によってどこにコストをかけるべきか、抜いていけないところはどこかを明らかにした上で、適材適所のチョイスが大事という事でしょう。

Source:
ja.wikipedia.org
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