【世界自動車業界見聞録】e-Golfは普通のクルマ、だからT型フォードになれるのだ

VW e-Golf

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e-Golfのステアリングをはじめて握ったのは、2014年3月のベルリンでのことであった。VWが主催したメディア関係者向けの試乗会に運良く参加することができたからだ。
Chapter
ベルリンでのe-Golf試乗会
VW e-Golhは普通のクルマ?
e-GolfがEV時代のT型フォード?

ベルリンでのe-Golf試乗会

試乗会では、ベルリン市内の飛行場跡地を起点に、e-Golfとe-up!でそれぞれ1時間ほど市内をドライブした。

折しも、前年末の日本カー・オブ・ザ・イヤーで輸入車初の本賞を受賞したGolfと、見た目はほとんど変わらないだけに、私の意識はe-Golfそのものよりも、はじめてのベルリンの町へと向けられていた。

スタートボタンを押し、無音ではあるが”起動”するのを確認した後に、ゆっくりとアクセルを踏む。EV特有のシームレスな加速に、当時はまだ新鮮さを感じていたように覚えている。

慣れない道を慣れないクルマで走る緊張は、まるではじめてのレストランでメニューをオーダーするようなものだ。

間違いを犯せば、一緒にいるパートナーに顔さえも曇らせてしまう。ただ、幸いにして、そのような自体は免れた。それは、グローバルな都市であるベルリンの道と、その道をゆくドライバーたちが成熟していたからでもあるが、もうひとつは、間違いなく、e-Golfのもつ力によるものであった。

VW e-Golhは普通のクルマ?

誤解を恐れず言えば、e-Golfは普通のクルマである。

フロントを左右に走るアクセントラインや、シートの差し色が青になっているなど、マニアックな違いはあるが、一般的な感覚から言えば、普通のGolfとの違いは見出しづらい。

乗ってみればパワートレインの違いに気が付くが、それもしばらくすると忘れてしまう。そのくらい、e-Golfは普通のクルマなのである。

ただ、それこそがVWのねらいなのは言うまでもない。現時点のEVの代表格と言える日産 リーフやBMW i3、そしてテスラの各モデルのように、EV専用車として開発され、専用設計のデザインをまとうのではなく、あくまでGolfのプラットフォーム、というよりGolfそのものをベースとして開発される点は大きな意義がある。

e-GolfがEV時代のT型フォード?

Golfをベースとしている点は、生産上の大きなメリットもある。

将来的に増産する必要が生じても、既存のラインを転用するだけである程度は対応できるのだ。私は以前、別の媒体で「e-Golfは現代のT型フォードである」と述べたが、それは当時限られた富裕層しか所有できなかった自動車を、フォードが大量生産に成功したことで一般市民にもいきわたるようになったという背景と重なるという意味である。

現代において、EVは必ずしも富裕層しか所有できないというわけではないが、住宅事情や移動事情などを含め、万人向けのものとは言いづらいのは、当時の自動車と同様である。

e-Golfが大量生産されることによって、相対的に価格が下がり、またインフラストラクチャが整備されると、一気に普及の波が訪れるだろう。作るのが先か売れるのが先か、”ニワトリタマゴ”ではあるが、一定量の供給がなされなければ、普及はありえないのである。
プロダクトとしてのe-Golfは、現時点では普及するだけのポテンシャルを十分に持っている。何がスゴイというのではなく、致命的な点がないということが最大の褒め言葉だと思う。
ただし、普及には課題が多いのもまた事実である。

中でも、もっともクリティカルなのは政府戦略との兼ね合いだ。全世界的に電化の流れは避けられないとは言え、現時点では内燃機関が圧倒的なのは間違いない。

先にも述べたように、EVの普及にはインフラストラクチャの整備や補助金の整備と密接に関わっているため、普及を後押しする戦略をとる市場であれば、そう遠くない未来に街で多くのEVを見かけることになるであろう。

では、日本市場はどうか?少なくとも、ピュアEVが優勢になるには、もう少し時間が掛かるだろう。そう思えてならない。
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