車のクロスミッションと普通のミッションは何が違うのか?

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競技用の自動車やそのベース車両には、「クロスミッション」という少々特殊なミッションが組み込まれたり、オプションで設定されています。普通のマニュアルミッションとはどう違うのでしょうか?
Chapter
異なるのは変速比(減速比)
クロスミッションの特異な変速比
クロスミッションはどのような時に使うのか
何でもクロスならいいわけではない
お手軽流用チューンでもある

異なるのは変速比(減速比)

自動車のスペック表を見ていると、ミッションの項目に「変速比」または「減速比」と書かれて数字が並んでいます。CVT(無段変速機)を除けば、MT、ATの区別なく多段式変速機にはもれなく存在する数字なのですが、1速が一番大きな数字、2,3,4速と小さな数字になっていくはずです。

この数字は単純に言えば「タイヤを1回転させるために必要なエンジンの回転数」と考えればいいのですが、実際には「最終減速比」と記載のあるファイナルギアでさらにタイヤの回転は減速されますので、そのままタコメーターの数字を表しているわけでは無い事に注意してください。

その上で、一例としてある車種の5速マニュアルミッションの変速比を記載します。

1速:3.416
2速:1.947
3速:1.250
4速:0.916
5速:0.750

各数字を見ていきますと、1速ではタイヤを1回転させるのに、2速や3速よりエンジンを回す必要がある事がわかります。実際に自動車の1速で発進して、シフトアップしないまま回転数だけ上げてもタイヤがあまり回らない(スピードが伸びない)わけですが、2速にシフトアップすれば、同じエンジン回転数でも1速よりタイヤが回る(スピードが伸びる)わけです。

その代わり、エンジン回転数が低くてトルクが出ていない状態でも、軽い力でタイヤを回せます。このへんは理屈よりも、ギアつきの自転車に乗って、1速と2速でどちらで走り出したらペダルが軽いかを思い出してもらえば、わかるはずです。

この車の場合は1速の変速比がやたらと大きく、1速と2速の変速比が他のギアより離れた数字になっている事もわかると思います。これは日本のように渋滞の多い都市部でストップ&ゴーが多い場合に負荷を減らしたり、あるいはレーシングカーなどでスタートの時以外で1速を使わない場合によくある変速比です。

1速から2速に上げた時には回転数が大幅に落ちてトルクバンドを外し、加速が鈍る事があるので、1速も多用するようなスポーツ走行ではあまり歓迎されません。そこで、通常のミッションとは変速比が異なるクロスミッションが登場します。

クロスミッションの特異な変速比

次に、同じ車種にクロスミッションを搭載した競技ベースモデルの変速比を記載します。

()の中が、先ほど記載した通常ミッションの変速比です。

1速:3.090(3.416)
2速:2.055(1.947)
3速:1.518(1.250)
4速:1.058(0.916)
5速:0.750(0.750)

5速以外は全然違いますね?まず1速の変速比が下がり、通常のミッションより少ない回転数でタイヤを回せるようになりました。一方、2速の変速比は上がり、通常より多い回転数でタイヤを回すようになります。

つまり、1速と2速の変速比が近づいたということで、1速から2速にシフトアップしても、通常ほど回転数が下がらずに2速でもトルクバンドに上がったまま加速できます。この状態を「クロスしている」と呼び、クロスするギアで構成されたミッションを「クロスミッション」と言います。

この車種の場合は2、3、4速を1速に近づけて、5速は巡航用にそのままにしていますね。このように巡航ギアを残したケースは「4速クロス」などと言います。5速まで全段クロスさせたら「フルクロスギア」と言ったりしますね。なお、クロスミッションでは無い通常のミッションを「オープンミッション」と言う場合もあります。

クロスミッションはどのような時に使うのか

既に説明した通り、各ギアからシフトアップした時にトルクバンドを外さず、常に加速可能なのがクロスミッションの利点であり、百分の一秒、千分の一秒でも速く走る事が求められるレースや競技用の車ではとても重要な意味を持っています。

このような車ではシフトアップするたびに加速が鈍っては話にならないので、クロスミッションは必須だったりするのです。

なお、変速比については各車種やエンジンの特性によって最適値がマチマチなので、クロスミッションでも車種ごとに最適化されたものが使われます。

何でもクロスならいいわけではない

ただし、スポーツ走行に有利だからといって全ての車に有効なわけではありません。

言い換えれば、クロスミッションは加速に有利な反面、シフトアップしても通常のミッションよりスピードが伸びないまま次のギアにシフトアップしなければいけませんし、同じ速度に達するのに、よりシフトチェンジ回数が増えます。

ひたすら加速だけを重視するコースや、ダートトライアル、グラベルラリーのようにオフロードで路面とのグリップだけでなくタイヤの回転数を上げて「路面をかき出す」ようにして走るのが速い場合なら、クロスミッションでどんどんギアを上げてタイヤを回していくのが有利です。

また、機械が超高速シフトチェンジしてくれるようなセミATの場合なら、ターマック(舗装)路面でもシフトアップ時に駆動が切れるロスが最低限なので、クロスミッションでも有効です。

問題は、人力でシフトチェンジすると遅いような場合で、シフトアップのためにクラッチを切っている瞬間は加速が途切れ、シフトアップしてクラッチを繋いでもスピードが上がらない…では、通常のミッションより遅くなる場合があります。

特に通常のミッションのままでも、とにかくエンジンをぶん回していればシフトアップしても次のギアのトルクバンドに入るような超高回転エンジンの場合は、シフトアップするたびに(クロスミッションと比べれば)爆発的な加速をするので、あえてクロスミッションを入れない事もあるのです。

そのような車で、通常ミッション車とクロスミッション車でゼロヨンなどやると、シフトチェンジの回数が多く、そのたび加速が鈍って車速も伸びないクロスミッション車が、通常ミッション車のスピードの伸びに負ける事だってあります。

絶対にクロスミッションを入れれば速くなるというものでもないので、そこは注意しましょう。

お手軽流用チューンでもある

一部車種では純正でクロスミッションが組まれ、シフトチェンジ時の軽快な加速が好まれて競技やレース以外の用途で使われるケースもあります。

また、実用車種の通常ミッションと基本的にミッションケースなどは一緒で中身をクロスミッションに入れ替える、あるいは小加工だけでいい場合も多いため、意外な車種をクロスミッション化するチューニングする事も多いのです。

たとえばトヨタですと型式にもよりますがカローラ系、スターレット系、ヴィッツ系、iQなどはミッションの基本設計に共通点があるので、中身を入れ替えて社外品のクロスミッション化したり、小加工で6速MT化などが可能です。

ダイハツも1998年に新規格軽自動車に移行した際、横置きエンジンのミッションは全てシャレードで使っていたミッションを小改良のみで搭載しましたので、最近出てきたトヨタ系のエンジンを使った一部の小型車を除けば、ほぼ全てのMT車にストーリアX4、あるいはブーンX4の純正クロスミッションを、ポン付けか小加工のみで移植できます。

他のメーカーも車種ごとにミッションを作り分けるような事はコストの問題であまりやっていませんので、ミッション流用チューンは意外と多いのです。


機能的には全く異なりますが、クロスミッションだからといって変速比以外はそれほど特殊ではありませんし、むしろスポーツ用途として強化のための加工がほどこされているケースも多いので、積極的に活用しても良いと思います。

意外な車がクロスミッションを積んで走っているかもしれませんね。
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