重ステ時代からパワステ時代へ...車の運転にどのような変化があったのか?

ステアリング

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重ステ、つまりノンパワーステアリングのクルマを運転された方となれば四十歳代以上の方ではないでしょうか。

今ではパワーステアリングの装着が当たり前のようになっていますが、25年くらい前までは「パワーステアリング車」というシールが貼ってあったくらい。付加価値であり贅沢品だったわけですね。

車の運転がラクになったのは間違いありませんが、少なからず、運転スタイルには変化があったようです。それはいったいどのようなものだったのでしょうか。
Chapter
パワステが必要な理由
石臼を挽くがごとき重さ
パワステ故障・・・しかし副産物も
運転のプロ、タクシードライバーが語る

パワステが必要な理由

今でも軽トラなんかには重ステ、あります。

でも、実際に操作するとそんなに重くはなかったりする。パワステがなくてもいいくらいの重さなんですね。

その理由は前軸荷重が絶対的に軽いこと、タイヤが細くて接地面の摩擦係数が少ないこと(簡単に言えばグリップが低い)などから、ハンドルが重くなる要素が少ないわけですね。だからとくにパワーアシストしてまで軽くする必要はないと。

パワステが必要とされる理由はその逆で、タイヤそのもののグリップが高くなったこと、もっというと、それは自動車全体の性能向上が高いグリップを求めた結果でもあるので、自動車の高速高性能化、または安全化という要素がパワステを求めた、と捉えることはできます。

石臼を挽くがごとき重さ

FF車の重ステともなると地獄でした。
なにせフロントエンジン・フロントドライブ、ということは前輪がきちんと路面を捉えていることが求められるわけですから、同じフロントエンジンでもFRにおける前軸への要求度よりはるかに高いものがあったわけですね。俗にフロントヘビー。

経験談で申し上げますと、まず据え切りは無理。まさに石臼のような重さ。けれどこれは車の側からの素直な声なのです。止まっているときはタイヤの摩擦係数は最大であり、その状態でハンドルを操作することは物理的に無理であるとクルマが言っているわけです。
これを無理やり動かそうとすれば、下手すると体を壊します。そして、それは同時に車の側、すなわちステアリング機構にも大きな負担を強いることになるということも同時に言えます。

パワステ車がいとも簡単に可能とさせている、停車状態でのハンドル操作、「据え切り」。
でもこれ、クルマにとってはすごくツラいことだと思っていただいたほうがいいですね。

パワステ故障・・・しかし副産物も

SW20型MR2、このクルマ、リアミッドシップでありながら電動ポンプで油圧を発生させるパワーステアリングが備わっているのですが、これ、よく壊れるんですね。コンピュータの問題だと言われています。実際に壊れた状態で「何度も」運転したことがあるのですが、やはりパワステがないとハンドルが重いことは確かです。でもやっぱりミッドシップで前が軽いですから、それほどでもない・・・。

それと、それ以上にメリットを感じる場面も少なくありませんでした。

それは、路面からのダイレクトなフィードバック。こうしたスポーツカーにとってハンドルから手のひらに伝わる路面状況やタイヤの接地状態の「情報」というのは重要で、まずなによりクルマとの一体感の大きな要素となりますし、トバしたときの判断材料が増えるというある種の「安心感」にもなったりするんですね。

パワステというのは操作力を軽減してくれるけれど、反面ダイレクトさ、一体感を削いでしまうデメリットも、こうしたスポーツカーにとっては小さくないと気がつかされました。

運転のプロ、タクシードライバーが語る

ベテランタクシードライバーさんの話がとても興味深かったのでご紹介しておきます。

タクシー車両でパワステが装着されるようになったのは1991年、セドリックで言うとY31の後期型になってからのこと。それまでは、そう、あの石臼を挽くかの如き重労働に、腕はパンパン、足腰にもストレスが掛かって「よく鍛えられた」そうです。それがパワステに加えオートマチックトランスミッションも導入されるようになると、彼らの労働環境は著しく改善されます。混在した時期には誰もがこぞって、パワステ・オートマ車を奪い合ったくらいだとか。しかしそのドライバーさんはおっしゃいました。

「でもね、お客さん。おかげでザツになったもんですよ」

つまりこういうことです。クルマの操縦がラクになった。簡単に動かし、操る事ができるようになったことで、同時にあらゆる運転操作をクルマの側が受け付けてくれてしまうものだから、「ザツな運転」をクルマが容認してしまうのだと。

「割り込みだってそうだよ、昔はクルマがそう簡単には動いてくれなかったから慎重だったけど、今はそういう感覚ないから、バンバン割り込んでくるようになった、ある意味危ないんだよね・・・ま、いまさら重ステにはもどれないけどさ!」

ドライバー歴35年にもなる個タクのドライバーさんから伺った実話。重みがありますよね、重ステ時代を知っている人のお話だけに。

各種パワーアシストや運転支援システムは、運転者の労力をたしかに軽減してくれます。しかし、運転者としての思考はそこで止まっていいのでしょうか。ハンドルの重さはイコール地球の重力そのものを示すものであり、クルマの運転とはその重力や遠心力との対峙でもあります。速度が上がれば上がるほど人間は重力、遠心力に逆らうようにクルマに乗せられることにもなる。それはやはり危険との隣り合わせだと言えるはずです。

運転がラクになるということは、すなわち、人をその危険に対する認識から遠ざけていることだということを忘れてはいけない・・・。

ベテランドライバーさんの言葉にはそんな意味が込められているように思いました。

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