三菱 ランサーエボリューション進化の歴史

ランサーエボリューション

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ランサーという1.5~1.8L級のセダンをベースに、2.0Lターボエンジンと、そのパワーを活かすための4WD駆動システムを与えられたのが「ランサーエボリューション」。もともとWRC(世界ラリー選手権)で勝つためのマシンを作るホモロゲーションモデルとして生まれた。

その歴史は1992年から2016年までとけっして長くはなかったが、ほぼ毎年のように進化した“エボリューション”モデルゆえに非常に多くのモデルが存在している。その歴史を4世代にわけて整理してみよう。

文・山本 晋也

山本 晋也|やまもと しんや

自動車メディア業界に足を踏みいれて四半世紀。いくつかの自動車雑誌で編集長を務めた後フリーランスへ転身。近年は自動車コミュニケータ、自動車コラムニストとして活動している。ジェンダーフリーを意識した切り口で自動車が持つメカニカルな魅力を伝えることを模索中。

山本 晋也
Chapter
ランエボの歴史:第一世代(I・II・III)~ラリーで勝つために生まれた~
ランエボの歴史:第二世代(IV・V・VI・TME)~3ナンバーボディーへと成長~
ランエボの歴史:第三世代(VII・VIII・VIII MR・IX・IX MR)~ワゴンボディーの登場~
ランエボの歴史:第四世代(X)~エンジンが新しくなった~

ランエボの歴史:第一世代(I・II・III)~ラリーで勝つために生まれた~

ランサーよりもひと回りボディーの大きなギャランでWRCに参戦していた三菱自動車が、より戦闘力の高いモデルを、ということで1992年に生み出されたのが初代「ランサーエボリューション(CD9A)」だ。

のちに「エボI」と呼ばれることになるが、この時点は「ランエボ」が毎年のように進化していくことになるとはユーザーは想像してはいなかった。当時のWRCでのトップカテゴリーであるグループAのレギュレーションは連続した12ヶ月で2,500台以上を生産するというもので、ランエボの生産台数も2,500台となっていた。

ただし、競技ベース車だけで2,500台を売るのは難しいと考えたのか、快適装備を有するGSRグレードと装備を省いて軽量化したRSグレードの2車種を設定している。そして、このグレード構成はランエボの伝統として受け継がれていくことになる。

1994年にはフロントのサスペンションジオメトリーを見直し、ホイールベースを10mm延長したランサーエボリューションII(CE9A)が登場。そして1995年には空力デバイスを大幅にアップデートしたランサーエボリューションIII(CE9A)が登場して、この世代は幕を閉じた。

ちなみに、2.0Lターボエンジン「4G63」はランエボIでは240馬力だったが、バージョンアップごとに10馬力を足していく、ランエボIIIでは270馬力に達していた。

ランエボの歴史:第二世代(IV・V・VI・TME)~3ナンバーボディーへと成長~

ランサーのフルモデルチェンジによって「ランサーエボリューション」も1996年にフルモデルチェンジを果たした。それが「ランサーエボリューションIV(CN9A)である。ここでのポイントはエンジン搭載位置にある。

フロントに横置きされているのは変わりないが、第一世代では向かって右側に搭載されていたエンジンは、向かって左側へと左右逆転した。そのエンジンは4G63型をさらにブラッシュアップしたもので、ついに当時の自主規制である280馬力に達していた。

また、リアの駆動力によって旋回性能をアシストする「AYC(アクティブ・ヨー・コントロール)」が最初に採用されたのもエボIVの特徴となる。1998年にはランサーエボリューションV(CP9A)へとモデルチェンジ。

ここでのトピックスは3ナンバーサイズのワイドボディーになったことと、ブレンボ製ブレーキの採用にある。1999年にはエボVIへと進化。空力性能と冷却性能を高めた。その象徴といえるのが2段タイプのリアウイングであり、またオフセットされたナンバープレートだ。

2000年には、三菱のワークスドライバーとして4年連続ドライバータイトルを獲得したトミ・マキネン(現在2019年ではトヨタWRCチームの代表)の偉業を記念した「トミマキネンエディション(TME)」を設定。

このモデルは競技ベースというよりはストリート系スポーツカーとして企画された。

ランエボの歴史:第三世代(VII・VIII・VIII MR・IX・IX MR)~ワゴンボディーの登場~

2001年、ランサーがフルモデルチェンジして「ランサーセディア」になったのに合わせて第三世代となるランサーエボリューションVIIへと進化する。

WRCがグループA規定から離れたこともあって、モータースポーツ用ベース車という位置付けではなくなっていたが、三菱のスポーツモデルとしての継続が求められたこともあって、フルモデルチェンジを果たしたといえる。

そのため、この世代ではセダン(CT9A)だけでなく、ステーションワゴン(CT9W)が登場したり、AT仕様がラインナップに加わったりと、その立ち位置は変化していく。

一方、モータースポーツではラリーでの活躍はもちろんだが、スーパー耐久のようなサーキットレースでも多くの勝利を収めるようになったのが第三世代の特徴だ。

また、この世代ではACD(アクティブセンターディファレンシャル)を採用することで前後駆動力配分も自在にコントロールできるようになったのが特徴で、それも舗装路からグラベルまで幅広いシチュエーションで速さを発揮するマルチスポーツカーとして認知されるようになった理由のひとつだ。

そしてモデルライフ中にもっとも多くのバリエーションを用意したのも第三世代の特徴。2002年には初のAT車である「GT-A」を追加、2003年にはフロントマスクの見直しとスーパーAYCへ進化したほか6速MTを初採用した「ランエボVIII」が登場している。

さらに、2004年にはビルシュタイン製ダンパーやアルミルーフを採用した「ランエボVIII MR(三菱レーシングの略)」が生まれている。

2005年3月にはエンジンにMIVEC(連続可変バルブタイミング機構)を採用した「ランエボIX」が登場、同年9月には初めてのワゴンボディーである「ランサーエボリューションワゴン」が誕生している。ワゴンには6速MTと5速ATが用意された。

そして2006年には第三世代最後のモデルとなる「ランサーエボリューションIX MR」と「ランサーエボリューションワゴンMR」が生まれた。大きなメカニズムの変更はなく、細部まで熟成した最終仕様だ。

ランエボの歴史:第四世代(X)~エンジンが新しくなった~

ランサーは三菱の国内向けラインナップから消滅してしまったが、そのエボリューションモデルの血脈は途絶えることはなかった。そうして2007年に第四世代のランサーエボリューションX(CZ4A)」が生まれる。

第一~第三世代まで使われてきた4G63エンジンは、ついに終焉を迎え、ランエボXからはアルミブロックの4B11型エンジンが搭載された。

このエンジン、当初は280馬力だったが2008年にマイナーチェンジにより300馬力にパワーアップされ、2015年のファイナルエディションでは313馬力まで高められた。トランスミッションは6速DCTである「ツインクラッチSST」と5速MTの設定となっていた。

この第四世代でのポイントは「S-AWC」と呼ばれる車両運動統合制御システムを採用したこと。ACD、スーパーAYCといった駆動力コントロールによる旋回性アップに、ブレーキ制御を組み合わせることで、ドライバーの意思に合わせた挙動を示すようになった。

その電子制御を活かすためにはメカニズムを理解したドライビングが求められる面もあったが、並みの人間ではコントロールできない領域まで車両制御が到達したという点では、自動車史に残るスポーツカーといえる面もある。

前述のようにWRC規定の変更により、この世代ではワークス活動を行なわなかったこともあり、車両としての進化は止まったように見える部分もあったが、全日本ラリーやジムカーナ、スーパー耐久といった国内モータースポーツでは2019年時点でも活躍している。
三菱のラインナップから実質的にセダンボディーがなくなったことから、第五世代のランサーエボリューションが生まれることは絶望的ではあるが、ランサーエボリューション24年の歴史によって鍛えられたエンジニアの知見、たとえば「S-AWC」テクノロジーは、アウトランダーやエクリプスクロスといったクロスオーバーSUVに活かされている。

ランサーエボリューションがあったことは、これからも三菱自動車のブランド力となっていくだろう。

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