いまやポルシェの"柱"。カイエンの成り立ち【世界自動車見聞録】

ポルシェ カイエン 2018年

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ポルシェAGによれば、2017年のグローバルでの新車販売台数は24万6375台、売上高は235億ユーロ(約3兆448億円)、そして営業利益は41億ユーロ(約5312億円)を記録したという。特筆すべきは、そのいずれもが過去最高の数字ということである。さらに、営業利益率は17%を超える。自動車メーカー各社の営業利益率は5〜10%程度がほとんどというなかで、これは驚異的な数値である。

文・生田誠司
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ポルシェと言えば911こそが正統であるが…
カイエンの成り立ち
「カイエン」という名のポルシェの"柱"

ポルシェと言えば911こそが正統であるが…

ポルシェはこの世界最高レベルの収益性の高さについて、生産性の改善や厳格なコストマネジメント戦略、優れた製品レンジによるものと説明している。生産効率とコストマネジメントについては別の機会に譲るとして、ここではポルシェの利益の源泉となる優れた製品レンジについて見てみたい。

ポルシェと言えば911こそが正統であるというのは、生粋のポルシェファンならずとも認めるところであろう。しかし、販売台数比率で言えば、2017年の実績で911は全体の13%ほどにすぎない。

一方のカイエンは25%近くにも達する。もっと言えば、カイエンの弟分であるマカンは9万7,000台を販売し、カイエンと合わせたSUVシリーズ合計で実に70%近くを占めているのだ。世界最高レベルの営業利益率を誇るポルシェの収益性の高さの源泉は、SUVシリーズにある。

しかし、カイエンの成り立ちは、ペトロールヘッドの面々が喜ぶようなそれとはかけ離れている。カイエンの登場は、911を中心とするスポーツカービジネスだけではポルシェが存続できないということを認めたことに端を発するからだ。

カイエンの成り立ち

1990年代までのポルシェの主要顧客は、地元欧州、そして当時の最大市場である北米、そしてバブルの残り香のあった日本であった。そうした地域の、ポルシェに対して理解の深い富裕層を相手にしていればよかったのだ。

しかし、世界的な恐慌などが原因となり、先進国の富裕層の消費が低下していったことから、ポルシェは存続自体が危ぶまれるほどの経営危機に陥ったのである。そこで新たなるターゲットとして狙いを定めたのが、成長著しい新興国だった。

ロシア、ブラジル、インド、東南アジア、中東、そして中国。当時はまだグローバルでのポジションが決して大きくなかった国々だが、来るべき勃興の時は見えていた。彼らは欧米の高級車に対する憧れもあった。しかし、インフラストラクチャの未熟さは残った。それはつまり、スポーツカーでの走行が現実的に困難であることを意味していた。

本格的なクロスカントリービークルでは、コストパフォーマンスが悪く、技術的にも難しいため、多くの自動車メーカーは乗用車をベースにクロスカントリービークル風に仕立て上げたクロスオーバーSUVを新興国に向けて投入した。そして、2000年代に入ると、新興国の富裕層が顕在化しはじめ、より高級なクロスオーバーSUVを求めるようになったのである。

そこで投入されたのがポルシェ初のクロスオーバーSUV、カイエンなのである。911によって築き上げられた絶大なるスポーツカーブランドとしてのイメージと、それに違わぬハイパフォーマンスのSUVは新興国のみならず全世界に衝撃を与えたのである。

そして、新興国はもちろん、先進国各国においてもカイエンは最も販売台数の多いポルシェの1つに成長したのである。

「カイエン」という名のポルシェの"柱"

ポルシェ・カイエンは、歴史に残る名車として数えられる1台であろう。パフォーマンスの高さもさることながら、新興国市場を開拓したモデル、ハイパフォーマンスSUVという市場を開拓したモデルとして、だ。カイエン発表と前後して、各自動車メーカーから同様のモデルがリリースされたのが何よりの証拠だろう。

そして、2010年代に入り、各社はよりコンパクトなハイパフォーマンスSUVを投入している。ポルシェの場合、マカンがそれだ。より手の届きやすい価格でありながら、遠目にはカイエンと同じエクステリア、インテリアの質感もカイエンと同等のマカンは、言うまでもなく販売台数に大いに貢献し、ポルシェで最も販売台数の多いモデルとなった。

ポルシェの危機感から生まれたカイエンは、いまやポルシェのビジネスの柱となるまでに成長した。カイエンが切り拓いた市場に、各自動車メーカーはこぞって参入し利益を上げている。当然最も成功しているの先行者であるポルシェだ。

しかし、そこに甘んじていてはビジネスの成長はない。株式会社であるポルシェは、常に成長していかなければならない使命を負っている。カイエンをブラッシュアップしていけば、確実に利益はとれるだろう。

けれどもその効果もいつまでも長続きはしない。新興国市場もいつかは枯れる。その時の打ち手はEVなのか自動運転なのかはまだわからないが、カイエンという「柱」を今後どうしていくかが、次世代ポルシェの鍵となるであろう。

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