第五章:ポルシェ カイエンについて【プロフェッサー武田の現代自動車哲学論考】
更新日:2024.09.12
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2002年のパリ・サロンにてポルシェ初代カイエンがデビューしたことが、現代のSUV(Sports Utility Vehicle)全盛時代の幕開けとなった……、とする見方には、概ねご賛同いただけるのではあるまいか?
文・武田公実 写真・S.Kamimura
文・武田公実 写真・S.Kamimura
自動車界を震撼 "カイエン・ショック"
それまでのSUVは、Jeepやランドローバーなどのクロスカントリー車から発展したものが多数派を占め、レンジローバーがその頂点にあった。
またトヨタ初代ハリアー(レクサス初代RX)に端を発する、サルーン由来のプラットフォームを流用した現代SUVのセオリーも生まれていたものの、その中でも高性能なモデルと言えば、SUVならぬ「SAV(Sports Activity Vehicle)」なる新カテゴライズとともに2000年にデビューした、BMWの初代X5くらいのものであった。
そんな状況のもとに誕生した初代カイエンは、フォルクスワーゲン初代トゥアレグと基本を一にする姉妹車でありながらも、ポルシェ永遠のアイコン「911」をダイレクトに連想させるスポーツカー的なエクステリアデザインとされた。
そして、4.5リッターV8ツインターボユニットを搭載する最高性能版「turbo(ターボ)」では最高出力450ps、0-100km/h発進加速5.6秒というスーパーカーはだしのパフォーマンスを発揮し、当時の自動車界を震撼させることになったのだ。
筆者が勝手に「カイエン・ショック」と呼んでいるこの出来事が、今世紀に隆盛を極めているSUVカテゴリーに劇的な影響を及ぼしたのは、もはや誰もがご存じのことだろう。
カイエンのメガヒットに追随するかたちで、現在ではマセラティやランボルギーニなど、かつてのスポーツカー/スーパーカー専業メーカーからスーパーカー要素を持つ高性能SUVが続々と誕生したばかりか、伝統的SUVのレンジローバーや軍用ヴィークルから進化を遂げたメルセデスGクラスにも500psオーバーの高性能モデルが設定されるなど、ヨーロッパの自動車界では高性能SUVが百花繚乱のごとく咲き乱れている。
またトヨタ初代ハリアー(レクサス初代RX)に端を発する、サルーン由来のプラットフォームを流用した現代SUVのセオリーも生まれていたものの、その中でも高性能なモデルと言えば、SUVならぬ「SAV(Sports Activity Vehicle)」なる新カテゴライズとともに2000年にデビューした、BMWの初代X5くらいのものであった。
そんな状況のもとに誕生した初代カイエンは、フォルクスワーゲン初代トゥアレグと基本を一にする姉妹車でありながらも、ポルシェ永遠のアイコン「911」をダイレクトに連想させるスポーツカー的なエクステリアデザインとされた。
そして、4.5リッターV8ツインターボユニットを搭載する最高性能版「turbo(ターボ)」では最高出力450ps、0-100km/h発進加速5.6秒というスーパーカーはだしのパフォーマンスを発揮し、当時の自動車界を震撼させることになったのだ。
筆者が勝手に「カイエン・ショック」と呼んでいるこの出来事が、今世紀に隆盛を極めているSUVカテゴリーに劇的な影響を及ぼしたのは、もはや誰もがご存じのことだろう。
カイエンのメガヒットに追随するかたちで、現在ではマセラティやランボルギーニなど、かつてのスポーツカー/スーパーカー専業メーカーからスーパーカー要素を持つ高性能SUVが続々と誕生したばかりか、伝統的SUVのレンジローバーや軍用ヴィークルから進化を遂げたメルセデスGクラスにも500psオーバーの高性能モデルが設定されるなど、ヨーロッパの自動車界では高性能SUVが百花繚乱のごとく咲き乱れている。
ポルシェ新型カイエンは高性能・高級SUVカテゴリーのパイオニアであるが…
つまりカイエンは、高性能・高級SUVカテゴリーのパイオニアとして尊敬されて然るべきモデルであることに間違いはないのだが、翻ってクルマとしての出来について言うならば、実は必ずしも肯定的な見方ばかりではなかったようだ。
筆者自身も初めて初代ターボに乗った際には、ダッシュボードやドア内装パネルなど、手に触れられる部分の質感のみならず、走りの質感についてもポルシェを長年敬愛していた愛好家、かつては「ポルシェ・パラノイア」とも呼ばれた純粋主義者たちがポルシェに求めるであろう緻密さや濃密感が、いささか欠けているかにも感じられてしまったのだ。
特に、ハイパワー版になればなるほど付いて回ったその大味な印象は、「955シリーズ」こと初代カイエンのビッグマイナー版たる「957シリーズ(2006~2010年)」。
新プラットフォームで大幅な軽量化を図るなどのフルモデルチェンジを受けた「958シリーズ(2010年~)」と、代替わりによって次第に解消されてゆくのだが、やはりアメリカや中国に代表されるメインマーケットの要請に応えたキャラ設定なのだろうか、完全に払拭されたとは思えなかった。
かもその一方でポルシェらしさ、さらに言うなら911らしさをより濃密に感じさせ、ドライブフィールもよりスポーツカー的に緻密な「マカン」が2013年に登場したことによって、少なくとも日本国内におけるカイエンの役割は終わりを迎えつつある……?などと勝手な思いを巡らせていたのだが、どうやらそれは筆者の間違いだったと認めねばなるまい。
筆者自身も初めて初代ターボに乗った際には、ダッシュボードやドア内装パネルなど、手に触れられる部分の質感のみならず、走りの質感についてもポルシェを長年敬愛していた愛好家、かつては「ポルシェ・パラノイア」とも呼ばれた純粋主義者たちがポルシェに求めるであろう緻密さや濃密感が、いささか欠けているかにも感じられてしまったのだ。
特に、ハイパワー版になればなるほど付いて回ったその大味な印象は、「955シリーズ」こと初代カイエンのビッグマイナー版たる「957シリーズ(2006~2010年)」。
新プラットフォームで大幅な軽量化を図るなどのフルモデルチェンジを受けた「958シリーズ(2010年~)」と、代替わりによって次第に解消されてゆくのだが、やはりアメリカや中国に代表されるメインマーケットの要請に応えたキャラ設定なのだろうか、完全に払拭されたとは思えなかった。
かもその一方でポルシェらしさ、さらに言うなら911らしさをより濃密に感じさせ、ドライブフィールもよりスポーツカー的に緻密な「マカン」が2013年に登場したことによって、少なくとも日本国内におけるカイエンの役割は終わりを迎えつつある……?などと勝手な思いを巡らせていたのだが、どうやらそれは筆者の間違いだったと認めねばなるまい。
ポルシェ新型カイエンの走りに注目
今回テストドライブのためにご用意いただいた新型カイエンは、ベーシック版に相当する「カイエン」。先代の3.6リッターV6自然吸気から、ポルシェ式に言うところの「ライトサイジング」3リッターV6ターボへとパワーユニットを変更したモデルである。
二代目958シリーズから格段に向上していたインテリアの触感は、この三代目ではさらに高められるとともに、大型の液晶パネルやアナログ回転系と組み合わせたバーチャルメーターなどで、最新のポルシェに相応しい未来感と機能的な雰囲気を漂わせる。
そして肝心の「走りの質感」についても言及したい。特に初代や二代目で感じられた整合性の欠如、VWトゥアレグ由来のシャシーが強大なパワーには付いていけず、やむなくハイグリップのタイヤとトラクションコントロールで抑え込むような感覚は、少なくともベーシック版では感じ取ることなく、実にバランスの良いドライブフィールを享受できる。
また、さらなる軽量化によって、本国仕様のスペックでは歴代カイエンとしては初めての2トン切りを達成したというウェイト(日本仕様の公表値は2040kg)が、気持ちの良いドライブ感覚に大きく貢献しているのは間違いないところだろう。
二代目958シリーズから格段に向上していたインテリアの触感は、この三代目ではさらに高められるとともに、大型の液晶パネルやアナログ回転系と組み合わせたバーチャルメーターなどで、最新のポルシェに相応しい未来感と機能的な雰囲気を漂わせる。
そして肝心の「走りの質感」についても言及したい。特に初代や二代目で感じられた整合性の欠如、VWトゥアレグ由来のシャシーが強大なパワーには付いていけず、やむなくハイグリップのタイヤとトラクションコントロールで抑え込むような感覚は、少なくともベーシック版では感じ取ることなく、実にバランスの良いドライブフィールを享受できる。
また、さらなる軽量化によって、本国仕様のスペックでは歴代カイエンとしては初めての2トン切りを達成したというウェイト(日本仕様の公表値は2040kg)が、気持ちの良いドライブ感覚に大きく貢献しているのは間違いないところだろう。
ポルシェ新型カイエン「ポルシェ的な」一台に
今やベーシック版であっても最高出力340ps/6,400rpm、最大トルク45.9kgm(450Nm)/5,300rpmという、4.5リッターV8自然吸気エンジンを搭載した初代「カイエンS」にも相当するパワーを獲得。
ダウンサイジング・ターボ車にはしばしば見られる不自然なレスポンスを露呈するようなこともなく、高速道路はもちろん市街地でもナチュラルかつ胸のすくような加速感を味わわせてくれる。
すなわち筆者を含む、今なおポルシェに幻想を抱いている自動車愛好家にとっても充分に「ポルシェ的な」一台に進化したことは認めざるを得ないだろう。
初代のデビュー当時に旋風を巻き起こしながらも、長らく純粋主義的ポルシェファンたちから色眼鏡で見られる傾向もあったカイエンだが、アメリカや中国などの大陸だけでなく、日本国内マーケットにおいても今なおマカンではなくカイエンを求めるファンが少なからず存在することは、現状の販売実績が示している。
しかも国内外のスクープ系自動車メディアの情報によると、マカンのごときファストバックスタイルのルーフを与えられた「カイエン・クーペ(?)」のデビューが既定路線となっているというのだから、まったくもってポルシェのビジネス戦略には舌を巻いてしまうのである。
ダウンサイジング・ターボ車にはしばしば見られる不自然なレスポンスを露呈するようなこともなく、高速道路はもちろん市街地でもナチュラルかつ胸のすくような加速感を味わわせてくれる。
すなわち筆者を含む、今なおポルシェに幻想を抱いている自動車愛好家にとっても充分に「ポルシェ的な」一台に進化したことは認めざるを得ないだろう。
初代のデビュー当時に旋風を巻き起こしながらも、長らく純粋主義的ポルシェファンたちから色眼鏡で見られる傾向もあったカイエンだが、アメリカや中国などの大陸だけでなく、日本国内マーケットにおいても今なおマカンではなくカイエンを求めるファンが少なからず存在することは、現状の販売実績が示している。
しかも国内外のスクープ系自動車メディアの情報によると、マカンのごときファストバックスタイルのルーフを与えられた「カイエン・クーペ(?)」のデビューが既定路線となっているというのだから、まったくもってポルシェのビジネス戦略には舌を巻いてしまうのである。
【ポルシェ カイエン ターボ】ポルシェカイエンの外装、内装、荷室など徹底解説!!【解説編】
ポルシェカイエンは、2002年に初代が誕生しました。このカイエンはポルシェの業績不振から救った救世主として知られています。 今回ご紹介するポルシェカイエンは、カイエンターボというカイエンのグレードの中でも上から2番目のグレードになります。3代目へと進化した、カイエンはMLBエボというアーキテクチャを使用し、アウディQ8、ランボルギーニウルス、ベントレーベンテイガなどにも使用されています。果たしてどんなSUVになっているのか? CARPRIMEナビゲーター、河西啓介が解説します。
武田公実|Takeda Hiromi
かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッドで営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、クラシックカー専門店などで勤務ののち、自動車ライターおよびイタリア語翻訳者として活動。また「東京コンクール・デレガンス」、「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントにも参画したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム」ではキュレーションを担当している。