2輪部門、日本人初表彰台を目指せ!伊丹孝裕のPIKES PEAKへの挑戦 VOL.4

アヘッド PIKES PEAK

※この記事には広告が含まれます

日本から海外のレースに出る場合、車両やパーツは船で送るのが一般的だ。もちろん、空輸という方法もあるが、時間の大幅な短縮と引き換えにかなりの出費を伴うことになる。

text:伊丹孝裕 [aheadアーカイブス vol.128 2013年7月号]
Chapter
2輪部門、日本人初表彰台を目指せ!伊丹孝裕のPIKES PEAKへの挑戦 VOL.4

2輪部門、日本人初表彰台を目指せ!伊丹孝裕のPIKES PEAKへの挑戦 VOL.4

今回、我々が取った手段も船便で、5月中旬に東京を出港した後、約2週間かけてアメリカ西海岸のロサンゼルスに到着。そこからレースが開催されるコロラド州までは輸送列車を使い州都のデンバーまで運んだ。

ここまでくれば、最寄りのショップでトランスポーターをレンタルし、その中に車両と工具、パーツ類を移せば準備はほぼ完了する。後は、日本でレースに出場するのと同じような感覚で進められるというわけだ。

もちろん、時間もお金も多少は必要ではある。しかし、海外でレースに出場するというのは、それほどハードルは高くなく、実際、パイクスピークの4輪部門には日本人エントラントが多い。

一方、2輪部門では久しぶりの日本人チームとなったのが、我々〝トライアンフ横浜北&ワイズエステート〟と埼玉県からサイドカーで挑戦する〝ライジングサンレーシング〟だ。ともに初参戦となるこの2チームはプライベーター同志として協力し合い、船便やトランスポーターなどをシェアしつつ、それぞれコロラド入りを果たしたのだ。
現地に入れば、なによりすべきはコースの下見に尽きる。とはいえ、パイクスピークの頂上へ通じる道は、普段は観光客や登山客が行き交う一般公道だ。つまり、制限速度もあれば対向車も走るため、レンタカーでゆっくりと上り下りを繰り返しながら、路面のコンディションと曲率を掴んでいった。

コース全体の印象としては、3つのキャラクターに分けられる。まず、スタートから8㎞付近までは、右左の切り返しが延々と続く、日本のワインディングのような中速区間だ。それを過ぎると、ほぼ180度にターンするような低速区間が次々と現れて急激に勾配が増し、最後にはスロットルを存分に開けられる高速区間で締めくくられる。

そんな風に、ライダーを飽きさせることのないメリハリのあるコースのため、夢中で走っている内は気がつかないものの、ふとした瞬間に頭痛やめまい、眠気に襲われる。

そう、いわゆる高山病だ。標高4300mのゴール地点という日本にはない環境の洗礼を、身を持って受けることになったが、これにも徐々に慣れ、6月15~16日に開催された公式練習に臨んだのである。
ところで、この時期のアメリカはすでに夏休みシーズンのため、パイクスピークとその周辺には、多数の観光客が訪れる。そのため、公式練習といえども日中行われるわけではなく、まだ人が集まらない早朝に開催されるのが特徴だ。

タイムスケジュールはかなり慌ただしく、朝4時に山頂へ向かうゲートがオープン。5時からライダーズミーティングを行い、まだ薄暗い5時半には走行開始。区切られたセクションを5〜6回程度、往復してタイムを計測し、9時頃には撤収作業というタイトさだ。

タイヤウォーマーを掛けても温まりきらない内にコースインするため、走り始めのアベレージスピードは高くないが、それでも下見の時とはコースの印象が一変する。
アスファルトのグリップ自体は意外と低くない。しかし、センターラインや路面の割れ目を埋めるために使用されているタール状の補修剤は2輪にはちょっとしたトラップで、タイヤは思いのほか簡単にスライドする。

そして、標高が上がれば上がるほど、路面の痛みは激しくなり、狙ったラインをキープすることが難しくなる。特徴的なのは、路面には水はけを促すためのカントがつけられていて、その多くが車体に対して逆バンクになるところだろう。
結果、サーキットのイメージでコーナーへ飛び込むと、どんどん車体がアウト側へ流されるため、ヒヤリとすることが何度かある。

今だから言えるが、昨年のレースでワン・ツーフィニッシュを決めたドゥカティ勢のオンボード映像を見る限り、コーナーのライン取りや進入スピードに関しては「ちょっと甘いんじゃないか?」と思っていた。

しかし、こうして自分で確かめるとそれも納得。サーキットのセオリーとはまったく別の、やはり公道ならではの特殊な環境に対応する走り方があるのだ。

2日間の練習走行の結果、両日とも4番手というタイムで終えた。とはいえ、トップとの差はかなりあり、走りの精度をさらに高めるべく、日々コースの下見を繰り返している。迫りつつある予選は6月26日から3日間に渡って開催され、決勝を迎えるのは同30日。

この号を手に取ってくださっている時、結果はすでに出ている。

-----------------------------------------
text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。
【お得情報あり】CarMe & CARPRIMEのLINEに登録する

商品詳細