EVオヤジの未来予想図 VOL.6 19世紀に発明された20世紀的発展の産物

アヘッド EVオヤジの未来予想図

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さて、今回の自動車業界の電気騒動は、内燃機関自動車 VS 電気自動車で、その性能、機能、使い勝手、趣味性等で語られることが多いが、この騒動はそうした議論を無意味なものとして葬り去るほどに根が深い。

text:舘内 端 [aheadアーカイブス vol.183 2018年2月号]
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VOL.6 19世紀に発明された20世紀的発展の産物

VOL.6 19世紀に発明された20世紀的発展の産物

たとえば、内燃機関自動車は、19世紀の末に発明され、20世紀に入って最盛期を迎え、第二次大戦後に先進国に広がった商品であり、それを支えたのは19世紀的技術であり、その駆動エネルギーは19世紀に米国で発見された油田から、戦後は中東で発見された大油田から採掘された石油であった。

つまり、自動車は19世紀的な技術を発展させ、20世紀的エネルギーで駆動された商品なのである。さらに、大事な視点は1917年のロシア革命以降の社会主義の台頭と拮抗して(遂には勝利した)近代資本主義の20世紀的発展、拡大と決して無縁ではないことだ。

20世紀を形作った19世紀の発明品には、たとえば電話機、蓄音機、電球、発電機、蒸気機関、無線機、写真、電信、空気入りタイヤ、映画、スピーカー、ディーゼルエンジン、ガソリン自動車等がある。20世紀とは、これらを磨いた時代、つまり直線的に発展した時代だったといえる。もちろん、自動車もそうだった。

しかし、20世紀中庸に生まれ、後半に劇的な発展を遂げたコンピューター技術は、それまでの技術とまったく位相の違う技術で、世界を大きく変えつつある。人類の長いアナログ生活とは断絶した世界を出現させた。

もちろん、現代でも従来型のアナログ思考・技術をベースにした商品は山のようにあるが、その開発と生産、販売にはコンピューターが使われている。そして、世界を徹底的に変えたのが情報技術そして通信技術である。教育、研究に始まり、開発、生産、販売まで、あらゆる分野に新型の情報、通信技術のベースであるデジタル思考が入り込んだ。

デジタル思考は、世界を徹底的に細分化し、0と1だけで表現すれば、あらゆることが超高速で伝えられ、制御できると考える思考方法である。ほんとうにそうなのかは疑問だが。

行き着く先は、人工頭脳に始まる人体・生命のデジタル化である。これが完成すれば、人体が操っていた教育も医療も行政も裁判も、もちろん自動車の開発も生産も販売も、そして運転も、すべてがコンピューターで可能となる。

コンピューターが人間だけではなくあらゆる生命体の上位概念に位置する世界の出現だ(それが楽しい世界であり、幸せなことなのかは、ここでは論じない)。したがって、自動運転車とは歴史的必然なのである。もちろん、その下位概念となる自動車の電動化もまた歴史的必然だ。

付け加えれば、電気自動車への移行は必然だが、他の世界に比べるときわめて遅い取り組みである。世界のほとんどはデジタル化されて久しいのに、ひとり自動車だけがいつまでもアナログな内燃機関自動車にしがみついていたに過ぎない。

たとえば、家庭の中を見回して燃えるもの、有害なガスを出すものがあったら教えてほしい。ガスコンロとタバコくらいではないだろうか。これらもオール電化と電子タバコに置き換えられつつある。また、ひとつでも爆発物が発見できたら教えてほしい。だが、内燃機関自家用車は、燃え、爆発し、ガスを出す。電化に取り残された数少ない生活用品である。

そして大きく変容を遂げようとしているのが資本主義である。フロンティアが消滅した資本主義に生き残る道は残されていない。だから(米国を中心として)デジタル社会に移行し、資本主義を延命させようとしているのかもしれない。とすれば、コンピューターも自動運転車も資本主義の成れの果てかもしれないのだが…。

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text:舘内 端/Tadashi Tateuchi
1947年生まれ。自動車評論家、日本EVクラブ代表。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。’94年には日本EVクラブを設立、日本における電気自動車の第一人者として知られている。現在は、テクノロジーと文化の両面からクルマを論じることができる評論家として活躍。
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