EVオヤジの未来予想図 VOL.4 狂気のエキゾーストノート

アヘッド EVオヤジの未来予想図

※この記事には広告が含まれます

自動車ファンと競馬ファンをごっちゃにすると、双方から叱られそうだが、少なくとも現在は競馬ファンの方が純粋にファンでいられるのではないだろうか。なぜって、「2030年から我が国は競馬を禁止し、競豚にします」といった話は聞かないからだ。

text:舘内 端 [aheadアーカイブス vol.181 2017年12月号]
Chapter
VOL.4 狂気のエキゾーストノート

VOL.4 狂気のエキゾーストノート

しかし、自動車界では、オランダとノルウェーは2025年から、インドは30年から、英国とフランスは40年から内燃機関自動車の販売は禁止するという大きな変革を甘受せざるを得ず、右往左往している。つまりエンジン自動車から電気自動車への大転換で、規模と影響は比べ物にならないが、いわば競馬から競豚への変化なのである。

だが、これから起きるであろう自動車の変革は、そういうことではない。これまでの「自動車」の消滅である。内燃機関自動車の消滅どころか、電気自動車も消滅する。かつての様式で「自動車」と呼ばれた交通機関は消滅する。

自動車ファンなる人種の行方はどうなるのか。これは愛の対象物がなくなるわけだから、自然消滅するしかない。

ところで最近、新宿歌舞伎町で新手の勧誘が高齢者を狙っているという。自動車好きな老人を見かけると寄ってきて、ペットボルトを開ける。中身は空だ。しかし、いわれるままに匂いを嗅ぐと、ハイオクの排ガスが匂う。しかも、2サイクルなのか植物オイルの燃えた匂いがかすかにする。年寄りがもっと嗅がせろと迫ると、キャップを閉じてしまい、それ以上嗅がせようとしない。

そして、今度は茶色い液体の入ったボトルのキャップを取って、老人の鼻に押し付ける。まぎれもないハイオクガソリンだ。しかもプーンと鉛も匂う。もうかれこれ20年もエンジン車に乗っていない老人は、思わずペットボトルを取り上げて、鼻を押し付ける。そして、「ああ、これだ。これだ」と呻くのである。

そこを見計らって、録音したV12気筒エンジンの咆哮を聞かせる。そして、「ジイさん。エンジン車に乗せてやるよ。来るかい?」と誘うのであった。



時は2045年。師走の新宿は、シーンと静まり返っていた。電気自動車ばかりのクリスマスが近かった。

生沢 徹さんやら、高橋国光さんやら、北野 元さんやら、そののち日本のモータースポーツの黄金期を疾駆するレーサーは、浅間山の麓にあった浅間高原テストコースで開催された浅間火山レースでデビューした。まさに日本のモータースポーツの幕開けであった。コースの一部は残っており、ラリー等で使われていた。

そこで今や販売どころか走行も禁止になった内燃機関自動車に乗せてやるというのだ。あきらかな脱法である。深夜、北軽井沢の住人達が寝静まった頃、大きな電気トラックのコンテナから引き出されたのは、往年の名車、フェラール489GTFであった。

4リッターV型8気筒をターボで武装し、最高出力670馬力、最大トルク760Nm、0-200㎞/h加速タイム8.3秒という今では電気自動車に完璧に置き去りにされる性能を誇っていた。

排気音が良かった。クォーン、クォーンというエキゾーストノートは、日本狼が獲物を捉えた時に上げる雄叫びに似ていた。老人はすでに目を潤ませていた。さもありなんと履いてきた老人用失禁パンツを確かめると、レースカーのそれに似た489のコクピットに滑り込んだ。

アクセルを踏み込んで、1度、2度とレーシングさせ、パドルシフトで1速にシフトした。と、そのとき電気パトカーのサイレンが浅間山の山麓に響いた。「ああ、捕まるのか」と覚悟した老人は、かまわずスタートし、かん高いフェラールのエキゾーストノートを響かせて、闇に消えた。走り去った後には、老人のものらしき失禁パンツが残されていた。

ああ、いつになっても、私はフェラーリに乗りたい。逮捕されたってかまわないと思う今日この頃である。

えっ、あと2回で連載が終わるんだから、まじめにやれってか。しかし、悲しい時代が来るのだ。狂ってやる。

--------------------------------------------
text:舘内 端/Tadashi Tateuchi
1947年生まれ。自動車評論家、日本EVクラブ代表。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。’94年には日本EVクラブを設立、日本における電気自動車の第一人者として知られている。現在は、テクノロジーと文化の両面からクルマを論じることができる評論家として活躍。
【お得情報あり】CarMe & CARPRIMEのLINEに登録する

商品詳細