おしゃべりな クルマたちvol.43 オンナふたり

アヘッド おしゃべりな クルマたち

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私が住むアパートの隣りはミラノに住むイタリア人のセカンドハウスで、3ヶ月に一度くらいの割合でオーナー夫婦がやってくる。大学生の息子が友達と使うこともあるし、親戚らしき年配の夫婦が過ごすこともたまにあるのだが、私がもっとも楽しみにしているのは夫人が親友とやって来る時だ。

text:松本 葉 [aheadアーカイブス vol.113 2012年4月号]
Chapter
オンナふたり

オンナふたり

いつも我が家にお土産を持って来てくれる、この心遣いも嬉しいが、なによりふたりの様子が実に楽しそうでこれがウレシいのである。

夫婦でやって来る時は、あら、もう帰っちゃったのかしらと思うほどとても静か。ご主人が男友達とやって来るときはもっと静かで、声が聞こえるのはサッカー中継の時だけ。「ゴーーール !」、叫び声を聞いて安堵する。

ああ、よかった、死んでなかった。かわって女ふたりの時は実に賑やかだ。といっても常識と良識が体に染み込んだ年齢の女性だから騒ぐようなことはないけれど、それでも楽しむ様子が伝わってくる。

朝の7時にこらえ切れない、そんな笑い声がする。海が返す波の音しか聞こえない静かな朝に遠くの方でクククククッと声がする。布団で口を覆っても楽しさの方が大きくて、ついこぼれ出てしまうような笑い声。うふっ、うふっ、うふふふふ。この声を聞くといつも思う。女二人の旅は楽しいよなあ。

自分自身の若さに翻弄される時代を終えて、子育てや仕事が一息ついて、人生のはかなさや不合理もちょっとわかるようになって、楽しもうと格段、肩に力を入れずとも楽しむことが出来るオンナ二人の旅。

ご主人と来るときは彼が築いた社会的地位を象徴するようなクルマに乗ってくるのに、女友達とやって来るときは夫人のつっかけみたいな、(傘とか履き替える靴とかクリーニング屋の袋が積み込んである)小さなシティ・カーで、これがまた私には楽しそうに見えるのである。このヒトたちは素顔のアタシで旅してる。

私もそんな旅をしたいと思っていた。それもMATCHと聞いてマッチを想うガイジンではなく、マッチといえばそりゃ近藤真彦ですよ、こんなニホン人の女性と旅したい。出来れば、へえ、パンダって機能的ですね、こんなことを言ってくれるクルマ好きの若い女性がいいなあ。

だからーー。この雑誌の編集者から、3泊4日で会いに行きますと知らせがあったときは喜んでしまった。週末をはさんだ日程と知って勇んで1泊旅行の計画をたてた。“俺のクルマ、使うか?”とダンナが尋ねる。いらない、パンダで行くから。こう答えると彼が怪訝な顔をする。

普段通りのままで女友達と旅がしたいのよ。こう言いかけて口をつぐんだ。ただにやっと笑っただけ。男にはこの気持ちはわからないだろうなあ、そんなつもりで笑ったのである。
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text:松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。
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