ROLLING 40's vol.43 決死隊

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3月3日より公開された、映画「キリン」。私が企画・脚本・監督を務めさせていただいたのだが、池袋シネマ・ロサは初日から数日間はほぼ満員御礼。その後も当初の予想を上回る広がりになり、私たち関係者が「こうなったら、いいなあ…」と願っていたままの形になった。嬉しいと言うより、何か空恐ろしいものと出会ってしまったような気分である。

text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.113 2012年4月号]

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ROLLING 40's vol.43 決死隊

ROLLING 40's vol.43 決死隊

映画を作り続けて5作品目であるが、このような展開は正直、初めての経験である。いつも何とかしてお客様の懐に入ろうと努力をしてきたつもりだが、今回は、フィフティフィフティでお客様と対峙できたような気がする。しかし、やっと…である、今回で、映画作りの1年生にやっとなれただけである。

そして3月24日から大阪シネリーブル梅田、名古屋シネマコーレと公開館を広げた。大阪も初日は満員御礼という形で封切り、その動員の成果から、ユナイテッドやコロナという大手シネコングループでの地方公開も決定した。こういう結果と制作者として対峙しながら、私は感じたことがある。

「ラーメン屋さんと同じ」

ラーメン屋さんに代表されるような1000円以内の商売は「味」次第である。どんぶりの中が美味いか否かだけ。あとはどうでも良い。どんなに派手な宣伝をしても、どんなに華美な店を作っても、結局お客様は美味い店に行く。

今回の映画「キリン」は、はっきり言って低予算である。実際の予算も、テレビ局主導の大作の100分の1くらいである。宣伝もテレビコマーシャルをするわけでもなく、電車の中釣り広告もない。

しかし、今回の映画「キリン」は、原作の持つパワーと神話性を中心に、日本国内の全てのバイク雑誌が「愛」を込めて取材&宣伝を制作途中から1年間に渡りリリースし続けてくれた。こんなことは、女性週刊誌は絶対にしてくれない。

これは12年間に渡り私がいくつものバイク雑誌と仕事をしてきて、誌面でタレントとしての立場を無視してウィリーをしたり、筑波で膝を擦

ったりし続けたからこそのバイク業界との「共有感」と「信頼感」であろう。良い意味でバイク乗りの意識というのは「カルト的」なのかもしれない。12年間の「御乱行」は確実に意味があったのだ。

ドラマの内容に関しての判断はお客様の判断にスルーするが、走りに関しては、現在日本でできうるギリギリかそれ以上の領域にまで足を踏み込んでいる。

計算され尽くされた「お約束スタント」が私は大嫌いだ。CGも同様。退屈なドキュメンタリーとも違う、ギリギリの走りの感覚を随所に盛り込んだ。

これも大手のやり方では不可能だ。当然である。挙げ句の果てに、私自身が「決死」でスタントライディングをした場面もある。そんなことは大手映画会社の監督は絶対にしない。ある意味無茶苦茶だ。しかしただの無茶苦茶ではない。ゴールがあると信じているからこその無茶苦茶だ。

興行という耐久レースはまだまだ続く。今は序盤で好ポジションを走

っているというだけで、ゴールはまだまだ先である。

今回の映画制作で、少しだけ見えてきた感覚。それは、低予算であっても、こちらが「決死隊」となれば大手に対抗しうる何かができるということだ。それを肌感覚で理解した。インチキは金がないとできない、貧乏なんだから命を削るしかない。

そんな経験を元に、私はすでに福島県は南相馬を舞台に、新作映画のロケに入っている。詳細は未発表なのだが、低予算は当然。企画、原案、脚本、監督も私。ただし、キャスティングだけは低予算ではない。

3・11から1年の南相馬市が舞台で、今も現地で強く赤裸々に生きている女性に、東京から逃げてきた訳ありな男が出会い、南相馬市で暮らし始めるという内容。かなり扇情的で過激な内容だが、追い詰められた愛と、放射能の不条理がテーマだ。

南相馬市内とは違う福島県某所でロケをしていて線量を計ると、草むらがとんでもない数値だった。日本昔話に出てくるような素晴らしい場所である。そんな現実と対峙し、場所をお借りしている立場としてとても腹が立った。腹が立ちすぎて、この怒りをどうするかと悩んだ末に、私はその草むらで昼寝をした。何も怖くなく、とても深い眠りだった。

この映画は、ある意味、映画「キリン」よりも、さらに高い速度域で決死隊として挑んでいる。16歳から、いつもこうしてアクセルを戻せないのだ、仕方がない。

*映画『キリン』公式サイト www.kirin-movie.com/
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