おしゃべりなクルマたち vol.46 もう一度スポーツカー

アヘッド vol.46 もう一度スポーツカー

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先月号のこの雑誌の巻頭を飾ったコラムに感激した。筆者は〝熱きバイク乗り〟、大鶴義丹さんで、タイトルは「モテるオッサンでいこう」。

text:松本葉 イラスト:武政諒 [aheadアーカイブス vol.116 2012年7月号]
Chapter
vol.46 もう一度スポーツカー

vol.46 もう一度スポーツカー

同年代以上の人妻と飲んだ時は『卒業』を歌い、彼女たちをシクシク(もしくはオイオイ)泣かせるホット・バイカーはこのコラムのなかで、ハチロク&BRZは若者のクルマではない、元気を失ったかつての走り屋のクルマだ、そうハッキリ言おうゼ、「こいつでまた無茶苦茶しようゼ」と、本人いわく〝愛の暴言〟を記している。

私はかつてユーノス・ロードスターに乗っていた。30代のことで、すでに人妻であったが子持ちではなく、今おもえば若造であったが、自分ではそうは思っていなかった。実際、当時、スポーツカーを選んだ理由について、ある雑誌に「人生の先が見える年齢になって、もう一度、ひとりで過ごしたくなった」、そんなことを記している。

お恥ずかしい。人生の先なんてあれから15年以上たった今でもまったく見えないし、わかったのは、人生の先なんて最期まで見えないものだ、ということくらい。人生の先がどうしたこうしたなどと、青臭いことを考えていたおかげで、私は絶好のチャンスを逃してしまった。走ること、見せること、これが得意のスポーツカーで楽しみ切れなかったのだ。そういう意味では私は大鶴さんの言うところの、めいっぱい楽しんだ走り屋とはほど遠く、どちらかというと気取り屋の口だが、それでももういっぺん、スポーツカーに乗りたい、この気持ちだけは同じなのだ。

私は時折、自分の年齢を想って唖然とする。でもそれは歳をとったことに唖然とするのではなくて、自分の年齢と精神が不釣り合いであることに唖然とするのだ。たとえば亡くなった母は今の私の歳のころ、分別ある大人であった。冷蔵庫の扉を足で閉めるようなことは絶対しなかったし、ポップコーンを口に入れ過ぎてむせるようなこともなかった。もちろんスポーツカーで走りまくりたい、みたいなことも考えたことはなかったであろう。自分はなんと幼稚なのかと唖然、いや愕然とするわけだが、それでも─。私はクルマに出会ってしまった、クルマの面白さを知ってしまったのだ。だからどうしようもない。

マツダがフィアットと提携し、次期ロードスターモデルをアルファロメオ・ブランド向けに生産すると発表したのは大鶴さんのコラムに感激した直後のことだ。なんたるタイミングだろう。神様は私の背中を押しているのか。迷える羊よ、もう一度、スポーツカーにお乗りなさい。神様の声が聞こえる、みたいなことも母なら絶対に思わないであろう。
今からこのロードスターのデビュウを楽しみにしている。ロードスターに乗って、モテるオバサンでいこう。

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text:松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。

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