F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 vol.24 常識はずれのアイスマン

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2009年に訪れたF1日本GPのことが印象に残っている。イベントステージや物販ブースが立ち並ぶグランドスタンド裏の一角に、参戦ドライバーの等身大パネルが並べてあった。主催者の狙いどおり格好の記念撮影スポットとなっていたのだが、あるドライバーだけ順番待ちの長い列ができていた。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.112 2012年3月号]
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vol.24 常識はずれのアイスマン

vol.24 常識はずれのアイスマン

当時フェラーリに在籍していたキミ・ライコネン(Kimi Raikkonen)である。20人いたドライバーのうち、行列ができていたのはほんのわずか。ライコネンを除けば、S・ベッテルとJ・バトンくらいなものだった。なかでも、ヘルメットを小脇に抱えたレーシングスーツ姿の美形の男子と一緒に写真に収まりたがる人々の列は別格。他のドライバーとは比べものにならないほど長く、ライコネンの絶大な人気を物語っていた。
 
苗字に「ネン」がつくことからもわかるように、ライコネンはフィンランドの出身である。その昔、ツテを頼って調べたところによると、「ネン(nen)」には「〜に住んでいる人」や「〜の子孫」の意味があるらしい。

手元にあるフィンランド語辞典に「raikko」の文字は見当たらなかったが、2002年にライコネンにマクラーレンのシートを譲った同郷の先輩、ミカ・ハッキネンの「ハッキ(hakki)」には「とりかご、バスケット」の意味があり、先祖はかご作りをしていたとする推察を当てはめても遠からず、だそう。
 
抑揚なくぼそぼそと不機嫌そうに話すのがフィンランド人の特徴なら、ライコネンは典型的なフィンランド人だ。厳寒の国からやって来て、感情を表に出さないような話し方をするものだから、「アイスマン」のニックネームを与えられることになった。

これには少し、皮肉も込められている。F1ドライバーにはふた通りあって、ベッテルやシューマッハのように自分が納得するまでエンジニアとのミーティングに付き合う(あるいは、付き合わせる)タイプがいる一方で、チームが用意したマシンに乗り込むと、それが多少自分好みでなくても、乗りこなして素晴らしいタイムを出してしまうドライバーがいる。
 
便宜上、秀才型と天才型に分類すると、ライコネンは天才型。聞くところによると、走行セッションが終わると、ミーティングもそこそこに「あとはよろしく」とばかり一刻でも早く帰途につきたがるタイプだという。そんなところも「冷たい=アイス」のイメージに結びついているようだ。
 
マシンを作るのはチームの役割、僕は運転する人という線引きをきっちりするタイプなので、3年ぶりのF1復帰にあたって選んだロータスのマシン作りが「外れ」だった場合、チームとの密な連携で戦力を立て直す作業は期待できそうにない。

その代わり、ちょっとやそっと狙いから外れても、外れた分を埋めるだけの才能は持ち合わせていそう。実際、テストではブランクを感じさせない走りを披露している。ライコネンは人気も実力も常識外れなのかもしれない。
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1979年生まれのライコネンは2001年にザウバーからF1デビュー。2002-06年はマクラーレン、2007-09年はフェラーリに在籍。2010-11年はシトロエンでWRC(世界ラリー選手権)に参戦するが「F1へ戻りたい」という気持ちを強めるための活動に終わる。2012年にロータスからF1に復帰。写真・Lotus F1 Team

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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