タクシーはセダン…の固定観念は破られつつある、最近のタクシーの事情とは?

27年間作り続けられたタクシーの定番、Y31型セドリック

1987年の夏、Y31型セドリック・セダンのタクシー営業車が走り始めた頃のことを今でも覚えています。それまでのゴツゴツとした無骨な印象のタクシーから、面の構成がスムーズで洗練されている、しかも室内が当時としては広く明るいというのも特徴で、街の風景がちょっと変化したような気がしたものです。

Y31型セドリック営業車はそれから27年、途中クルーというタクシー用銘柄が誕生するも、結局2014年の秋まで生産が続けられ、日産自動車におけるタクシー車両の定番として長く君臨し続けました。

Y31セドリックの開発秘話を以前に書かせていただいたことがあります。個人的なお話ではございますが、そんなY31ファンの筆者としてはこのクルマがこんなにも生きながらえられたということは、実に喜ばしいことであり、しかも、とくに運動性能や疲労の少なさなどからドライバーさんの評判がおおむね良かった、という事実もまた拍車をかけてくれました。

こちらもそれなりに長生き、今の定番クラウンコンフォート

対するトヨタのタクシー営業車の定番はこのクラウンコンフォート。このクルマは日産でいうとクルーの誕生とほぼ同時期で1995年12月。タクシー用車両として専用に開発され、キャビンの設計や運転席周り、シートなど、ドライバーさんの職務環境にも十全に配慮の施したもの。それまでの130系クラウンセダンから瞬く間にこのクルマに置き換わっていきました。

乗るとさすがに後席重視で作られただけのことはあって、じつに「広い」。そして見晴らしがよく、特筆すべきは乗り降りのしやすさ。頭がつかえにくいというのは全高の高さやドアの間口の切り方の工夫の現れであり、つま先がサイドシル(ドア間口の下端の敷居)に引っ掛かりにくいというのも、この大量生産のコストダウン命というようなクルマにして、じつに行き届いた配慮に思えます。

こうして、ここ20年以上は、上記セドリックとこのクラウンコンフォートの二台が担ってきたタクシー営業車両。やはり、「セダン」なんですよね。これはひとつにクルマとしてベーシックなカタチであり親しみやすいというのもあるでしょうし、メーカーもタクシー会社の求めるままに、こうしたクルマを大量生産、大量供給できる体制を採ったのでしょう。ただ、もう一点挙げるとするならタクシー特有のLPガス燃料の問題。これのタンクには厳しい基準があって、それをトランク内に収めなければならない、という問題もあったわけですね。

故に「セダン」だった、ということなのでしょう。

最近増殖中、日産NV200のタクシーの乗り心地とは?

最近のミニバンはFF化されて床も低いですから乗り降りも非常にしやすいですし、そもそもアイポイントが高いから見晴らしもよく後席に乗るには実に快適な乗り物であるということは、理屈よりもはるかにユーザーの皆様ならご承知のことでしょう。ですから、今までミニバン型のタクシーがあまり普及しなかったのが筆者にはちょっと不思議です。ま、都内の営業所などには高さ制限などの問題もあったでしょうから、障害もなくはなかったかもしれません。

で、NV200のタクシー。早速ドライバーさんにインプレッションしてもらいました。それではQ&Aを見て行きましょう。

Q「新しいこのミニバン型のタクシー、運転してみてどうですか?」

A「うん、いいねえ。見晴らしがいいからお客さんも喜ぶし、運転しててもストレスがないよ」

Q「でも重心も高いし、運転しにくくないですか?」

A「高速で横風とかひどかったら気になるかもしれないけど、でも良く出来てるよ、思ったより安定してる」

Q「燃費はどうですか?」

A「セドリックと比べてトントンくらい。乗り方次第だと思うけど。街中ではあんまり変わんないかな」

Q「運転手さんならこのNV200とコンフォートやセドリック、どっちがいいですか?」

A「俺はもう完全にコッチ(NV200)に慣れちゃったからコッチだねー、ストレスないし、疲れないんだよ」

Q「じゃあ完全に今までよりいいと?」

A「そうだね、しかもほら、そういうお客さんには当たったことないけど、バリアフリーも付いてるし…」

…だそうです、ご参考までに。乗せていただいた車両は車椅子対応車だったわけですね。筆者も個人的にこちらのほうが乗っていて快適だと思いました。

プリウスのタクシーもじつは…

プリウスのタクシーには筆者も個人タクシーで乗ったことがあります。やはり抜群の燃費性能に「収益率」が向上してドライバーさんもウハウハという感じだったのですが、このプリウスもまた営業車として導入するタクシー会社も増えていますよね。やはり街中をうろうろする時間の長い都会のタクシーならプリウスのようなクルマはやはり適しているのかもしれません。

で、このプリウスのタクシー。あるタクシー会社によれば、納車されてから自社工場でとある改造を受けるのだそうです。もちろん、自動ドアの設置や無線、メーターなど諸々の設備と同時に、なんとLPガスのタンクも備え付けるのだとか。プリウスのタクシーもLPガスで走っているのですね。ガソリン仕様でも燃費のいいプリウス、もともとの燃費の良さとも相まって1600キロメートル給油なしで走れるのだとか。少なく見積もってもセドリックやコンフォートの3倍は走る計算です。

これからどんどんハイブリッドのタクシーが増えていくかもしれません。

主に観光向けに需要のある大型ミニバン

都内ではとくに大手タクシー会社がアルファードやエルグランドを「観光客向け」に用意していることが多いですよね。やはり地方や、あるいは外国からの観光客を東京案内するために重宝するのだとか。神奈川県内にも横浜市内を案内する目的で、同様にアルファード、エルグランドなどを用意している会社があります。

筆者の地元にはアルファードの個人タクシーがいて、乗ったことがあるのですが、あの広い2列目セパレートのシートで、たかだか15分の短い旅ではありましたが、至福の時間を楽しみました。仕事疲れをちょっぴり癒してくれるプチ贅沢です。

というわけで、こうして見渡してみると今回ご紹介したものばかりではなく、様々なタクシー車両が存在することがわかります。一時は固定観念的にセダンの安い仕様を大量導入して走らせていたタクシー会社も、ここへきて様々なサービスや取り組みの結果、顧客のニーズにもきめ細かく応えるようになり、またそれゆえにタクシー車両のバリエーションもどんどん増えてきた、という背景があるようです。

ドライバーさんはお仕事としてお客さんの命を預かり、お客さんはお客さんで快適な移動空間を求める。その意味でタクシーに使われるべきクルマに求められる要素というのは、人一倍、いや、クルマ一倍高いレベルにあるのかもしれません。時代も変化し、タクシー会社のサービスレベルも高まってくると同時に、タクシー車両も変化を遂げて、進化を続けているということで間違いなさそうです。

今、トヨタでも新しいタクシー専用車を開発中といいます。日産がNV200にスイッチしたことでやはりセダン型にこだわり続けるのは得策ではないと考えているのでしょう。タクシー営業車でも静かな戦いが繰り広げられそうです。

<前田恵之進>

この記事をシェアする

関連する記事

最新記事