埋もれちゃいけない名車たち VOL.21 限りなくスズキ社内デザインだった「スズキ フロンテ・クーペ」

アヘッド スズキ フロンテ・クーペ

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近年、軽自動車が熱い。それは至れり尽くせり系のトールワゴンを生産するメーカーの一騎打ちのような状況を意味してるわけだが、その昔は全く別のバトルが軽自動車間で繰り広げられていたものだった。そう、軽自動車のスポーツタイプである。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.137 2014年4月号]
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VOL.21 限りなくスズキ社内デザインだった「スズキ フロンテ・クーペ」

VOL.21 限りなくスズキ社内デザインだった「スズキ フロンテ・クーペ」

まだ軽自動車が360㏄だった時代。1960年にマツダがR360クーペというそれ風のモデルを発売したりはしたが、本当に盛り上がったのは1967年にホンダがN360を発売してからである。

パワーは20‌ps台前半というのが当たり前だったところへ、いきなり31‌psを投入。それをきっかけに軽自動車の高出力化競争が始まって、最もエスカレートしていた'70年代初頭にはリッター100psを超える40‌psを誇ったクルマまで投入されていたほどだった。

フトコロがそれほど温かくなかった庶民達もスポーツカーに素直に憧れたし、自動車メーカーも彼らの気持ちに真剣になって応えようとした。そういう時代があったのである。

ヒーロー代表は、'71年デビューのスズキ・フロンテ・クーペだろう。フツーの軽自動車のボディに高性能エンジンを積んだライバル達と違った、見事に美しいクーペ・スタイルのボディを持っていたのだ。

スタイリングはイタリアの名匠ジョルジェット・ジウジアーロがデザインしたものといわれているが、実際には限りなくスズキの社内デザインというべきもの。傾斜の強いAピラーとCピラーは、ハッキリとスポーツカーらしいシルエットを作り出していた。

そして当初は〝ふたりだけのクーペ〟というキャッチフレーズでスタートしたように、2シーターのみの設定だった。

メカニズム的にはファミリー向けといえる3代目フロンテとほぼ共通だが、RR方式で搭載される2サイクル水冷直列3気筒3キャブレターのエンジンはシリーズ最強の37‌ps仕様、ミッションはクロースレシオの4速MT。4輪独立懸架のサスペンションも通常のフロンテと較べるとかなりハードに締めあげられていた。

フロンテ・クーペは車重が480㎏と軽かったこともあって、ゼロヨン加速19.47秒と、360㏄にしてはなかなかの俊足。まだ重心高が低いこともあって小気味のよいハンドリングを楽しむことができた。

けれど何より素晴らしかったのは、メーカーが財布の軽い人達のためのクルマだからといって及第点でいいなどと考えたりせず、本格的なミニマムスポーツカーを作ろうと本気になって設計・開発したことだ。上のクラスのスポーツモデル達に、フロンテ・クーペは全く見劣りしていない。

今、ホンダはビートの再来のようなスポーツカーを開発中だ。ならば軽リアルスポーツカーのパイオニアといえるスズキは? 歴史を知る身としては期待をかけたい気分になる。

スズキ フロンテ・クーペ

フロンテ・クーペは1971年から’76年にかけて生産された、スズキの軽スポーツカー。全長3m、全幅1.3mの軽自動車には思えない流麗なクーペボディのリアに、37ps/6,500rpmと4.2kgm/4,500rpmの高回転型2サイクル3気筒3キャブレターのエンジンを搭載。その加速もコーナリングも、軽自動車の領域を超えるスポーティなものだった。

また室内も6連メーターやバケット型のシートなど、当時のGTスポーツカーの公式をしっかりと踏まえた本格的な作りとされていた。軽自動車だからといって手抜きも欺瞞も一切なしだったのだ。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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