埋もれちゃいけない名車たち VOL.25 乗り心地の良さを知らしめた一台「シトロエン ZX」

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例えば「赤くて速い」がフェラーリ……みたいな、ファンの頭の中で自然に育ってきたイメージというものがある。そしてその固有のイメージが与えてくれるモノこそ、そのクルマのレゾンデートルであるように思っていたりする。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.141 2014年8月号]
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VOL.25 乗り心地の良さを知らしめた一台「シトロエン ZX」

VOL.25 乗り心地の良さを知らしめた一台「シトロエン ZX」

そのひとつに「ちょっと突飛なカッコをしてるけど、乗り心地は抜群にいい」シトロエン、というのがある。代表例を挙げるなら、昔のDS、SM、GS、CX、そしてBXにXM。どう見てもフツーのカッコはしていない。そしてこれらは全て、魔法の絨毯のような乗り心地を生み出すハイドロニューマチック・サスペンションを備えていた。

その機構は複雑にして高価だから、下のクラスのクルマ達は一般的なコイルスプリングとされていたが、それら〝バネのシトロエン〟も、2CV、アミ、ヴィザ、AXと、ほとんどが「ちょっと突飛なカッコ」の範疇にあった。〝バネのシトロエン〟のわりには乗り心地がよかったのも確かだった。

シトロエンは「ちょっと突飛なカッコ」をしてるのが存在価値であり、「乗り心地がいい」のが存在価値。それは大筋正しいのだ。それら明快な個性は、近年のラインアップにもしっかり再現されていると思う。

だが、今でこそシトロエンも広く受け入れられているが、昔は「ちょっと突飛なカッコ」に負けて「乗り心地がいい」を体験する前に他へ行ってしまった人も多かった。とりわけ周囲との調和が何より重んじられた旧い日本では、〝変わったヒトが乗るクルマ〟とされていたほどだ。
それを払拭するのに大きな貢献を果たし、現在のシトロエンの立ち位置を固める人柱的な存在となったモデルがあった。〝ZX〟である。現在のC4の先祖であり、当然シトロエン最大の強みであるハイドロニューマチックも持たされていない。最大の特徴はシトロエンとは思えない極めて地味なカッコ、とすらいえるほど控えめな姿。

だが、その奥ゆかしさは、「ちょっと突飛なカッコ」に抵抗感があった人達に、「乗り心地がいい」を体験するチャンスを生んだ。ZXは〝バネのシトロエン〟の分際で、柔らかくて滑らかだけど芯のある、素晴らしく快適な乗り心地を持っていた。ここに惚れ込むと、他ではなかなか満足できなくなる。

そしてシトロエンの魅力は、乾いた土に水が染み込んで行くように、クルマ好き達の間にジワジワと浸透していった。ZX自体はあまりに地味すぎて販売は奮わなかったが、まるで肉を切らせて骨を断つみたいにして、シトロエンの素晴らしさを広めるキッカケを作ったのである。

歴史の影にひっそりと消えていこうとしているZX。もしあなたが現在のシトロエンのユーザーなのであれば、こういうクルマがあったことを頭の片隅に置いて欲しいと思う。

シトロエン ZX

ZXは、上級化してしまったBXとベーシックなAXの間を埋める小型大衆車として、1991年にデビューした。

全長4,070mm、全幅1,700mmのコンパクトなサイズながら広々とした室内を持つハッチバックモデルで、前:マクファーソン・ストラット+コイル・スプリング、後:トレーリング・アーム+横置きトーション・バー・スプリングという一般的な金属バネのサスペンションでありながら、シトロエンの名に恥じない驚くほど快適な乗り心地を実現していた。

またゴムブッシュの変形を利用した四輪操舵的な機構も備えており、ハンドリングは抜群にスポーティだった。地味だけど素晴らしいクルマだったのだ。

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text : 嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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