Rolling 40's Vol.83 真夏の誘惑

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夏になると大きなアメ車やピックアップトラックが無性に欲しくなる。私もアストロと言うアメ車のミニバンを持っていたことがある。最終モデルの白で、ホイールなども流行のタイプに変えてかなりお気に入りだった。しかしリアに広がる巨大なスペースを有効に使った記憶はほとんどない。

text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.153 2015年8月号]
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Vol.83 真夏の誘惑

Vol.83 真夏の誘惑

オートキャンプ遊びもしないので、たまに大勢で遠乗りをするか友達の引っ越しを手伝ったくらいで、無駄に広がる無用の長物でしかなかった。
ただ、クルマの魅力というのは理屈だけでは割り切れないもので、クルマを運転している時、自分の周りに広い空間が常に存在していることが心地良かった。

とくに渋滞の中で普通のクルマより何故かストレスが軽く感じられ、結局3年以上乗り続けた。

売ってしまった理由は2つあり、細かい故障に耐えられなくなったことと、燃費の悪さだった。故障に関してはある程度は自分で直したりもしたが、エアコンを使うと都市部でリッター5キロという燃費の悪さに対しては為す術がなかった。

当時はガソリンが今よりずっと安かったので何とか頑張れたが、今のガソリンの値段で考えたら絶対に許容できるものではないだろう。

ただアメ車とは不思議なもので、高速道路を時速60マイル、つまり時速100キロ弱で巡航するとリッター10キロくらい走るのだ。OHVの4.3リットルV型6気筒エンジンでその燃費である、つまりエンジン自体の効率はそれほど悪くないとも言える。

しかしストップアンドゴーを繰り返すと途端に無駄にガソリンを飲んでしまうのだ。加速が悪くなったとしても、セッティング変更でもう少し燃費を改善できないのだろうかと思ったくらいである。

ガソリンタンクは100ℓで、満タンなら北米大陸の広々としたフリーウェイを千キロ近くノンストップ走行できるという訳だ。つまり、広いお国に合わせた設計なのだろう。

ここ数年はオフロードバイクに熱中していて、公道を走れないマシンなどは、近所のニッポンレンタカーでマツダのボンゴトラックを借りてトランポしている。質実剛健という点では完璧なその国産小型トラックではあるが、「スタイル的」にはどうしても問題がある。

載せているマシンが世界最高のオフロードマシンなので、「お仕事イメージ」が強い国産小型トラックでは、尚更イメージの差が明らかになってしまうのだ。

ハッキリ言ってオフロードバイクで遊ぶということは他人に見せびらかして虚栄心を満足させるものではない。派手なようだが、実は内向的に自己と対峙する、とても崇高な遊びである。

しかし暴言と知りつつ言ってしまうが、普段の仕事使いや街乗りも出来て、さらに休日にはカッコ良くオフロードバイクをトランポできるクルマと言ったら、地球上にはアメリカンピックアップトラックしかないと真夏になると思ってしまう。

または北米でのみ売っている、日本製の巨大なピックアップトラックだ。つまりどちらにしてもアメリカベースでの思想と設計である。

それはアメリカで売られている巨大なピックアップトラックだけが、世界の数多くのクルマのなかで唯一、セダン的な普段使いの良さ、四輪駆動トラックとしての実用性や走破性、そして5万ドルを遥かに超す値段の高級車としてのきらびやかな虚栄心、相反するこの3つの要素を無理やり詰め込んでいるからだ。

大抵のクルマはその3つの要素をそれぞれ別々に追及しているのに、アメリカのピックアップトラックだけが、ガラパゴス的に進化してしまったのには理由がある。

日本とは桁外れに広大なアメリカの風景やそこでの生活スタイル。日本のようにバスや電車などの公共交通が、移動や物流サービスをすべての地域でカバーする訳もない。西部開拓時代より育まれたそんなスタイルから生まれたのが、アメリカの「ピックアップトラック文化」だろう。

家族、そして人生に必要な物資を、他者に頼らず自ら所有する四輪駆動トラックでタフに自在に輸送できる、そんな開拓時代の幌馬車と通じる独立性の象徴なのだ。大家族が暮らす大きな家に、大きなクルマ。

日本でいえばサラリーマンの出世と終身雇用が生んだ名言「いつかはクラウン」的なものだろう。でっかいピックアップトラックにバイクを積んで山に向かい、車中泊でオフロードバイク三昧。真夏になると訪れるそんな誘惑と闘いながら、今日もエアコン全開でリッター14キロくらい走るハイブリッド車で通勤している。

実際の話、この燃費の良さを覚えてしまうとリッター5キロ前後のアメ車には戻れない。経済の問題に加え、ガソリンスタンドに行く手間が省けるということもある。

だがあと2ヵ月もして秋の足音がしてくると、風邪の熱が冷めていくかのように、巨大なアメ車が欲しくなる熱病も去っていくから不思議だ。
月に2回かそこら、バイクと山に向かうだけなんだから、国産小型トラックのレンタルでも、十分過ぎるくらいに贅沢なのだと我に返る。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
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