Rolling 40's Vol.86 二輪の功罪

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東京モーターショーを目前に控え、私は今年の開催をかなり楽しみにしている。このショーは二年に一度のイベントと言うこともあり、その二年間のスパンにおける開発中の技術や、新しく発売されるクルマやオートバイの進化は大きい。

text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.156 2015年11月号]
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Rolling 40's Vol.86 二輪の功罪

Rolling 40's Vol.86 二輪の功罪

今年のクルマは何と言っても自動運転である。前々回くらいのモーターショーまでは、まだSFの匂いがしていた領域であったが、今回のモーターショーからは、いよいよあと何年で、という次元の話になってきた。

法整備や保険の問題はあるが、私見としてはそのあたりの問題は意外と楽にクリアしていくような気がしている。

とくに保険においては、保険会社は数学的な確率でのみ動くので、自動運転の方が事故発生の確率が少ないと分かれば、姿勢をあっという間に変えるはずだ。

「自動運転特約」なんてものが出来て、確率的には自動運転の方が事故発生が少ないのに、余計にお金を取られるような気がする。

まあそれも最初のうちだけで、自動運転がさらに進化していくと、反対に自動運転じゃないクルマの方が保険金が高くなるだろう。保険の数学論というのは生命保険でも医療保険でも全てそういうモノだ。

また同時に現実味を帯びてくるのは自動運転のレースである。ほとんどハリウッド映画の世界であるが、人間型ロボットの格闘技大会よりは動きが単純で現実味があり、絶対に20年以内に実現するだろう。

小規模なモノなら10年以内に始まる可能性もある。マニアには、人工知能のチューニングという分野も出てくるはずだ。メーカーが作ってきた人工知能のプログラミングを書き換え、レースまがいの運転をするプログラムに改造するだろう。

有名レーサーの運転スキルを再現するような「セナ・プログラム」「星野一義・プログラム」などが売られるかもしれない。私なら「土屋圭一・プログラム」を買うだろう。どこでもドリフトしてくれるのだから楽しいはずだ。そんな未来が夢想ではなく、10年後だという現実感を今回のショーでどこまで体感できるか楽しみである。

自動車は最先端にまっしぐらという感じであるが、二輪に関してはまだまだアナログのままである。

ブレーキのアシストやスリップのコントロールはかなり進化しているが、完全自動運転なんてものは、どこの二輪メーカーもまともには研究していないはずだ。その理由は二輪の運転というものは自動車よりはるかに複雑で矛盾に満ちたモノだからだ。

とくに横に倒れながら曲がるという機構は力学的に無駄が多いと言う。

自動車のようにアクセル、ブレーキ、ハンドルの三つの動きで全てをコントロールするのではなく、ライダーの体重移動がコントロールの多くを担っている故に、電子的なデバイスがその全てに代わることが出来ないからだ。

もし自動運転で制御することになると、その複雑な重心移動のコントロールをどうするかと言うことになるだろう。

いつかはそんな未来がやって来るかもしれないが、二輪という矛盾に満ちた機構を、メーカーが莫大な費用をかけて開発するとは思えないし、見返りが望めないものに企業が投資する訳がない。

またコントロールするのが楽しくて乗っているのだから、それを完全にコントロールされてしまうと、たんなるジェットコースターになってしまう。乗り物という世界にとって、オートバイが最後のアナログ聖域ということなのだろう。

そんな矛盾に満ちたバイクに関わる人たちも不思議な方たちが多い。

とくに大きくてややこしいバイクを売っていて、さらにそれを奇怪に改造するようなバイク屋さんに集まる人々はさらに不思議原人ばかりだ。知り合いのバイク屋に半日くらい遊びで居座っていると、幾つもの不思議なバイク百景に出会うことが多い。

共通しているのは、オートバイなどに乗らずに普通に生活している方とは違う人種だということだ。

趣味性と言う言葉で片付けてしまえばそこまでだが、自動運転の未来もなさそうな不思議な乗り物に対する、彼らの愛情は尋常ではない。だがその複雑な愛情を生み出す原動力というものに、オートバイの未来というモノがあるのかもしれない。私らの愛の続く限りということだ。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
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