21世紀少年はドライブにいく夢を見るか? vol.2 世界の動向

アヘッド 21世紀少年

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世の中は自動運転の実現に向けて動き始めている。先行車に追突しそうになった場合、ドライバーの先手を打ってブレーキをかけてくれる自動ブレーキは実用化されて久しい。先行車との車間距離を保つよう制御する追従機能付きのクルーズコントロールも実用化済みだ。これらの機能はクルマを開発する自動車メーカーや、部品やシステムを開発するサプライヤーの企業努力によるところが大きい。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.160 2016年3月号]
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vol.2 世界の動向

vol.2 世界の動向

実は、それだけでは完全自動運転は実現しない。いくらメーカーが「実現させます」と宣言したところで、法整備がともなわなければ、絵に描いた餅に終わってしまうのである。

例えば、ハンドル操作は10㎞/h以下でないと自動で制御できないことになっている。これは日本だけでなく世界的にそうで、国際基準によってそう決められているからだ。逆に言うと10㎞/h以下の手放し運転は許容されており、それゆえ、自動駐車がすでに実現しているのだ。

ところが、自動車メーカーによって近い将来の実用化が目指されている高速道路の自動合流および自動分流となると、そうはいかない。

現時点では10㎞/hより上の速度域での自動ハンドル操作は認められておらず、法改正が必須だ。自動運転の進化の行き着く先である無人運転も、法改正なくしては成立しない。

国際連合が定める条約のひとつ、通称「1949年ジュネーブ条約」が、「車両には運転者がいなければならない」「運転者は適切かつ慎重な方法で運転しなければならない」と定めているからだ。この条約がある限り、国連の条約加盟国として無人運転を認めるわけにはいかないのだ。

自動運転の段階的な進化や、その究極の到達点である完全自動運転、無人運転を実用化するのに必要な基準(規則)づくりを行う組織が国連にある。「自動車基準調和世界フォーラム」が正式名称で、略称はWP29。WPはワーキングパーティーの略で、作業部会の意味。

農業や医療など、さまざまな作業部会があるなかで、29番目に誕生した部会なので29というわけだ。ちなみに、前出のジュネーブ条約はWP1で定められた。

WP29は国連・欧州経済委員会の下部機構にあたる。地続きになっている欧州で、クルマに関する規則が国ごとに異なっていると不便なため、統一基準を作る目的で立ち上げたのが始まり。'58年のことである。

その後、自動車産業が発展してアメリカや日本のクルマが世界各地を走り回るようになると、世界的に統一された基準づくりが必要とされるようになった。

そこで、日本がWP29に加盟すると同時に提案して、'98年に国際基準を改定。これを機にアメリカや中国など主要国が加わった。WP29に出向いて交渉の場に立っているのは国土交通省だ。

WP29のメンバーになっていると、日本で基準に合致していれば、加盟国で基準に合っているかどうかのチェックを受ける必要がない。仕向地ごとの規則に合わせて仕様を用意する必要がなく、非常に効率的である。

WP29には安全一般/衝突安全/ブレーキと走行装置/排出ガスとエネルギー/騒音/灯火器の6つの専門分科会がある。自動運転に関する基準が絡んでくるのは、このうち「ブレーキと走行装置」の分野だ。

この分野で、日本が主導権を握って基準づくりをしようとしている。日本の自動車メーカーはすでに、日本の道路交通環境に合わせた条件で自動運転技術の開発を進めており、その条件に合う格好で基準が制定されれば、ロスがなく効率的に、しかも早く世界各地の市場に新しい技術を投入できることになる。

逆に言うと、開発に積極的なドイツのメーカーの仕様に合わせて基準が制定されてしまうと、日本のメーカーは仕様変更を迫られ、国際競争で後れをとってしまう恐れがある。

'14年に開催されたWP29では、「自動運転分科会」の立ち上げが合意され、日本とイギリスが共同議長に就任した。また、'15年2月にはブレーキと走行装置の下部組織として「自動操舵専門家会議」の立ち上げが合意され、日本とドイツが共同議長に就任している。

しかし、「それだけでは不十分」と国交省関係者は力を込めて言う。「議長の立場として原案を早く提案すること」が重要だと。

自動運転の分野で国際競争をしているのは技術だけではない。その技術を普及させるための国際基準づくりにおいてもまた、競争が繰り広げられているのだ。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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