21世紀少年はドライブにいく夢を見るか? vol.3 ニッサンIDSコンセプト

アヘッド ニッサン IDS コンセプト

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日産自動車のカルロス・ゴーン社長兼CEOは'07年に、「'10年までにゼロ・エミッション車を量販する」と約束した。その答えが電気自動車のリーフだ。すると今度は、「'20年までに複数の車種で自動運転を実用化する」と宣言した。自動運転に関して世界トップレベルの技術を有すると自負する日産だからこその宣言だ。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.161 2016年4月号]
Chapter
vol.3 ニッサン IDSコンセプト

vol.3 ニッサン IDSコンセプト

'20年の自動運転実用化に向けて、日産は段階的に技術を導入していく。第1弾は'16年末まで、すなわち今年の話で、混雑した高速道路上で安全な自動運転を可能にする「パイロットドライブ1.0」を世界に先駆けて日本に導入する。

'18年には危険回避や車線変更を自動的に行う複数レーンでの自動運転技術を導入。交差点を含む一般道での自動運転技術の導入を'20年までに計画している。

それで終わりかというと、そんなことはない。

「自動運転とは何ですか?と聞かれたら、ボタンを押したら自動的に目的地まで連れて行ってくれること。究極の姿はそれです。洗濯機だって何だって、『自動』と言えばそういうことでしょう」

こう説明するのは、日産の自動運転研究開発を指揮する飯島徹也さんだ。自動運転の技術の終着点は、ボタンひとつで解決する世界である。ただし、それをユーザーが望んでいるかどうかは別問題だし、自動車メーカーが単独では解決できない問題もはらんでいる。

自動運転の究極の姿であるボタンひとつの世界を提示したのが、'15年の東京モーターショーに出展したニッサンIDSコンセプトだ。
▶︎日産が目指す自動運転の方向性を示した「ニッサンIDSコンセプト」。ある時にはアクティブに運転を楽しみ、ある時には運転から解放され、より創造的な時間を楽しめるものこそが、日産自動車の考える自動運転車だ。


このクルマは「202X年のフューチャーモビリティ」を示したコンセプトカーである。自動運転となるPDモード(パイロットドライブ)を選択すると、ステアリングホイールはインパネに収納され、ドライバーを含むすべての乗員がリラックスできる空間を提供する。

一方、MDモード(マニュアルドライブ)を選択すると、ドライバーの前にステアリングとヘッドアップディスプレイが現れ、運転に集中できる環境を整える。状況に応じてインテリアがトランスフォームする姿が話題になった。

「世の中の変化を加速させるために、あえてカッティングエッジ(最先端)の試作車を展示したのです」と飯島さんは言う。

「自動運転が世の中に浸透していくためには、社会が変わっていかなければなりません。これからどう変わっていくのかイメージできないと、どう変えていいかもわからない。だから、自動運転ってボタンを押せば目的地まで連れて行ってくれることを指すんだ。それが実現すればみんな楽しくクルマを使えるようになるね、と示したのです」

具体的な姿が提示されれば考えるきっかけになるし、そんなに早く変化するんだったら、こっちもそれに合わせて準備しなきゃ、と思う人たちもいる。

気をつけなければならないのは、日産はニッサンIDSコンセプトのようなクルマを市販すると約束したわけではないということだ。あくまで、自動運転の究極の姿を提示しただけである。「ステアリングは絶対に必要」という声が出るのも承知しているし、むしろ、様々な意見が出ることを期待している。

なぜなら、ボタンひとつの世界が実用化されるには、社会の同意が必要だからだ。こんなクルマができました。さあ、みなさん買ってください、というワケにはいかない。

自動運転の技術は、いつかはボタンひとつの世界になるが、「当面は、人とクルマで安全を確保し、交通事故のない安全な交通社会を作っていく」ことになると日産は認識している。渋滞などによる経済損失も減らしたい。

「クルマの知能化は進んでいますが、想定外の出来事に対応できるほど応用が利く状態にはなっていません。であれば、想定外のことが起きないようにすればいい。クルマにすべてを任せるのではなく、道路側の助けを借りると、自動運転の能力は飛躍的に向上します」

道路は社会資本であり、その整備に使うのは税金だ。税金を投じる価値があるかどうかを判断するのは国民である。例えば、交差点で右折するとき、目の前に大きな車両がいたのでは、クルマがいかに優れた目を持っていても状況は把握できず、判断もできない。そのとき道路側のサポートがあれば、死角は解消できる。

自動運転に未来はあるのか、夢はあるのか──。自動車メーカーだけが決めるテーマではなく、恩恵にあずかるユーザーが積極的に考えていくべきテーマである。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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