Rolling 40's Vol.90 アドベンチャー的な誘惑

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新しくホンダから発売された、CRF1000Lというアドベンチャー系と言われる大型のバイクを二週間ほどテスト的に乗り回す予定だ。昨今ブームになっているアドベンチャー系バイクを簡単に説明すると、多くの方が大型バイクに持っているイメージとは違う新しいジャンルのものである。

text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.160 2016年3月号]
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Vol.90 アドベンチャー的な誘惑

Vol.90 アドベンチャー的な誘惑

バイクに乗らない方にも分かるように説明すると、道に縛られない、自由なスタイルのツーリングに特化したバイクと言えばよいだろう。

つまり高速道で300キロ近く大移動した後に、山間のワインディングを走り回ったり、気が向くままに山の林道に分け入ったりもできるようなバイクだ。ヨーロッパではアルプスローダー、日本では昔からデュアルパーパスとも呼ばれてもいる。

オンロードとオフロード、どちらにもおいても秀でた性能を求められ、荷物の積載能力が大きいこと、高速移動に適した風防があること、乗車姿勢が比較的楽で、長距離のライディングが楽にこなせることも求められる。

このジャンルのバイクは、実は昨日今日始まったものではない。元々は国内外のメーカーが、パリ・ダカールラリー専用の競技車デザインを取り入れた市販車をリリースしたことから始まっている。

ホンダからは1987年に「トランザルプ」、1988年にはBMWから「R100GS パリダカール」が相次いで発売されたのがそのジャンルの正式な始まりだった。

その後、このタイプのバイクはヨーロッパで人気を持ち、アドベンチャー系というバイクとして進化し、「BMW R1200GS」の人気がいまの世界的なブームを牽引していると言って良いだろう。ドゥカティやトライアンフなど、オフロードのイメージがないメーカーでさえもこのジャンルに参入しているくらいである。

車種によってはオンロード寄りか、オフロード寄りかという違いもあるが、今回のCRF1000Lというバイクは「アフリカツイン」という別名を持つように、その中でもオフロードに強いということが命題になっている。

だからオンロードでの性能云々よりも、ビッグオフローダーというジャンルで受け止めている方もいるくらいである。

私の個人的なイメージかもしれないが、このジャンルは少し前までは「お金のある年配ライダー」のものというイメージだった。

長距離ツーリングにおける利便性が高いことは分かっていたが、それは同時に速くて乗りにくいバイクに乗れなくなった「あがり」を意味することでもあり、私たちの世代がそのジャンルのバイクに手を出すケースは少なかった。

またこのジャンルにおける外車の価格は200万円を平気で超えることもあり、一部の趣味人だけのものという側面もあった。だが、今回のこのホンダCRF1000L「アフリカツイン」というバイクの登場により、私たち世代のバイク乗りの反応は、少し様子が違う。

それは価格設定が今までの国内大型バイクの価格帯と同じであることから始まり、そのイメージが余裕のある年配者の道楽とは全く反対側にあることだろう。

私たちの世代がバイクに乗り続けるというのは、実質的にバイクが楽しいという以外に、バイクに乗り続けている「漢」であり続けたいという自己陶酔の部分が大きい。だから幾らのバイクに乗っているのではなく、どんなバイクを乗り回しているかということが重要なのだ。

旅好きが好むツーリングバイクというものがどれだけ素晴らしいかは分かっていても、何となく「穏健」なイメージがあると私たちのような一部の中年は尻尾を振らない。

そのあたりのハードルを「アフリカツイン」は既存の同名車のイメージを上手に昇華させ、現実的な価格帯に攻撃的な投下をしてきたということだろう。

私の周りのバイク乗りたちの反応は2つある。1つは元々このジャンルのバイクの楽しみ方を知っていた方たちで、彼らの反応は実際の性能やオフロードでどこまで通用するかというマニアなものである。二倍くらいの値段がする外車勢との比較もあるだろう。

2つ目は今まで普通の大型バイクで週末ツーリングをしていたような、正当なバイク乗りたちのザワつきである。

極端な改造やスポーツ性能を求めないようなバイク乗りである彼らは、このバイクの登場に、今まで乗っていた普通の大型バイクの存在意義を疑い出す。

普通の大型バイクという形に強く拘らない限り、身体へのストレスの無さや、荷物の積みやすさや、旅先で道を選ばない能力という部分も含め、オンロードでの特殊なスポーツ性以外では、全ての面でこのジャンルの方が勝っているということに気が付いてしまうのである。

バイクと言えば、大型のオンロードバイクという日本ガラパゴス的なイメージが揺らいでいるのだ。

私自身もこの3月からこのジャンルのバイクに初めて手を出すのであるが、自分の中で壊れるようなものがあるとしても、そんなものはとっとと壊れてしまえば良いと思っている。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
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