Rolling 40's Vol.93 珍走

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フェイスブックで馴染みの男性から「首都高速トライアルのスカイラインRSに乗り、あの頃のようにまた首都高を走ってください」と応援メッセージを頂いた。

text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.163 2016年6月号]

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Rolling 40's Vol.93 珍走

Rolling 40's Vol.93 珍走

「首都高速トライアル」は30年近く前の私の映画デビュー作なのだが、ニッチな人気があり、未だにメッセージを頂くことも少なくない。役者が人生においてそういう作品に出会える確率はとても低く、本当にありがたい限りである。

同じようにVシネマシリーズ「湾岸ミッドナイト」でも、悪魔のZこと、キャブターボのS30で、撮影なのか趣味なのか分からないくらいに、トラストのVVCをひねりまくって飛ばした。

そのシリーズでは、調子に乗った挙句に、自前のフルチューンR32を出演させて、湾岸でドーンと撮影などもした。

今の芸能界は刑事ドラマでも、役者には10メートルすらクルマを運転させないのが普通だ。また若い役者で免許を持っていない輩も多い。

首都高速と湾岸を自分でカメラを回しながら「珍走」したなんて話など、無茶苦茶を飛び越して夢物語である。加えてそれなりのギャラも貰っていたのだから良い時代であったと言うしかない。

そんな私だが、実は四輪のストリート系に対して、今現在はあの頃のような情熱は持っていない。当然そこに湯水のようにお金を注ぎ込む気もないし、極端に言うと速いクルマに乗る気もない。

もし石油王のタニマチが誕生プレゼントにパガーニ・ウアイラをくれると言っても、パガーニで飲みには行けないから、同じ値段のクルーザーにしてくれと言うだろう。それくらいハイパフォーマンスカーに対して興味を失っている。

スピードが怖くなったのかと問われれば否だ。つい最近もバイク雑誌の取材でヒザスリもしたし、オフロード雑誌では二輪ドリフトからウィリーと、カッコいい記事にするためには何でもする。

50歳手前でそんなことをしているのだから、大人になったことが速いクルマは要らないという理由ではないだろう。

ではそんなスピード愛好家の私が何故ハイパフォーマンスカーに興味がなくなったか。理由は簡単だ。私はあの時代にストリートで感じた、意味もなく楽しくてヤバくてときには逃げたしたくもなるような、あの感覚を大事に持ち続けていたいのだ。

しかし全てがハイテクに管理された今の東京では、その感覚を味わおうとしたら社会から排斥されることになるだろう。もうこの東京にはあの時代のあの感覚を受け止めてくれるような「空地」は残っていない。時代自体もそういう「」を笑い飛ばしてくれる器も持っていない。

私自身でさえも、動画投稿サイトなどで見る湾岸や首都高速の暴走チューニングカーなどの映像を見ると、違和感を感じざるを得ない。決してそこに憧れもしない。

当時、似たようなことをしていた連中もいたが、記憶に残っている彼らは、今のネットに溢れている「珍走映像」とは何かが違う。私たちが感じたような、真夏の夜のゾクゾクするエンジンが焼けた匂いがしない。

おそらく「珍走」と世の中の距離感が変わったのだろう。あの頃の私たちは、外部の目から逃れるためにクルマを改造して腕と感覚を磨き、あの「珍走」の世界に向かった。そして東京という現実にも、そんな輩たちが遊べる、物理的、概念的なデッドゾーンが残っていた。

私が若い頃、夜などは誰も走っていない出来たばかりの首都高速を飛ばしまくった話をよく聞いた。更に遡り、戦後などは少し郊外の道に行けばサーキット紛いの事が出来たとも聞く。

まさに夢物語だ。つまりそれと同じような時代のシフトが今も起き続けているのだろう。

過去を振り返り、あの頃は大らかな時代であったとよく言うが、ハイテクとネットワーク社会により、最も大らかさが失われたのが今現在だ。交通に限らず、全てが相互監視社会である。

駅前を歩いているだけでもあらゆるところから監視カメラに撮影され、SNSという地引網に引っかかる。ただそれが悪いこととは思わない。そういう時代になったという現実があるだけである。

昔からよく「走りたいならサーキットに行け」と言われる。だが私は、サーキットを走ることは多々あるが、サーキットが好きかと聞かれたら、そんなに好きじゃないと答えるだろう。

仲の良い有名レーサーもいるので軽はずみなことは言えないが、同じところをグルグル回るのは、魔女に魔法をかけられ、競馬場のサラブレットになってしまったようで息苦しい。シマウマのように自由に走り回りたいのだ。

40代になって二輪オフロードに15年ぶりに復活して、昔より深く入り込んでいるのは、二輪オフロードと社会の間には、まだまだ戦後の交通事情くらいの距離感があるからだと思う。趣味人口も極端に少なく、秘密基地を取り合うことも滅多にない。

「一つも面白くないから、二輪オフロードなんて、絶対にやらない方が良い、絶対に退屈する」

面白そうですねと聞かれたら、いつもそう答えることにしている。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
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