若林葉子 VSまるも亜希子 オンナにとってクルマとは 番外編

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本誌で「オンナにとってクルマとは」を執筆してくれている、まるも亜希子さん。

そんなまるもさんと本誌・若林が一緒に、横浜のみなとみらいへ。

女性の視点から見たクルマにまつわるあれこれで話は盛り上がりました。

構成:若林葉子 photo:菅原康太 [aheadアーカイブス vol.122 2013年1月号]
若林 2012年11月号で、三菱ミラージュのカラーデザインをテーマに、三菱の開発チームの女性たちにお会いしたでしょう。

まるも 取材というより座談会みたいになって、盛り上がったねー。

若林 カラーデザインを担当された安井智草さんは、結婚もされていてお子さんもいらっしゃるそうで、ごく普通の一生活者という感じの方だった。ほら、カタカナの職業って華々しい感じがするじゃない? でも彼女は浮わついたところが全然なくて、本当に真摯に仕事に向き合っていらした。それをすごく心強く感じたの。うまく言えないんだけど、女性の暮らし、女性の嗜好、女性の気持ちを、自分たちと同じ一線上にいて本当に理解してくれている人が、クルマ作りの一線にいてくれるというのかな。

まるも うん、私もすごくそう思った。というのはね、私はフリーになる前にクルマ雑誌の編集者だった頃から数えると、もうクルマ業界に入って15年になるんだけど、以前は自動車のデザインや開発をやっている女性と話しても、どこか噛み合わないところがあったの。というのは、やっぱり男性社会の中で頑張っている女性が多いから、考え方や言葉が男性的というか、「私は男性に負けないように働いてます」ってオーラが出てた感じなんだよね。でも近頃はそうじゃなくなった。男性と張り合うんじゃなくて、ちゃんと〝女性として〟クルマづくりに参加してるんだな、と感じるの。時代も変わってきたんだね。

若林 一方で、P41で紹介したFIAT500 ABARTHの話もあって、アバルトの購入者の1割が女性っていうのもすごいと思わない?

まるも ほんとほんと。あのクルマ、マニュアルしかないのにね。しかも、まったく女性ウケを狙ってつくったクルマでもない。

若林 そうなのよ。恐らくデザインに惚れ込んだということなんだろうけど。自らの意志で自分の好きなクルマを選んでいる女性たちが確実に存在しているということで、それも決して少ない数ではない。

まるも そういう意味では今、ちょっとしたきっかけさえあれば、女性の方が俗にいう重クルマ好き〟になりやすいのかもしれない。「どうしても乗りたい」って思うクルマができたら、AT免許をMT免許に変えてまで乗るっていうね。男性はもう、クルマ好きとそうでない人の二極化が激しいでしょ。それに新しい技術に対してけっこう否定的な人も多い。なんでもかんでも電子制御なのが気に入らない、とかさ。

若林 作り手側にも女性が増えて、いつの間にかクルマ好きの女性が多くなっていくことに対して、男性はちょっとした焦りがあるのかも…。どこかで聖域を守りたい、と。

まるも そもそもクルマは男性が創り出したものだし、長いこと男性主導で進化してきたものだからね。まだどこかで、〝女どもにクルマが分かるわけない〟と思ってるフシはあるよ。でも、もしクルマを女が発明していたら、ハイヒールでも安全に運転できるとか、ギアチェンジもダイヤル式で指先だけでできるとか、ぜんぜん違ったシステムになっていたと思うのね。だから今、女性は男性に都合よくできてるクルマを必死で上手に運転しようと努力しているわけなのよ。

若林 かもね。私、一度、MTを運転しているときに、高速道路の事故渋滞に巻き込まれて、足がつってエンストしたことがある。クラッチが重かったのね。女の私には踏力がついていかなかった。

まるも 私もあるよ。今でも、仕事で1日中MTに乗ってるとふくらはぎが筋肉痛になることあるしね。だから愛車のCRーZはMTモデルじゃなくて、ATモデルを買ったの。それなのに、「MTを買わないなんて邪道」みたいなこと言うクルマ好き男性の多いこと多いこと。もう、世の中とズレすぎてるよね。私は、今はもうMTは趣味の領域で、そもそもATと比較して論じるものではないと思うのね。ラインアップにMTがあるからいいクルマだ、ということでもない。

若林 それに女性がメカに弱いのは確かだけれど、メカが分からないからと言って、必ずしも運転が下手なわけでもない。であるにも関わらず、男性だけじゃなくて女性自身も、オンナにはクルマが分からないと思っている節がある。実は私もそうなんだけど、自分の判断基準にどこか自信が持てないのよね。でも理屈で分かる分からないという以上に、乗って感じる「好き・嫌い」にこそ、女性ももっと正直であるべきだと最近は思う。自分の感覚や感性に合うかどうか。自分が本当に感じたことなら、堂々と発言すればいいわけだし。

まるも 本当にそう。女性でいちばんいけないのは、「みんながいいって言うから、みんなが乗ってるからいいクルマなんだろう」と決めつけること。人それぞれ、合うクルマやいいと感じるクルマは違って当たり前でしょ。メカなんて分からなくても、乗って感じることの方が大事だよね。



若林 クルマをめぐる環境で、もうちょっと女性の気持ちを考えてくれたらいいのになぁって思うことはない?

まるも いっぱいあるよ! 例えばいまだにガソリンスタンドで「水抜き剤が入ってませんよ」って言われること。入れなくてもべつに問題ないのに、女性の不安を煽るようなやり方ってどうなのって思う。これって完全に、女性の弱点に付け込んでるわけでしょう?  まぁ、それもこれも、「オンナはクルマが分かってない」と思われてることが問題なんだけどね。私たちももっともっと勉強しなきゃいけないんだよね。

若林 まぁ実際、私もメカ弱いし…。実は少し前にクルマに異音が出て、ディーラーで見てもらったの。で、フロントの人に、「できれば受け取る際、メカニックの方からお話が聞きたいんですけど」って言ったんだけど、完全無視された。「ワタクシが承ります」と一言。できるだけクルマの状態をきちんと把握しておきたい。分からないことは聞きたい。安心して乗りたい。それだけなのに。実際には大きな故障ではなかったから、その「ワタクシ」でも問題なかったんだけど。

まるも もちろんディーラーにはちゃんとマニュアルがあって自由にはできないんだろうけど、ちょっと損してるよね。私もあるクルマを買うときに、「この色がいいです」と言ったら、「白だったらすぐご用意できますよ」と白を押された。でも全然そういうことじゃない。

若林 白ならいらないのよね。

まるも ディーラーの押しが強いから買うのをやめたって友だちもいる。

若林 私の妹もそう。クルマを買い換えるとき、私が勧めたクルマAと、トヨタのクルマのどちらにしようかと迷っていた。そしたらAのディーラーの担当者がやる気満々の人で、そこまでは良かったんだけど、土曜日に家まで押し掛けてきて怖いって。結局トヨタのクルマにした。とにかく押しの強いことを女性は嫌がるわよね。

まるも 男性はそれでも、このクルマが好きだからって、そこは大目に見てくれるけど、女性は厳しい。洋服でも何でもそうで、店員が嫌だとそのお店では買わない。嫌なことがあった店には二度と行かない。

若林 一方で、ディーラーでいい人に巡り合ったら、本当に心強いよね。私は幸い、ディーラーじゃなくても周囲にいろんな人がいてくれて、クルマを維持していく環境は整っているけれど、もし今の仕事をしていなかったとしたら、やっぱりディーラーの方が頼りだものね。ルーテシアに乗ってるとき、いろいろあって、結局購入店には買った時だけしか行かなかったけど、小平のディーラーの方には最後の最後まで親切にしてもらって、今でも感謝してる。

まるも ディーラーというか、やっぱり最後は「人」なんだよね。自分たちの利益じゃなくて、乗る人の気持ちを本当に理解してくれる人からクルマを買うことが、いいカーライフのスタートと言えるからね。いずれにしても、気持ちよくクルマに乗り続けるためには、構造を知るとか、運転について勉強してみるとかいう女性側の努力も必要よね。「正しいポジションでクルマに乗る」だけでも、随分運転がしやすくなるもの。

若林 そうね。造る側、売る側、乗る側。三者がそれぞれに努力すれば、まだまだ良くなっていくわよね。



若林 ところで、まるもさんはクルマのどんなところが一番好き?

まるも 一人になれるところ。

若林 即答…。

まるも これはね私の家族形態に関係があると思うんだけど、3人姉妹だったから、いつも賑やかで、ずっーと自分一人の部屋がなかったの。それが大学に通うために初めての愛車を持ってみたら、「ひとりになれるじゃん」って。

若林 2011年の3月号「MY DRIVING PRESURE」で書いてもらった文章で、まるもさんは「一人旅というものをしたことがなく、したいとも思わない私が、ドライブだけはひとりが好きだ。私はドライブ中に余計な言葉を吐きたくないし、無理して笑いたくないし、興味のない話を聞きたくない」って書いているのね。それがすごく印象的で。まるもさんにとって、クルマが本当にかけがえのない存在なんだということが分かった。だいたいまるもさんって、すごく人に気を遣う人だから。

まるも そうなの。忙しい時期になると、一日中飛び回って、いろんな人に会って、刺激も受けてるんだけど、気も遣ってるのよね。だから仕事が終わって、クルマのシートに座った瞬間に「はぁー」って、もう脱力。それでようやく一人になって運転しているとすごく癒される。それはね、私たちみたいに仕事をしている女性だけじゃなくて、お母さんたちだってそうだと思うの。朝、子どもたちを送り出した後の少しの時間に、ちょっとクルマで出掛けたりするだけで、いい気分転換ができるんだよね。

若林 束の間でも家事とか育児とかから解放されて、誰にも気兼ねなく、素の自分になれるものね。

まるも クルマはさ、とにかく自分の好きなときにすぐ動けるでしょ。思い立ったら即。これができるのが素晴らしい。そこがレンタカーとの一番の違いかな。

若林 それに素でいられるためには、ハザードだったり、クラクションだったり、頭で考えるより先に必要なときに必要な動作がすぐにできなきゃダメだし、私の場合だと、いつもの音楽やいつものブランケットがそこにある、ということがとても大事。こう見えて神経質なところがあるから、自分のクルマであるということは、私にとってはけっこう重要。

まるも 〝自分のクルマ〟っていう感覚はすごく不思議なんだけど、多分、誰にも見せない本当のありのままの自分をいつも見せてるから、そのクルマは〝自分のクルマ〟になっていくと思うんだよね。例えばそれはちょっとした舌打ちだったり、あるいは泣いている自分だったりも含めてね。

若林 攻撃的な自分や、弱い自分。私はね、完全に私的でもなく、完全に公的でもないというところが、クルマのいいところなのかなぁって常々思ってるの。電車や飛行機は完全な公的空間。さすがにそこで泣いたり歌ったりっていうのは憚られる。一方、クルマは空間としては私的なんだけど、社会から完全に切り離されているわけじゃない。辛いことがあって泣いていたとしても、アクセルは踏まなきゃいけないし、信号も変わる。それがどん底までひきずられるところから救ってくれているような気がするの。ひとりになれるけれど、孤独にはならない、というか…。

まるも そうそう。私も完全に〝孤独〟ってのはイヤなんだよね。勝手だけど。彼氏とか親友とか、心から分かりあえてる人とのドライブは、それはそれで心地いいしね。そう考えるとクルマって、普段なら良いことも悪いこともズカズカと心に踏み込んできちゃうところを、ちょうどいいフィルターとかポンプの役割をしてくれる気がする。吐き出したいことは一気に出せて、良いことはスーッと心に広がっていく。だからね、私、海外でも自分のクルマで走れたらいいだろうなって思うの。旅の思い出を、何倍も濃く鮮やかに心に刻めそうで。

若林 分かる分かる。国内はフェリーをうまく使ったりすれば、どこへでも行けるものね。海外も自分のクルマだったら、どんなに充実した旅ができるだろうって思う。

まるも そんなことも実現させていきたいね。

若林 何ごとも本気で願えばきっと叶うわよ。それが女性の強みでもある。
クルマの好き・嫌いにもっと正直でありたい。

誰かがいいというのと、自分がいいと思うことは別。

大事なのは自分に合うかどうか。


ひとりになれる。

でも決して孤独ではない。

クルマは、緩やかに外界とつなげてくれる。
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