女性がモータ ースポーツをするということ

アヘッド 女性がモータ ースポーツをするということ

女性がモータースポーツを するということ

腰山峰子さんは、本誌にも何度か登場していただているが、伝説の女性ライダー、堀ひろ子さんの相棒として彼女と友情を分かち合った人である。今は関西を中心にオートバイのレースに参戦したり、若い女性ライダーをサポートしたりしながら、モータースポーツに関わっている。彼女自身、F1ドライバーになるのが夢だった、と聞いていたので、今回、思い切って声を掛けてみたのだ。

クルマでのレースはほぼ初めて、袖ヶ浦フォレストレースウェイも初めて、私と組むのも初めてということで、気も遣い、緊張もし、大変だったと思うのだが、クルマのトラブルもなく、二人で4時間を走りきった。

結果はともかくとして、私が最も感心したことは(予想通りでもあったのだが)、誰に何を言われるまでもなく、わずか2週間ほどの間に、峰子さんが一人で完璧にこのレースの準備を整えていたことだった。レーシングウェア、レーシングシューズ、四輪用フルフェイス・ヘルメット、グローブ(マル耐のレギュレーションでは長袖・長ズボンOK、レーシングウェア等は推奨となっている)。

それから参加申込みに必要な情報などを、私が問い合わせる前に連絡してくれたし、「タイヤ代などは現地で清算させてくださいね」と先んじて言ってくれたし、当日の練習走行の申込みや費用の振込もさっさと済ませてくれていた。つまり、レースには費用も含めて何が必要かを全て把握し、それを自分で負担し、準備するのは当然という前提で動いているのだ。

もちろん、レース歴が長いから当然なのかもしれないが、最初から、必要なコストやリスクを引き受けようとする姿勢の人だからこそ、長い間続けて来られたのだと思う。

私たちがこの耐久レースを走っている同じ日、折しも筑波サーキットではロードスター・パーティレースの最終戦が開催され、このレースで初めて女性がクラス優勝し、表彰台にあがった。小松寛子さんだ。予選でポールを取り、そのまま決勝も順位(NC1―Sクラス)を守りきった。後日、電話をしてみたら、「なんか優勝しちゃいました。まだ実感ないんですよ」と嬉しそうに話してくれた。来年、発売が予定されている新型ロードスターNDの購入も決めていて、レースを続けて行くとのことだった。

普段の小松さんは、肩肘を張らない、いい意味でいたって普通の女性だ。当然だが、仕事をしながら、週末にサーキットで練習をしたり、レースに出たりしている。

そう言えば、2012年にモンゴルラリーにオートバイで出場し、完走を果たした陣内みさきさんは、今は九州の福岡で自ら歯科医を開業し、院長として医院を切り盛りしている。開業に当たってはそれなりの資金も必要だ。銀行との折衝、場所の選定、工事に当たる職人さんとのやりとりなど、すべてをこなしたのだから大したものだ。そして今でも、休みの日には林道を走り、可能な限りラリーのイベントにも参加している。

アマチュアであっても、モータースポーツで結果を出したり、長く続けようとすれば、いや、ただ楽しむために走るのであっても、受け身であっては絶対に無理なのだ。オートバイやクルマで速く走れる、という才能があってさえ、難しい。

モータースポーツにはお金が掛かる。リスクも大きい。それを受け入れた先に、自分に足りていないものを知り、自分で解決できないことは、お金をかけて人に頼む、あるいは誰かの力を借りる。自分を客観的に見つめ、必要な環境を整える。人間関係の構築、お金のやりくり、時間の捻出。社会の中で必要とされるものは、モータースポーツでもやはり必要条件なのである。

前述の腰山峰子さんは、普段は会社の経営者でもある。彼女のバランス感覚の良さや、人を包み込む器の大きさは、元々の性格に加え、仕事によって培われたものであるに違いない。

結局、趣味といえども、それは仕事や生活と切り離して存在するものではない。仕事や生活というベースがあってはじめて趣味は可能となり、趣味で得たものがまた仕事や生活を豊かにする。趣味が深まれば、それは趣味の域を超えて、その人自身と不可分なものとなるのだ。

モータースポーツは女性のハンデが極めて少なく、男性と互角に闘える数少ないスポーツであると言われている。しかしやはり、男性社会の中で女性が同等に力を発揮するのと同じくらいには、強い意識が求められる。そうしてようやく、そのフィールドで男性からも「同じ仲間」として受け入れられるのだ。それだけに、自分の定めた目標を少しずつでもクリアしたり、何らかの結果を出すことができれば、男性よりハードルが高い分、大きな自信を手に入れることができるだろう。

その昔、モンゴルラリーの主催者である山田 徹さんがこんなことを言っていた。「もっとたくさんの人が出場できるように、レギュレーションや費用などモンゴルラリーのハードルを下げてください、と言われることがよくあるんです。でもね、僕はそれは違うと思っている。高いハードルを超えてその場に来た人でなければダメなんです」

今ならその言葉の意味がよく分かる。︎

一方で、丸山 浩さんのように、↘︎初心者にもレースの醍醐味を味わってもらえるように、と工夫を重ね、マル耐のような「レース形式の走行会」を主催する方もいる。実際、マル耐は何人で参加してもよく、クルマごと交代してもよく、マシンのレギュレーションもガチガチにはしていない。7回目を迎える今も、参加者には毎回ブリーフィングで、「慣れている人は初心者に対して無理な追い抜きなどをしないように」と言い続けている。そのせいか、皆とても紳士的で、パッシングをされたり、真後ろにぴったり付かれたりということはなく、楽しめた。

主催者の努力によって実現しているマル耐のようなレースが今後もなくならないように、初心者は、初心者の立場に甘んじないように準備をしなければならないと思う。

かつて堀ひろ子さんが自ら立ち上げた女性だけのバイクレース「パウダーパフ」を解散したときの言葉を私たち女性は忘れてはいけない。

『これだけのおぜん立てをしなければ集まらないようなレースなら、つづけても無意味だと思ったからだ。レースは各人にヤル気がなければできるものではないし、安易な気持ちで参加することは、とても危険だ。そこでは男も女もないはず。女だからといっていつまでもぬるま湯につかり、そういう環境が保証されなければつづけることができないのならやめるべきだ、と考えた』

私自身、振り返るのも恥ずかしいほど甘々な人間だった。周りに叱られたり、痛い目にあったりするうち、少しずつレースに参加することがどういうことなのかを理解するようになった。ある意味、レースによって鍛えられたのだ。

このページは「女性がモータースポーツをするということ」というタイトルだが、もはやこのタイトル自体が時代に合わないなと思い始めている。男性の真似をしたり、男性と同じようなことをする必要はないが、女性だからという発想を超えたところがスタート。

峰子さんのようにモータースポーツに関わりながら実生活でも輝いている女性に接するたび、自分もそうなりたいと思わずにはいられない。

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