リトラクタブルヘッドライトとは?歴史から廃止理由、維持方法まで徹底解説

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最近の車ではほとんど見かけなくなったリトラクタブルヘッドライト。

昭和〜平成初期にかけて多くのスポーツカーで採用され、一世を風靡したこのギミックですが、一体どのようなものかご存じでしょうか?

本記事では、リトラクタブルヘッドライトの基本的な仕組みや歴史的背景、廃止に至った理由、さらにはオーナー向けのメンテナンス方法までを網羅的に解説します。自動車初心者にもわかりやすく説明し、愛好家もうなる知的好奇心を満たす内容を目指しました。

これを読めば、リトラクタブルヘッドライトについて 「知りたいことはすべてわかった!」 と言えるようになるでしょう。

CARPRIME編集部

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Chapter
リトラクタブルヘッドライトの仕組みと目的を徹底解説
リトラクタブルヘッドライトの誕生から普及までの歴史
​​リトラクタブルヘッドライトのメリットと魅力を深掘り
リトラクタブルヘッドライトが廃止された理由とデメリット
空力・走行性能面でのデメリット
複雑な機構によるコスト増と信頼性低下
歩行者保護など安全面での課題
規制緩和とライト技術進化で役割が縮小
その他の廃止要因
リトラクタブルヘッドライトの現状評価と復活の可能性
リトラクタブルヘッドライト車のメンテナンス&故障対策ガイド

リトラクタブルヘッドライトの仕組みと目的を徹底解説

リトラクタブルヘッドライトとは、必要なときだけ車体から現れ、不要なときは格納できる可動式のヘッドライトのことです

日本語では「格納式前照灯」とも呼ばれ、愛好者の間では略して「リトラ」と呼ばれることもあります。通常の自動車のヘッドライトは車体前部に固定されていますが、リトラクタブルヘッドライトの場合、ライト非点灯時にはボンネット内部などに隠れており、ライトを点灯する際に機械的にポップアップ(露出)して前方を照らします。

英語では Retractable Headlights(引き込み式ヘッドライト)とも表記され、文字通り「格納できる前照灯」を意味します。


この機構により、ライト未使用時にはフロントノーズを低く滑らかに保つことが可能です。ヘッドライトを隠すことで空気抵抗の低減やデザインの自由度向上といったメリットが得られる点が発想の背景にあります。

特に車高の低いスポーツカーでは、固定式ライトだと灯火の最低地上高を確保するためライト位置が高くなりがちですが、リトラクタブル式なら走行時はライトを隠してノーズを低く保つことができます。必要な時だけ規定高さまで持ち上げて点灯できるリトラクタブルヘッドライトは、空力性能と法規制の折り合いをつける解決策として考案されたのです。


なお、リトラクタブルヘッドライトにはさまざまな形式があります。
一般的なのはライトユニット前端をヒンジで持ち上げる「ポップアップ式」です。一部にはライトの一部だけカバーで隠す「セミリトラクタブル式」も存在しました。例えば初代ホンダCR-Xやいすゞピアッツァではライト上半分だけを覆うセミリトラクタブル式が採用されています。

リトラクタブルヘッドライトの誕生から普及までの歴史

リトラクタブルヘッドライトの歴史は意外に古く、実は1930年代まで遡ります。
世界初の採用例とされるのは、1936年型コード810/812(米国・Cord社)です。独立フェンダーの頂部にライトを格納する大胆なデザインで、当時としては画期的なスタイリングでした。しかしこの試みは当時は珍しく、戦後しばらくは大きな流行には繋がりませんでした。


本格的にリトラクタブルヘッドライトが脚光を浴び始めたのは1960年代以降です。
イギリスのロータス・エラン(1962年)などが初期例として知られています。そして、日本車での初採用は1967年発売のトヨタ2000GTでした。トヨタ2000GTは極端に車高を低くした美しいクーペボディが特徴で、当時の保安基準では固定式ヘッドライトを所定の高さに収められなかったため、必要時にだけ露出するリトラクタブル方式が採用されたのです。

この日本初のリトラクタブル車である2000GTは少量生産車でしたが、その流麗なフォルムは世界的にも評価され、映画『007は二度死ぬ』で主人公ボンドの愛車として登場したことでも有名です。


1970年代後半になると訪れたスーパーカーブームにより、リトラクタブルヘッドライトは一躍スターダムにのし上がります。

1970年代中盤には、例えばフェラーリ・365GT4BB(1973年)、ランボルギーニ・カウンタック(1974年)、ロータス・エスプリ(1976年)といった世界の名だたるスーパーカーが次々とリトラクタブル式ライトを採用しました。ライトスイッチを入れると「パカッ」とライトが起き上がる様子は子供たちを魅了し、「かっこいい車の象徴」の一つだったのです。

日本国内でリトラクタブルヘッドライトが本格的に普及し始めるのは、そのスーパーカーブームの影響もあった1980年代です。

1967年のトヨタ2000GT以降、しばらく国産量産車での採用はありませんでしたが、その口火を切ったのが1978年登場のマツダ・サバンナRX-7(初代)でした

RX-7は「和製スーパーカー」と称されるほど人気となり、以降リトラクタブル採用車が国産でも一気に増えていきます。例えばホンダ・プレリュード(2代目1982年)、日産・シルビア/ガゼール(S12型・1983年)、三菱・スタリオン(1982年)など、1980年代前半から中盤にかけて国内メーカー各社が競うようにリトラクタブル車を投入しました。

1983年にはトヨタ・セリカがマイナーチェンジで固定式からリトラクタブル式に変更されるなど、「人気車の証=リトラクタブル搭載」という時代でもあったのです。

こうした流れで1989年頃には国産車だけで20車種以上ものモデルがリトラクタブルヘッドライトを採用するまでに至りました。

スポーツカーのみならず、ホンダ・アコードやトヨタ・カローラII、マツダ・ファミリア(アスティナ)といったセダン/ハッチバックまで採用した例が現れたことからも、このギミックの当時の人気ぶりが伺えます。子供向けの自転車にまでリトラクタブル風のライトが付いた商品があったほどで、まさに空前のリトラブームでした。

​​リトラクタブルヘッドライトのメリットと魅力を深掘り

これほどまで人々を惹きつけたリトラクタブルヘッドライトには、どんな魅力があったのでしょうか。

まず第一に挙げられるのがデザイン上のメリットです。ライト未使用時にヘッドライトを車体内に隠せるため、ボンネット先端を低く滑らかにデザインできます。空気抵抗の削減につながり、高速走行時の安定性向上や燃費面の利点も期待できました。

実際、「ヘッドライトの位置は地上から○○cm以上」といった法規制(例:かつてアメリカの連邦保安基準ではヘッドライト高さを地上24インチ(約61cm)以上と定めていた)を満たしつつ低いノーズを両立させるには、走行中にライトを収納するしかなかった背景があります。リトラクタブルヘッドライトはデザイナーたちにとって、スタイリング自由度を飛躍的に高める画期的な仕掛けだったのです。


次に、視覚的なインパクトや所有する喜びも大きな魅力でした。ライト点灯時にカバーが「パカッ」と開いてヘッドライトが姿を現す動作には、機械的な面白さやサプライズがあります。

当時の若者にとって、夜にリトラクタブルライトの車がウインクするようにライトを上げ下げする様子は痺れる格好良さでした。「ライトが閉じている時はクールで滑らかな顔つき、開くと精悍な表情に変わる」- 一台で二つの表情を持つような演出性に惹かれるファンも多かったのです。


また、所有欲を満たすギミックでもありました。単に速いとか高性能というだけでなく、「自分の車には隠しライトが付いている」という優越感や遊び心を感じられるポイントでした。

当時はカスタム文化の中で、リトラクタブルライトを半開き状態にして少し眠たそうなスリーピーアイにする改造も流行しました。ライトポッドを意図的に途中までしか開けず独特の表情にするこのカスタムは機能性はないものの、「とにかく見た目がイカしているからやる」という若者もいたほどです。


総じてリトラクタブルヘッドライトは、性能面の合理性と遊び心あるデザイン性を兼ね備えた存在でした機能的メリット(空力向上)と情緒的価値(カッコよさ・所有満足感)の両方を提供してくれる点こそ、多くの車好きに愛された理由と言えるでしょう。

リトラクタブルヘッドライトが廃止された理由とデメリット

空力・走行性能面でのデメリット

リトラクタブル式はライト展開時に車体からライトが突起するため、空気抵抗が増大します。高速走行時にはこれは無視できないマイナスで、折角ライト非点灯時に空力を稼げても、点灯時に抵抗が大きくなるというジレンマがありました。

また、開閉機構を組み込むことで部品点数が増え、どうしても車両重量が増加してしまいます。

複雑な機構によるコスト増と信頼性低下

リトラクタブルヘッドライトにはモーターやリンク機構など可動部品が必要で、構造が複雑になります。その結果、製造コストの上昇や故障リスクの増加は避けられません

歩行者保護など安全面での課題

対人安全性の観点でもリトラクタブルは不利でした。歩行者と衝突した際、展開したライトの角が歩行者に重篤な傷害を与える恐れがあるためです。さらに極寒時に凍結してライトが開かない可能性や、事故で機構が損傷してライトが点灯しなくなるリスクも指摘されました。

規制緩和とライト技術進化で役割が縮小

1980年代中盤以降、ヘッドライトを取り巻く環境が変化しました。米国では1984年に保安基準が改定され、規格外形状の異形ヘッドライトが解禁。さらに90年代以降はプロジェクター式やHID、LEDヘッドライトなど小型でも明るいライト技術が実用化され、固定式でもデザイン自由度の高い薄型ライトが作れるようになりました。

その他の廃止要因

地域によっては日中のライト常時点灯義務(デイタイムランニングランプ)も影響しました。また、1998年の外装突起物に関する世界技術規則の調和などにより、可動式ライトの採用はますます難しくなりました。

リトラクタブルヘッドライトの現状評価と復活の可能性

リトラクタブルヘッドライトが廃れて約20年が経ち、現行の新車でこの機構を採用したモデルは皆無となりました。それでは、この“隠しライト”が未来に復活する可能性はあるのでしょうか?

結論から言えば、一般的な市販車に再びリトラクタブルヘッドライトが採用される可能性は極めて低いと考えられています

最大の理由は前述した安全規制です。もっとも近年のコンセプトカーでは、2023年のマツダ「Mazda ICONIC SP」が小型リトラクタブルを備えて現れ話題をさらいました。量産化の壁は高いものの、「カッコいいから」という純粋な理由で再び姿を見せることもあるかもしれません。

リトラクタブルヘッドライト車のメンテナンス&故障対策ガイド

  • ライトが動かない時のチェックポイント

    ライトが片側だけ開かない・閉じない場合、まずヒューズ切れを疑います。ヒューズに異常がなければモーター内ギア欠けや配線の接触不良が代表的原因です。
  • 応急処置と故障予防のコツ

    多くのリトラクタブル車にはモーター部に手動開閉ノブが備わっています。いざという時には手でライトを持ち上げられるよう、取扱説明書を確認しておきましょう。月に一度程度はライトを開閉して固着を防ぎ、リンク機構に潤滑剤を差すと良好な動作を維持できます。
  • 光量アップ・改造の注意点

    標準ライトが暗い車種ではLED/HID化やプロジェクター化で視認性を向上できますが、発熱や筐体サイズに注意が必要です。また、日産180SX→シルエイティへの転換のように固定ライト化キットでリトラを廃する手段も存在します。
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